旅行商品の検索・比較サイト「Travel.jp」やホテルのクチコミ情報サイト「Hotel.jp」を運営するベンチャーリパブリック。この分野では先駆的な存在の同社は、オンライン旅行業界の国際会議「WIT」の日本開催・運営に大きな貢献をしてきた。そんな同社代表取締役社長の柴田啓氏はベンチャーリパブリックの今後について「グーグルではできないことをやる」と語る。その意味とはーー?
柴田氏が描く旅行・観光ビジネスの未来予想と、そこに対応する同社が目指す方向性を聞いた。
▼本業は“キュレーション”、目利きで価値創造
メタサーチは完全にコモディティー化していくだろう。それは単なるインフラにすぎない
ベンチャーリパブリックは創業して今年で14年。柴田氏は現在の立ち位置について、「やりたいことのまだまだ一合目か二合目あたり」と話す。究極のミッションは、旅行にかかわる疑問にすべて答えること。「ユーザーが旅行をするときにぶち当たる壁をすべてクリアにしてきたい」と夢は大きい。
その方向性のなかで、いかに効率的に疑問に答えられるかがカギとして、「品揃えよりも、重要になってくるのはキュレーション」との認識を示す。「忙しい日常のなかで、たとえばフェイスブックのフィードを毎日見ているだけでも疲れてくる」からだ。
旅行者が商品比較に欠かせない複数サイトを同時に検索して結果を出すメタサーチは運営者、ユーザー双方にとって便利なツール。しかし、柴田氏は「メタサーチは完全にコモディティー化していくだろう。それは単なるインフラにすぎない」と言い切り、「本業はキュレーション」だと強調する。
キュレーションの本質は目利きだ。集めるだけでなく、何がいいのか悪いのかを判断し、それをどのように使うべきなのかを発信していく。柴田氏は、専門性を持った人たちのシンジケーションと目利きによるキュレーション、それにテクノロジーを融合させて、単なる比較サイトではないビジネスを展開していく方向性を示し、「我々はグーグルではできないことをやっていく」と意気込む。
検索だけでもダメ。コンテンツだけでもダメ。どんな体験ができるかを伝えていく
そのひとつが、Travel.jpが提供している観光ガイドのコンテンツ「たびねす」だ。キュレーションを高めていく取り組みのひとつで、そのアプローチはユニーク。「たとえば、ピラミッドの頂点がロンリープラネットや地球の歩き方などとすると、底辺はトリップアドバイザーだろう。現在はその中間が抜けている」と柴田氏は説明する。
頂点の問題点は紙媒体であるため、更新性が低く、カバーレッジも狭い。一方、底辺では海のものとも山のものともわからない情報に溢れている。「たびねす」では、その中間を狙い、トップの旅行プロガーやジャーナリストではないが、評価の高い人たちを集めて情報を発信していく。
「検索だけでもダメ。コンテンツだけでもダメ。旅行に関する疑問を俯瞰しながら答えていく一方、ユーザー・エクスペリエンスやストーリーをコンテンツとして提供し、どんな体験ができるかを伝えていく」。「たびねす」では今後、コミュニケーションツールも充実させていきたい考えだ。
▼シェアリングに注目、業法も変わらざるをえない
自分の家のリビングルームもレストランになりうる
「旅行業とはまったく関係のないところからこのビジネスを始めた」という柴田氏が見る旅行業の未来予想図とはどのようなものなのだろうか。
そのひとつのヒントとなるのが「シェアリング」だ。柴田氏はエアビーアンドビー(Airbnb)の例を挙げながら、「現在は、ホテルを運営している人が1%で残りの99%は利用する人。これが劇的に変わる」とみる。
「たとえば、自分の家のリビングルームもレストランになりうる。『カレーなら絶対に負けない』となれば、それで集客できる」というわけだ。旅行産業の裾野は広いが、シェアリングエコノミーが普及すると、さらにそれが広がり、情報発信する人も急増するだろうとの見立てだ。
これは、近い将来、企業と個人の間の取引(B2C)だけでなく、個人と個人の間で商取引を可能にするピア・トゥ・ピア・エコノミー(Peer to peer economy:P2P)の動きを読んだもの。柴田氏は、業者と一緒に推進しようとしている自治体もあることも指摘し、業法の壁が立ちはだかる日本でも「業法の範囲内でも、そういう流れは出てくるだろうし、将来的には業法も変わらざるをえないだろう」と予測する。
「日本だけ特殊だという考えは絶対にありえない」。柴田氏は、エアビーアンドビー(Airbnb)やウーバー(Uber)のようなビジネスモデルは日本でも普及すると断言。「日本人の誰もがマイクロアントレプレナー(小規模起業家)になる潮流がくるだろう。旅行業界も、大企業というより、そこから傑出してきたものが、マーケットを動かしていくと思う」と未来を予想する。
一方で、「専門性を持ったリアルの店舗は生き残るだろう」と柴田氏。消費者による選別が進み、エキスパートと特性を持つ店舗だけがリアルの価値として残るとの考えだ。
▼日本を飛び出し、第三国間のビジネスも視野に
日本でも異業種による旅行業への参入が増えてきた。しかし、柴田氏は「旅行の市場性や有望性を考えると、旅行業はまだ過小評価されている」と話し、日本でも市場規模を考えれば、もっとスタートアップが出てきてもおかしくないとの認識を示す。一方で、世界に広がるオンラインでありながら、旅行業に限らず一般的に日本発のビジネスが世界に広がっていない現状もある。「言語をはじめ日本が超えなければならないハードルはまだある。日本から海外に目を向けて、経営者として外に向かって事業を展開していく力をどのように養っていくか、複合的に考えていく必要があるだろう」と課題も口にする。
こうした柴田氏の考えのもと、ベンチャーリパブリックは海外展開での展開も視野にいれている。「日本にいたら海外事業は育たない」という柴田氏は、一年の半分は日本にいない。グローバル化、ボーダレス化が進むなかで、将来に向けて見据えるのは、日本市場にこだわらない第三国間のビジネス。「たとえば、マレーシアでドイツの商品を売る」ようなビジネスを構想に入れている。
そんな未来を語る柴田氏の視線の先には、確かな旅行ビジネスの明るい未来が見えている。
- 聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫
- 文:トラベルジャーナリスト 山田友樹
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