ホテルの新潮流「ライフスタイル・ホテル」とは? 外資系ホテルが次々に開業する狙いとサービスの特徴を解説【コラム】

東洋経済新報社の編集委員、山川清弘です。

記者時代から、ホテル・旅行系企業の取材を精力的におこなってきました。本コラムでは、この数年続いている日本国内での外資系ホテルの開業ラッシュの特徴といえる「ライフスタイル・ホテル」について考察します。

最近、日本国内で、日本初上陸となる新しいブランドが多く登場しています。外資系ゆえ、宿泊料金は格安ではありませんが、ラグジュアリーホテルの価格帯よりは割安で、認知度の高いブランド系列であるという期待と安心感から国内客にも人気を博しています。

大手のライフスタイル・ホテルが続々と進出

“ライフスタイル”と聞くと「日常の生活習慣」のように感じますが、ライフスタイル・ホテルはもっと幅広く「個人の嗜好や価値観、ファッション、デザイン、美意識」などに対応したホテルのスタイルを指しています。デザイン、アメニティ、サービスが地域の文化や個人の好みに合わせてカスタマイズされており、滞在者が日常生活の枠を超えた特別な体験ができるように設計されています。

外資系ホテル大手の主なライフスタイル・ホテル

表のように主なブランドだけでも数多く感じますが、大手外資系ホテルは、まだまだ日本未進出のライフスタイル・ホテルのブランドを保有しています。たとえば、ハイアットはアンダーズやセントリックのほかにもトンプソン、キャプションbyハイアット、ジヴィ デ ビヴレ、ドリーム ホテルといった日本未進出ブランドがあります。近年、同社はライフスタイル・ホテルに熱心で、2017年以降、ラグジュアリーホテルの部屋数を2倍、リゾートホテルを同3倍に増やした一方、ライフスタイルの部屋数は一気に5倍に拡大しています。

旅行需要の変化に対応した新コンセプト

ライフスタイル・ホテルはホテル業界でも比較的新しいフォーマットで、2000年代初頭にアメリカやヨーロッパの都市部から広まりました。ミレニアル世代やZ世代といった、従来のラグジュアリーとは異なる価値観を持つ顧客層は「物質的な豊かさ」よりも「体験」や「個性の表現」を重視する傾向が強く、ブランド力や派手さに頼るのではなく、地域の文化や持続可能性に敏感なライフスタイル・ホテルが支持されるようになったのです。

旅行者のニーズの多様化によって、ライフスタイル・ホテルのブランドは増加してきました。個性を出すために、内外装などかなりコストがかかりそうですが、そこには大手なりの工夫と、ラグジュアリーにない「裏ワザ」もあります。

従来のラグジュアリーホテルが高級感や豪華さに重きを置いていたのに対し、ライフスタイル・ホテルはよりカジュアルでありながら、個性的なデザインを提供しています。例えば、クローゼットを従来のように扉で隠すのではなく、むしろ見せる形でデザインすることで、開放的な空間をアピールしながら建築コストを抑えられます。

また、ユニットバスではなくシャワーのみの簡素なバスルームも増えており、これもおしゃれさとコスト削減の両立を実現しています。ミレニアル世代やZ世代には、このカジュアルさが評判となるのです。

さらに、大手外資系ホテルはバックオフィスなど宿泊客の目に見えない部分で効率化を徹底しています。オペレーションや管理システム、人事評価システムなどはチェーン全体で標準化されているからです。

大手の集客の最大の強みが共通の会員プログラムですが、中央集約型の宿泊管理システム(PMS)や顧客管理システム(CRM)で、顧客データや予約管理、会員データは一元管理されています。

宿泊客は異なるブランド間でもポイントや特典を利用でき、一貫した会員サービスの提供を受けることができます。チェックイン・チェックアウト手続きやロイヤリティプログラムの利用方法も統一されています。

異なるブランドでも社員の評価基準やトレーニングプログラムは共通化されています。ヒルトンやマリオットではオンラインのトレーニングプラットフォームを導入しており、全従業員が共通の学習コンテンツにアクセスできる体制を整えています。

地方でも「ありのまま」を体験できる魅力

ライフスタイル・ホテルのもう一つの大きな特徴として、地域特有の文化やアート、食体験を重視し、ビジネスホテルなどの標準化された大規模ホテルチェーンとは対照的に、宿泊者が地元文化に触れ、特別な滞在を楽しめる空間を提供することが多いです。

日本のライフスタイル・ホテルの草分け的な存在であるアンダーズ東京は、開業前からアルノー・ド・サン=テグジュペリ総支配人(当時)らスタッフが、地元・虎ノ門の商店会と連携を図り、老舗の名店や近隣の散策コースなどを調査していました。

インバウンドの増加により、日本を訪れることが2度目、3度目といったリピーターの外国人旅行者も増えています。彼らはゴールデンルートと呼ばれる京都から富士山を通って東京というパターンに飽き足らず、より日本を感じられる地域、まだほかの外国人が訪れたことがないような辺境を求めて旅をします。

現地での体験も「ありのまま」を求めます。現地の日本人にとっては古いだけの日本家屋や地元のなんでもない料理が外国人にとって「ライフスタイルな体験」となるからです。

「日本初上陸」の新奇性と、地元との協力体制、さらに意外なコスト抑制によって、これからも個性豊かなライフスタイル・ホテルの開業が続きそうです。

山川清弘(やまかわ きよひろ)

山川清弘(やまかわ きよひろ)

東洋経済新報社編集委員。早稲田大学政治経済学部卒業。東洋経済で記者としてエンタテインメント、放送、銀行、旅行・ホテルなどを担当。「会社四季報」副編集長などを経て、現在は「会社四季報オンライン」編集部。著書に「1泊10万円でも泊まりたい ラグジュアリーホテル 至高の非日常」(東洋経済)、「ホテル御三家」(幻冬舎新書)など。

みんなのVOICEこの記事を読んで思った意見や感想を書いてください。

観光産業ニュース「トラベルボイス」編集部から届く

一歩先の未来がみえるメルマガ「今日のヘッドライン」 、もうご登録済みですよね?

もし未だ登録していないなら…