トリプルライツ (TripleLights)
橋本代表インタビュー
オンライン旅行業界のトップが集結した「WIT Japan2014」の一環で行われたスタートアップ・ピッチ。そこで、最終選考に残った「トラベリエンス」は、旅行先の現地ツアーガイドと旅行者をつなぐマッチングサービスだ。今回は、そのサービスを提供する「トラベリエンス(Travelience)」を起業した橋本直明氏に注目。通訳案内士に着目して展開するビジネスを起業するに至った経緯とビジネスの展望を聞いた。
「学生時代の休みはほとんど海外に一人旅に出ていました」。そう話す橋本氏は、世界一周の旅の途中で訪日外国人旅行者向けガイドツアーの立ち上げを思い立ち、帰国後すぐに「トラベリエンス(Travelience)」を起業した。その1年後には、通訳案内士と訪日外国人旅行者をマッチングさせるサービス「トリプルライツ (TripleLights)」も立ち上げる。そのスピード感と機動力は、急拡大するインバウンド市場に呼応し、さまざまな可能性を生み出している。
▼満足度の高いガイドを求める「5つ星ホテル滞在者」
通訳案内士を活用、今後の旅行業登録も視野
「ガイドによって旅は楽しくもなり、つまらなくもなる」
自身の体験から、このことを海外で痛感した橋本氏は、まず予約なしの無料浅草ツアーを企画した。ターゲットは主に欧米人旅行者。ところが、浅草近辺のゲストハウスやホテルにパンフレットを置かせてもらい、毎朝近辺で声を掛けることもしたが、全く集客できなかった。「無料というのが逆に怪しかったのかもしれない」と振り返る。そこで、しっかりとコースを設定したグループツアーを造成。料金も設定した。さらに、柔軟にアイテナリーをアレンジできるプライベートツアーを、料金を高めに設定して加えた。起業して1年あまり、現在はオンラインで集客しているが、申し込みのほとんどがプライベートツアーだという。プライベートツアーでは、人気のグループツアー「Tokyo Traditions and Trends」と「Discover the Heart of Tokyo」をベースに希望を受け入れる。
両方のツアーとも面接で厳選した通訳案内士をつける。対象エリアは東京都内と箱根、日光など東京近郊に限るが、2013年3月のサービス開始から今年の6月まで約1600名を集客した。「今年の4月、5月は単月で200名強」(橋本氏)まで事業は成長している。
客層は、5つ星ホテルに滞在する医者、弁護士、大企業の役員などハイエンド旅行者が多いという。「意外にも、築地、明治神宮、浅草、渋谷の交差点などメジャーな場所が人気。それから、やっぱりみなさん寿司は好きですね。ファーストタイマーが多いのでしょう」と橋本氏。注目のスポットとしては、新しく新宿にオープンした「ロボット・レストラン」を挙げた。
現在、インバウンド向けツアーを造成するにあたって、宿泊や交通を含めなければ旅行業法が適用されることはない。通訳案内士が自家用車で移動する場合も、車代として課金しなければ可能というのが観光庁の見解だという。しかし、「第二種か第三種の旅行業登録は視野に入れている」と橋本氏は話す。「将来的には旅行会社としてアウトバウンドも手がけたい」と夢は大きい。世界一周の旅の途中で見つけたスリランカの「ある美しい場所」を気に入った橋本氏は、そこにバンガローを建てて、日本人旅行者を送客することも考えている。
▼ガイド・マッチングで世界を狙う
通訳ガイドの資格があるアジアから海外to海外へ
「通訳案内士のクオリティーにはこだわりたい」
橋本氏はトラベリエンス起業から1年で、新しいアイデアを具現化した。日本人通訳案内士個人と訪日外国人旅行者をマッチングさせる「トリプルライツ」だ。全国に散らばる通訳案内士をサイト上に集め、それを見た訪日外国人旅行者が個人でツアーを申し込む。ツアーの造成や料金設定は通訳案内士自身が行い、トリプルライツは成約ごとにコミッションを受け取る仕組み。通訳案内士の個人的魅力を伝えるために動画による自己紹介やブログを設けた。現在のところ、70〜80名が登録しており、英語、ドイツ語、スペイン語のツアーを提供。その数は日に日に増えているという。対象エリアは東京に限らず、大阪、京都、兵庫、愛知、奈良、神奈川、栃木なども含まれている。
「トラベリエンスと同様に通訳案内士のクオリティーにはこだわりたい」と橋本氏。個人同士のやり取りとなるマッチングについては、通訳案内士の資格を持っていることで、ある一定の質は担保されており、その先の人間性についてはユーザーに動画とブログで判断してもらうという考え。クレーム処理なども基本的には通訳案内士の役割になるが、トリプルライツとしても、質を保つために積極的に介在していく方針だ。
現在、日本の通訳案内士の有資格者は約1万8000名。実働数はもっと少ないと推測されるが、橋本氏は「それぞれの地域で10人ほどの通訳案内士を持ちたい」と話す。各県の通訳案内士団体にはこれからも積極的に声をかけていく考えだ。
橋本氏のトリプルライツに対する夢は大きい。「たとえば、宿泊仲介ならAirbnb、ドライバーと利用者とのマッチングならUberなどの名前があがるが、世界的にガイドのマッチングですぐに名前があがるところはない。そこを取って、トリプルライツを世界一のガイド・マッチング・サイトにしたい」。来年は、海外のガイドを集めて、海外to海外のサービスを始める計画だ。「まずは、通訳ガイドの資格のあるアジアの国から。そこから、ヨーロッパ、アメリカなどグローバルに広げていきたい」と未来図を描く。
現在、スタッフは21名。中国、アルゼンチン、フィリピン、カナダとさまざまな国籍・言語の人材が集まる。ターゲットになる国では、専門のマーケティングスタッフを雇う予定だという。
▼旅で地域活性化、地域の通訳案内士を巻き込んで全国へ
「地域と商店街を訪日外国人旅行者で盛り上げる。」
トラベリエンスでは、インバウンド市場で地域密着による新たな可能性も模索している。経済産業省のクールジャパン予算を活用し、浅草商店連合会と共同で「浅草フードディスカバリー」と称する食のパンフレットを作成した。また、浅草では、英語メニューの作成にも協力。ハラルやベジタリアン向けの食事を含めたツアー造りにも積極的だ。
「地域と商店街を訪日外国人旅行者で盛り上げる。地域の通訳案内士を巻き込んで、この動きを全国に広げられるのではないか」と橋本氏。「旅行業を取得すれば、地方と地方をバスで結んで、その区間で自由に乗り降りできるような相乗りツアーも造ってみたい。そこで、現地の通訳案内士を使って、食事をしてお金を落としてもらう」。旅行で地方を、日本を元気にする。今はランドオペレーターとして事業を展開しているが、将来的には旅行業としてビジネスを拡大していきたいと大志を抱いている。
- 取材、文/トラベル・ジャーナリスト 山田友樹
- 取材、編集/トラベルボイス編集部