千葉千枝子の観光ビジネス解説(8)
より一層の特別感が求められるユニークベニュー
前回記事>>>
MICE用語のひとつ、「ユニークベニュー(unique venue)」とは、単なるコンベンション目的の専用施設とは異なり、人を多く集めることができる魅力ある建造物やパブリックスペースなど、参加する人たちにサプライズを与えうるユニークな会場をさす。決定権者(オーガナイザー)が開催地を決める際の、一つの大きな要素にもなっている。例えば、有名な博物館や美術館、城郭などを、コンベンションやイベント、レセプション、ガラディナーの会場にすることで、参加者の興味を惹き、より大きな感動体験を与えることができる。このユニークベニューに対して世界の潮流は、より一層の特別感が求められる傾向にある。
【世界の取組み】英国では五輪の20年前にすでに組織化
求められるユニークベニューの総合窓口
世界には、ユニークベニューの利用促進のためのワンストップ窓口となる公的団体が組織されている例が珍しくない。
オーストラリア・シドニーで60以上のユニークベニューを紹介する協会「シドニー・ユニークベニュー・アソシエーション(SUVA)」 は、カンファレンスやミーティング、セミナーだけでなく、ワークショップやウエディング、カクテルパーティーなど細かな用途にあわせた検索が可能なウェブサイトをもち、会員制をしいて最新の情報などを優先的にインフォメーションする。
イギリス・ロンドンのユニークベニュー検索サイト「Unique Venues of London(UVL)」も、ロンドン市内81のユニークベニューを一堂に集めたもので、そのコレクションをビジュアルも綺麗にまとめ、オーガナイザーの五感に訴える。
1993年に設立されたUVLは、2012年ロンドン五輪で大きな成果を上げた。五輪開催中の各スポンサー企業をホストするために、セントポール大聖堂やケンジントン宮殿、サマセットハウス、EDFエナジー ロンドン・アイなど多くの登録ベニューが利用された。
なかでも、スポーツゲーム初戦後の金曜と土曜、そして競技後となる遅い時間帯に需要があったという。首都開催ならではの強みと柔軟な対応力で、2020年に開催を控える私たちに、UVLの登録ベニュー活用例は学ぶところが大きい。
【日本の課題】急がれる国内ベニューの利用開放
国内ユニークベニューの情報整備や利用促進、利用開放は、今や喫緊の課題である。
日本では2013年、観光庁が音頭をとってユニークベニュー利用促進協議会が発足されたばかりだが、肝要なのは現場の声と法整備だ。
現状では、文化財保護法や消防法、またマーキーテントなど仮設に対する建築基準法、公園法、ケータリングに際する食品衛生法などの制限が障害となり、“ユニーク”といえるベニューの利用開放につながっていない。
ちなみに現在、JATA日本旅行業協会のホームページには、地域別・カテゴリー別でユニークベニューが検索できるよう情報が集約され、利用者に便宜がはかられている。年に一度、9月に開催されるJATA旅博(2014年より「ツーリズムEXPOジャパン」に催事名を変更)の前夜祭「TABIHAKU NIGHT 2013」が、芝・増上寺の境内で行われたのは記憶にも新しい。
また、再開発が進む大丸有地区(大手町・丸の内・有楽町)のシンボル・三菱一号館美術館では、2013年11月、観光庁が主催してユニークベニュー活用推進イベントが開催された。名画が展示された館内で、厳かに歌舞伎浄瑠璃が披露されるなどして、関係者を魅了した。
東京五輪まで、あと6年。関連する業界団体は、規制の緩和などを求める提言も活発化させている。監督官庁は、何より現場の声をよく聞いて、ときには法改正とトップダウンで、魅力ある国内ユニークベニューの品揃えを進めていってほしい。