民泊は本当に売れているのか? 不動産業界や高稼働ホストが議論した実態と課題 ―電通OTAセミナー

急速に広がる「民泊」。政府がそのあり方やルール(規制)を急ピッチで進める一方、受付や清掃などを代行する関連サービスも続々と生まれている。

新たなビジネスとして熱気が高まるなか、「民泊は本当に売れているのか、大きな疑問がある」というのは、ブッキングドットコム日本地区統括部長の勝瀬博則氏。「シェアリングエコノミーの活用によるインバウンド集客と地方創生」をテーマにしたセッションで、同社が全世界で扱う宿泊物件のうち約半数を占めるという民泊(ヴィラなどホテルサービスではない物件含む)の販売状況を踏まえ、モデレーターとして指摘したものだ。

登壇者はAirbnbなどの民泊仲介業者ではなく、部屋を貸し出しているホストや、マンションの空室を長期滞在用に貸し出す不動産会社、ウィークリーマンションから転身したビジネスホテルの運営母体である投資会社、間もなく民泊に参入するBtoB向け場貸しのプラットフォーマーというユニークな4者。ビジネス状況や民泊への見解をフレッシュな視点で語り、新たな課題が示された。電通観光ユニット会OTA分科会が開催した「オンライントラベル最新動向セミナー」での同セッションをまとめた。


スーパーホストは民泊でいくら稼ぐ?

IMG_2671まずはAirbnb(エアビーアンドビー)で、「スーパーホスト」を2期連続で獲得したSohtaro Saito氏(写真)が、運営状況を説明。吉祥寺の隣駅にある木造50年のアパートの物件場合、周辺の賃貸価格の相場は月約4万円だが、民泊での過去半年の実績は「月平均10万円、いい時は12万円」。稼働率は75%~90%で、来月も8割近く埋まっているという。

好調の要因は、近隣の「三鷹の森美術館」を意識し、室内を和風なデザインとスタジオジブリのグッズでプロデュースしたこと。利用者の3割はジブリファンの訪日外国人だという。Saito氏は民泊が選ばれる理由として、「ホストの個性を反映した部屋に泊まるのが醍醐味であり、現地を暮らすような旅ができる。部屋の写真を見て、気になるホストに会いに行く需要もある」とし、民泊は単なるホテルの代用ではないことを強調した。

供給と需要に乖離

ところが勝瀬氏は、自社(Booking.com)のデータを踏まえ「圧倒的にホテルの方が売れている」と指摘。「Twitter(ツイッター)で民泊を検索すると、9割はホストの投稿で実際に泊まった人のツイートは少ない。サプライヤーが先行して需要がついていないのでは」と投げかけた。

Saito氏も「思ったより使われていない」と同調。200名の訪日タイ人旅行者のうち、Airbnbの利用者は4名。100名はホテル、20名は旅館だったという某雑誌の記事内容を引き合いに、「全体で見れば1~2%程度で、日本人はもっと低いと思う」と見ているという。

IMG_2660これについて、「民泊の稼働率が低いのは納得」というのは、マイステイズ・ホテル・マネジメントの運営母体であるフォートレス・インベストメント・グループ・ジャパンのマネージングディレクター・山本俊佑氏(写真)。前身のウィークリーマンションが、マンスリーとウィークリーで稼働のベースを作り、デイリーで埋めるというモデルだったことが根拠だ。

さらに、勝瀬氏が「民泊の価格は昨年夏をピークに、現在は半分くらいに下がっているという話も聞く」と言及すると、Saito氏は「大変なことになっている」とバブルがはじけた印象を肯定。新宿や渋谷などの人気エリアで一気にホストの数が増えたのが理由で、現在は「考えなしに(民泊に)入ってくると痛い目を見るというのが、ホスト仲間の見方」になっているという。

潜在需要は堅いとの意見も

IMG_2658とはいえ、不動産業では確実に需要を取り込んでいる。大京穴吹不動産は沖縄で、不動産業のくくりのなかで、1か月以上の長期滞在者向けのバケーションレンタル「旅家」を行なっている。民泊ではないが、未使用状態の戸建てやマンションなど空家の活用という点は共通だ。

PM事業部バケーションレンタル課長の中村宇裕氏によると、「実際のマーケットがあり、しっかりしたマーケティングをすれば押さえられる。ウィークリーやデイリーがあれば、確実に上がる」と自信を示した。現在は国内向けサービスで、4月から英語サイトを開始する予定だが、沖縄という特殊要因もあって、すでに米軍勤務者の家族の訪日利用もあるという。

IMG_2666お寺や古民家など、5500軒ものユニークベニューを扱う仲介サイト「スペースマーケット」代表取締役CEOの重松大輔氏は、その運営状況から「潜在的な需要はある」と自信を示した。社内会議やサークルなどで複数利用する機会のある人は、気に入ったベニューは何度もリピートし、「宿泊したい」というニーズが強いという。今春からの民泊参入を表明しており、「大阪など宿泊施設が確実に足りないところをうまく攻めていきたい」と考えている。

地方展開のポイントは

山本氏は投資会社の立場として、ホテルを地方展開する場合、「清掃業者などとの契約を考えると1軒だけでは利益率が悪い」ことや、ファンドの運用規模から「古民家を1軒1軒取得するわけにはいかない」とし、「アパホテルが1軒400室のホテルを作らないような都市に、民泊業者のチャンスがあると思う」と述べた。

そのチャンスをどう活かせるか。人が集中する都内でさえ、供給と需要のバランスが崩れている地区がある。この現状のなか、地方でどのように浸透していくことができるか。

Saito氏は外国人客の目線が日本人と異なること指摘。例えば、Saito氏が足立区に持つ民泊物件を利用する外国人客が、近くの汚れた運河を気に入るケースが多いことを紹介し、「日本人には何でもないものが価値を持っていることもある。気づかないところに金脈が眠っている」と語った。

これについては重松氏も、「見るべき人が見て磨けば、花開く」と同意し、町田や筑波の古民家がコスプレ撮影会や地元のイベントなどで月30万円ほど稼ぐようになったことを紹介。ベニューの価値や写真などの見せ方をオーナーが学び、それを見た人がSNSに投稿したり、レビューが貯まってくることで、「観光スポットのようになるのを見てきている」とアピールする。

街を活性化させるアイデア

一方、中村氏は不動産業の観点から、「活性化していない街に人は行かない」との考えを示した。沖縄の場合、自治体や観光協会が誘客に相当の力を入れているからこそ今の需要があるとし、「行政と組んで活性化させる努力をしないと厳しい」という。

ここで中村氏は、不動産業ならではの視点で1つの提案をした。海外の富裕層は複数の家を持つ人も珍しくなく、不動産購入を目的に来る訪日客もいる。そうして日本の地方に外国人が住み、良い街だと認識すれば、知人にその街を紹介する流れができるという。

重松氏は、平日は都会で働き、週末は田舎暮らしをする「マルチハビテーション」をする人が増えていることを指摘。さらに「地方の古民家でミーティングをする企業からは、『ここで働ける』という話も出る」とし、「所有から共有への流れのなか、住むことや働く場所選びも変わってくる。長いトレンドで見れば民泊も変わってくると思う」との考えを示した。

IMG_2668最後に勝瀬氏は、「宿泊施設が足りないから民泊に来るというのは大きな間違い」とし、「しっかり(民泊を)売っていくという視点で観光政策を作らなければ、法整備がされても空家対策にもならなかったという結果になりかねない。観光立国を実現するためにも、建設的な議論が必要」とまとめた。

記事:山田紀子(旅行ジャーナリスト)

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