【新連載】
百花繚乱!世界の機内食めぐり
はじめまして。機内食コラムを連載する旅行・グルメライターの古屋江美子です。
世界40カ国以上を旅し、各地のグルメを食べ歩いてきた私が、最近おもしろいと思うのが機内食です。お国柄を反映したご当地料理が出たり、地上のレストラン顔負けの料理を開発したり、百花繚乱の様相を呈してきました。この連載ではそんな機内食について、私なりの視点で解説します。
今回は、最新の機内食トレンドを紹介します。機内食は各社が趣向を凝らし、ますます個性豊かになっていますが、その一方で、機内食市場全体に共通するトレンドと呼べそうな傾向もあります。5つのキーワードにまとめました。
キーワード1: グローバル対応 ~ハラール、ベジタリアン~
ここ数年、マレーシアやインドネシアからの訪日旅行者が増え、日本国内でもハラール対応やベジタリアン対応をするレストランやホテルが多くなってきました。
そんなグローバル対応は空の上でも進んでいます。もちろん以前から、宗教や健康上の理由から通常の機内食を食べられない人に向けた特別機内食(スペシャルミール)はありましたが、あくまでそれらはリクエストベース。昨今はその取り組みがさらに進化しています。
スイス インターナショナル エアラインズ(以下、SWISS)では、すでに2009年から日本路線を含む長距離線の全クラスでベジタリアン料理を通常メニューとして機内に搭載しています。スイス発のメニューはチューリッヒの有名なベジタリアンレストラン「Hiltl」のレシピで作られたもの。事前注文も不要で、エコノミークラスなら「フィッシュorビーフ?」ではなく、「ミートorベジタリアン?」と聞かれるわけです。宗教的な理由から肉を食べない国の人はもちろん、老舗のベジタリアンメニューが味わえるということで日本人にも好評でリピーターも増えています。
さらにSWISSでは2014年5月から、ヨーロッパのアレルギー研究機関ECARFと提携して、ラクトース(乳糖)やグルテン不耐症対応として、チョコレートバーのラクトース不使用版やラクトースを使っていないコーヒークリームの提供を始めました。その他にも多様なアレルギー対策を進め、世界で初めてアレルギーフレンドリーな航空会社に認定されています。
ほかにも、全日本空輸(以下ANA)では2014年3月から一部の国際線の機内サービスにおいてハラール認証を受けた和菓子「あられ」(海苔味)を提供。日本航空(以下JAL)では、あられやアーモンドなど7種類をくみあわせたベジタリアン対応の「和のおつまみ」を開発し、2014年12月中旬から国際線全クラスと国内線ファーストクラスにて順次提供を始めています。
キーワード2: ヘルシー志向 ~健康食、カロリーオフ~
ヘルシー志向は世界的に見られる中長期的な食のトレンドですが、機内食でもカロリーオフや栄養素を謳うヘルシー志向のメニューを用意するところが増えてきました。
ガルーダ・インドネシア航空(以下、ガルーダ航空)では、2007年から関西路線限定で「ヘルシーミール」を提供。アンチエイジングと健康美肌をテーマにした彩り鮮やかなメニューが人気を集めています。ターゲットは美容と健康を意識する女性全般ですが、男女問わず健康を意識する人からのリクエストが入っているそうで、「味だけでなく、量にも満足した」という声が多いそうです。
LCCの機内食にも注目です。ピーチ・アビエーション(以下Peach)では2014年12月から、機内食「PEACH DELI」に特定非営利活動法人TABLE FOR TWO International(以下TFT)の「カロリーオフセットプログラム」を導入しました。これは売り上げの一部をTFTを通じて、開発途上国の農業プロジェクト支援金として寄付しようというもの。メニューは500キロカロリー以下に抑えた3種から選べます。
ちなみにTFTの「カロリーオフセットプログラム」は機内食市場での導入は初。もともとPeachの乗客は半数以上が女性なので健康を意識したヘルシーな機内食メニューを希望する声があったことに加え、「会社として何か社会貢献することができないか」という社員のアイデアから生まれたそうです。
このほか、LCCのジェットスター・ジャパンでは2014年7月から「プリオーダーミール」のひとつとして「食と健康」に対して高い見識を持つ昭和女子大学の学生チームとコラボしたメニューを出しています(~2015年2月まで)。
