観光庁と厚生労働省は2016年4月22日開催の第9回「民泊サービスのあり方に関する検討会」で、民泊サービスの制度設計案を発表した。第7回検討会の中間整理で、「中期的に検討すべき課題」の法整備に取り組む必要があるとされた事項に対応したもの。
ポイントは(1)民泊に対するニーズへの対応、(2)安全性の確保と近隣とのトラブル防止、(3)旅館ホテルとの線引き・競争条件の確保の3点。特に(2)については、行政が民泊の実態を把握できる仕組みとして仲介事業者と管理者に対する規制の方向性が示された。検討会では引き続き議論を深めていくが、現段階でのポイントをまとめてみた。
民泊の位置づけ、新たな規制の枠組み対象のサービス
まず、民泊の位置づけについては「既存の住宅を活用した宿泊サービスの提供」とし、「家主居住のみならず不在型の物件も対象」とする考え。その上で、新しい規制の枠組み対象とする民泊サービスの範囲は、既存の旅館・ホテルとの競争条件の確保を目的に「一定の要件」を設定。これを満たす民泊の家主は届出制とし、「一定の要件」を超えた場合は旅館業法の対象とする。
ただし、「一定の要件」の具体案はなく、これまでの意見の確認となった。そのため、今回の検討会ではここに対する意見が多く出された。例えば、「営業日数は年間30日以内」との意見に対し、「営業期間が短ければ、賃貸契約を選ぶ家主が多くなる」という指摘。「1日あたりの宿泊人数(4人)制限」には、「一軒家の場合で4人は少なすぎる」など、民泊が利用される仕組みとして内容を検討する必要があるとの指摘があった。
また、集合住宅の一棟貸しについては、観光庁と厚労省としても民泊にはなじまないとの考えを示した。
仲介者・管理者に責務
管理者・仲介事業者については、登録制にする方向となっている。管理者・仲介者に責務を課すことで民泊の適正な実施を確保し、安全性と衛生面を確保する。また、匿名性を排除し、トレーサビリティを確立することも目的。
管理者の規制は特に、家主不在タイプを念頭にしたもの。方向性としては、委託された管理者に名簿作成や苦情窓口の設置、法令・契約違反の不存在の確認などの業務を担当させる。たとえ家主が日本におらず、海外拠点の仲介事業者を利用した民泊であっても、日本でサービスを実行する者を把握することで、必要に応じて行政側が管理者を通して連絡ができる仕組みとしても期待する。
仲介事業者の規制については、取引条件の説明や民泊サービスであることの表示、行政への情報提供などを義務として規制を課す方向。「一定の要件」に違反するなど、不適切な民泊サービスについては掲載削除命令を可能とし、業務停止命令の処分対象とすることを検討する。
外国籍の仲介業者の取締り
海外にサーバーを置く外国法人の場合、違反の際にサーバーの差し押さえや逮捕などの処分ができない。そこで取締りの実効性を確保するため、法令違反の行為をした実名公表を検討する。これは金融庁の「金融商品取引法第192条の2」を参考にしたもの。インターネットで扱う金融商品の仲介法としての側面があるといい、海外にサーバーを置く外国籍企業が金融商品を扱う場合は登録を求め、違反した場合は実名公表を行なっている。
民泊でも、報道等で知った消費者がそのサイトでの使用を避けたり、行政からホスト等にサイト登録を控えるよう警告を発することで仲介業者が扱う商品がなくなるとし、取締りの実行性が期待できるとの考えだ。
登録は参入しやすいものに
当面の対応として、民泊サービスが旅館業法の「簡易宿所」扱いとなったことで仲介業者は旅行業者となったが、「中期的に検討すべき課題」に対する今回の制度設計(案)では現行法ではなく、新しい枠組みとする考えが示された。俎上にあがっていた旅行業法や宅地建物取引業法(宅建法)の場合、国家試験の取得や営業保証金が必要となる。登録制には匿名性の排除も目的となっているため、現行法よりも登録しやすい要件とする考え。監督省庁等は今後決定となる。山田紀子(旅行ジャーナリスト)