観光庁は、『日本の観光、やります!』と銘打った観光地域づくりシンポジウムを2013年11月28日に東京で開催した。地域の経済活性化の起爆剤として大きな期待が寄せられている観光地域づくりにおいて、2020年の東京オリンピック・パラリンピックや、訪日外国人旅行者数2,000万人の高みを目指すなか、どのような準備を進めていけばよいかをテーマに、有識者の話題提供とパネルディスカッションが行われた。
▼パネルディスカッション登壇者
(コーディネーター)
- 橋本 五郎氏 読売新聞特別編集委員
(パネリスト)
- 家田 仁氏 東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻 教授
- 田川 博己氏 (一社)日本旅行業協会副会長/ジェイティービー代表取締役社長)
- 江崎 貴久氏 三重県観光審議会委員
- 佐藤 義興氏 熊本県阿蘇市長
- 松本 志のぶ氏 フリーアナウンサー
- 久保 成人氏 観光庁長官
▼旅行者(traveler)から観光客(Tourist)へ
話題提供として登壇した家田仁氏は、「旅の本質:観光は若者に対して何ができるのか?」と題し、近年の旅の変質を指摘した。世界的に若者が旅行に出かけなくなっている傾向があり、これは観光業だけの問題ではなく、長期的には社会全体に影響を及ぼすことなのではないかとの仮説から出発、その原因を探っていった。
旅に期待された教育的意義を様々な文献からひもとき、旅が困難を伴うものであった昔は、世間を知り、自分を知り、人の情けを知るといった精神力や判断力を養うものであったと説明。現在でも、自転車の旅や登山など、挑戦から得られるものを求める旅もあるが、事前に多くの情報が得られ、移動や宿泊のインフラが向上した現代は、意図的に挑戦しなければ「旅」は暇つぶし以上になにも与えてくれない時代になったのではないかと指摘。旅行者(traveler)から観光客(Tourist)へと旅は変質したとし、旅の定型化、経験の希薄化を懸念した。
▼地域のオンリーワンブランドの創造を
田川博己氏は、「観光立国実現に向けたツーリズム産業の役割」と題して登壇。まず、日本のツーリズムの経済波及効果は世界に比べてまだ小さいとし、これからの日本、特に地方の観光業の伸びを期待できるとして、ツーリズムに関するメガトレンドとして以下を挙げた。- グローバルシフト
- デジタルシフト
- エクスペリエンス
中でもエクスペリエンス=リアルな経験は、観光にとって重要な要素であり、それを提供するのが観光立国を考える上で重要であるとした。しかし近年、観光地の均一化、金太郎飴化、家田氏が指摘した経験の希薄化が感じられ、それを脱却するには、その地域の文化を物語化する「五感に訴えるシナリオづくり」で、観光素材を開発する力が求められる。
そのためのキーワードは、「住んでよし 訪れてよしの地域づくり」であるとし、これからのデスティネーション・マネジメント・カンパニー(DMC)の重要性を指摘。地域とともに地域資源の魅力を再発見し、それに磨きをかけ、集客を促すことで、地域のオンリーワンブランドの創造ができるという。
また、2020年オリンピック・パラリンピック開催に向けては、ソフトインフラを「おもてなし」、ハードインフラの整備を「優しさ」と表現し、バリアフリーを含め優しさをもったハード整備で東京を地方や世界の都市づくりのモデルとすることができれば、日本の新しいホスピタリティが完成するのではないかとした。
▼ハード、ソフト両面から地域とともに推進を
当日のパネルディスカッションは、観光客を受け入れていくためのソフト面=「おもてなし」について議論。現在は気働きといった個人のスキルに頼っているのでこれを組織的に育成する必要性などが語られた。また、観光地では子供たちが元気に挨拶してくれるだけで歓迎されている気分になれる、などの意見がでた。
ハード面としては、特に外国人観光客から需要があるのはネット環境(Wi‐Fi)整備と日本円が引き出せるキャッシュディスペンサーの整備であると指摘がでた。そのほか、空港と都心を結ぶ道路の車線数の拡大や標識の多言語表記、2030年、2040年を見据えたバリアフリーの推進などがあげられた。