茨城県が取り組む高付加価値化ツアー、「体験観光」の進化に向けて、3つのコンセプトで構成したツアーのナカミを取材した

2022年秋からデスティネーションキャンペーン(DC)を展開している茨城県。2024年の「茨城DC」では、2024年10月から12月にかけてラグジュアリーツアーを企画・実施した。国内外の富裕層を取り込もうとする意欲的な商品構成だ。茨城県が企画した高付加価値ツアーの見どころ、アクティビティを取材した。

富裕層向けに、3つのツアーコンセプトを設定

デスティネーションキャンペーン(DC)とは、JRグループ6社(北海道、東日本、東海、西日本、四国、九州)と地域(県や市町村、観光事業者)が一体となっておこなう、国内最大級の観光キャンペーンだ。開催期間は3カ月で、全国からの集客を目指す。

茨城県の対象期間は2023年10月~12月だった。2022年にはプレDC、2024年はアフターDCを実施。「体験王国いばらき」をキャッチフレーズに、複数年のキャンペーン活動をおこなってきた。2024年10~12月はラグジュアリーなスペシャルツアーも作り、茨城の食と体験をアピールしている。

茨城県観光戦略課では、2023年に造成したツアー商品の販売状況や、インバウンド受け入れ体制の構築、繁忙期の渋滞対策をしながら見どころをどうつなぐか、課題を検証。東京からアクセスがよく、食資源が豊富であること、四季折々の花の絶景が見られるという強みを踏まえ、3つのツアーコンセプトを決定した。

具体的には、ひたち海浜公園の秋の花・絶景「コキア」を独占するプレミアムヘリツアー、「食の宝庫いばらき」が提供するプレミアムグルメツアー、茨城ならではの日本文化体験「いばらき修行旅」である。ツアーの受託業者は2024年5月に選定。6~8月の3カ月間でツアー造成を完了した。

今回のツアー造成において、意識したのは国内外の富裕層の取り込みだ。「付加価値の高い観光コンテンツをツアーに組み込み、茨城県の体験観光に新しいムーブメントを起こすことを目的として取り組んでいる」(茨城県観光戦略課)。安い商品で数多く集客するのではなく、価値の高い上質なツアーを提供することで、ターゲットを明確にし、利益を生むサイクルを目指している。

ツアーの見どころ、特別な演出とは?

3つのツアーで訪問するのは、いずれも地元に根ざし、商品開発にひときわ工夫を凝らしている人々がいる場所だ。“茨城産”にこだわり、最高品質のものを届けようとしている。

ヘリツアーでは、国立ひたち海浜公園を訪れ、紅葉真っ盛りのコキアを鑑賞する3つのコースを日帰りで組んだ。丘一面を彩る赤いコキアは、全国的に人気の秋の絶景。シーズン中は周辺道路が非常に混雑するため、路線バスの運行ルートが変更されるほどだ。しかし、ヘリコプターでアクセスすれば、渋滞とは無縁。遊覧飛行も兼ねた効率の良い観光ができる。

実際、アフターDCとして2024年10月23日に1組限定で実施されたツアーがある。開園前の公園でコキアの景色をひとり占めして、トップバリスタが淹れる、世界一と言われるコーヒー「パナマ・ゲイシャ」を味わい、いばらきフラワーパークで花摘みとブーケ作りを体験、特別なランチも組み込んだ。

コキア目的の訪問客(2024年9月撮影)

講師が見本を見せる花摘みとブーケ作り

また、グルメを楽しむ「常陸乃国 極上グルメ堪能ツアー」は1泊2日の日程。まず木内酒造・八郷蒸留所でウイスキー製造工程を見学し、試飲を体験。いばらきフラワーパークでブーケ作り体験をおこなったあと、フルコースディナーを味わうものだ。園内のイルミネーションをバックに、バラに囲まれた特別席でディナーが食べられるのは、このツアーだけの演出だ。

2016年から本格的にウイスキー作りを始めた木内酒造

ツアーの宿泊は、亀の井ホテル筑波山のスイートパノラマビュー展望風呂付客室。2日目は、高級日本酒で知られる稲葉酒造を訪問。水と米にこだわり、手仕事で日本酒を作ってきた蔵元だ。同社の誇る日本酒と合わせた、マリアージュも楽しむ和食と寿司を提供する。

稲葉酒造では、それぞれの料理に合わせた日本酒を味わうことができる

本物に触れ、学ぶことができる修行コース

体験ツアーは2コース。笠間焼きと盆栽を、2泊3日でじっくりと修行する。

笠間焼は、笠間焼発祥の地と言われる久野陶園で体験。建物は増・改築がおこなわれてきたが、昔の職人が使っていた工房もそのまま残っている貴重な場所だ。ツアーでは土作りから、菊練り、ロクロなどを体験し、手びねりやぐい吞み作りをおこなう。

手びねりの実演。笠間焼発祥の地で

盆栽修行ができるのは、霞ヶ浦に近い阿見町にあるTree House Bonsai。創業者は埼玉県・大宮盆栽村の「蔓青園(まんせいえん)」で5年間修行を積んだアダム・ジョーンズ氏。2018年に日本盆栽協会から認定を受け、10年以上の指導経験を持つ。盆栽の鑑賞方法と手入れ方法、どのように造形するかなど、その説明はとてもわかりやすい。ツアーでは盆栽修行に加え、禅寺の訪問も組み込まれている。

まるで森の中の隠れ家のような盆栽園

これらのツアーは、2名からの催行で、旅行代金は2名1室1名あたり30万円台から。体験ツアーはマイカー利用のコースも設定され、1名10万円前半で参加できる。

DCで、茨城の魅力を再発見できたわけ

茨城県はキャンペーン実施に向け、まずは全国の旅行会社を対象に県のPR会議、現地視察会を実施した。その結果、東京から近いのに海や山、川、湖などの豊かな自然をもつというギャップ、それらの自然から生み出される食資源やアクティビティが充実していることが評価された。

茨城県の食材で作られた贅沢なメニュー

DC開始後、特に反響が大きかったのは、JR「大人の休日倶楽部」のテレビCMで映った笠間市の映像だったという。石庭を眺めるシーンが撮影された「笠間日動美術館分館・春風萬里荘」は、過去にないほどの訪問者を迎えた。

また、ロケーションにひと工夫を加えた企画も好評だった。「NIGHT WAVE」(大洗町)、「竜神大吊橋コタツで星空鑑賞ツアー」(常陸太田市)、「鹿島港ユーカリ号から見る工場夜景ナイトクルーズ」(神栖市)、「絶景×ヨガ体験」(県内各所)などだ。

茨城県はDCを通じて、茨城の観光ポテンシャルは十分であるという確信を得られたという。企画づくりは、各地域の人々と収益性や集客力向上のための意見交換をおこない、進めてきた。この取り組みの結果、各地域に観光資源の発掘とブラッシュアップのノウハウが根づきつつあり、モチベーションも高まっている。

ラグジュアリーツアーを企画・販売したことで、課題も見えたという。海外富裕層に届けるPRの難しさだ。県としては、見えた課題を解決しながら地域と連携し、高付加価値ツアーの振興に取り組んでいく予定だ。

取材協力:茨城県

取材・記事 小山田浩明

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