キーワード3: コラボの多様化 ~エコノミーでも人気店とコラボ~
先ごろ発売された『ミシュランガイド東京2015』。昨年度からお手頃価格の美味しい店を紹介する「ビブグルマン」というセレクションが追加になりました。フレンチ、イタリア、そして今年度から新たに和食というカテゴリも新たに加わり、ラーメンやお好み焼の店も掲載されています。そんな動きは機内食の世界にも通じるものがあり、カリスマシェフや名店とのコラボだけでなく、コスパのよい安旨な店、いわばビブグルマン的な店とのコラボが多く生まれています。
コラボ展開に積極的なJALでは、2013年9月、JALハワイ線(羽田発を除く)のエコノミークラス限定で 「俺の機内食 for Resort」の提供をスタートさせました。この冬のメニューを担当するのは、連日行列の人気店「俺のフレンチ」遠藤雄二シェフと「俺のイタリアン」岡崎大輔シェフ。メニューは季節ごとにかわり、メインディッシュとサイドディッシュをイタリアンとフレンチのシェフ交互で担当しています。
『ミシュランガイド東京2015』のビブグルマンにも掲載された超人気店とのコラボ、しかも地上では食べられないJALハワイ線限定メニューとあって、乗客からも高評価。提供されると同時に写真を撮ったり、リーフレット(シェフやメニューを紹介)と照らしあわせながらじっくり楽しむ人も多いといいます。
また、これまでにモスバーガーや吉野家とコラボして話題を集めたプレミアムエコノミー・エコノミークラスの機内食「JALキッチン ギャラリー」の“AIRシリーズ”最新作は、スープストックトーキョーとコラボした「AIR スープストックトーキョー」。すでに2014年12月から提供が始まっています。
このほか、Peachは関西空港を拠点とするLCCらしく、たこ焼きの「たこ昌」やお好み焼きの「千房」などの人気店とコラボ。こちらも人気を博しています。
キーワード4: メニューのカスタマイズ化 ~エコノミーでも多彩なチョイス~
これまで上級クラスのみに用意されてきたカスタマイズ化がエコノミークラスにも広がってきました。
カンタス航空では2014年11月に国際線エコノミークラスの機内食を刷新し、これまで2つの選択肢だった料理が4つから選べるようになりました。そのうちの1つは「ヘルシーオプション」、もう1つは「セレクト・オン・Q-Eat」(※オンラインの機内食事前注文サービス)専用メニュー。残り2つは「家庭料理風のお食事」「路線の特色を生かしたメニュー」です。開発や準備に12カ月を費やしたという新メニューは、試験的に導入されると顧客満足度が通常の2倍になるほどの好評ぶり。成田路線は2015年3月からの導入が予定されています。
このほかエールフランス航空などには、好みに合わせて選べる4種類のアラカルトミール(有料)もあります。
キーワード5: SNSとの連動 ~参加型の機内食~
SNSブームの昨今、機内食をSNSと連動させる参加型の企画も増えています。
ANAはSNS上でお客様からの人気投票によって、国際線エコノミークラスで提供する機内食(和洋各1メニューずつ)を決める「機内食総選挙」を、2013年・2014年と2年連続で実施。今年夏の投票数は、和食・洋食あわせて1万2000以上と、昨年のおよそ4倍を記録しました。
幅広い年齢層が参加し、とくにANAのFacebookファン層やTwitterフォロワー層である30~40代の投票が多かった様子。日本だけでなく、ANAのFacebookのグローバル、香港、台湾、中国weiboなどのページを見ている人からの参加もあり、「投票した食事が採用されて嬉しい」などポジティブな意見が多数。機内食メニューの選定に自らが参画できる、ということがうけているようです。
このほか、ガルーダ航空でも2013年から関空発便限定で提供している「機内からフルパワーチャージ★男メシ」のメニュー選考にSNSを活用。公式Facebookページで人気投票を実施し、3候補の中から「ガルーダ・浪花スペシャルランチ・チャーハン・焼きそば・唐揚げ」が選ばれました。炭水化物中心で、さらにメインが2品とボリュームたっぷりの同メニューはアクティブに活動する20~30代の男性からのリクエストが中心だそうです。投票ならではの結果といえそうですね。
空の上の食トレンドは、地上のそれと共通しているところも少なくありません。一方で、機内食ならではの進化もあります。今後どんなトレンドが空の上に生まれていくか楽しみですね。