オンライン宿泊予約の世界大手「ブッキング・ドットコム」で、日本の宿泊施設での利用泊数の伸び率が世界トップになっているという。このほど、来日したパパイン・ライヴァース・マーケティング統括責任者(CMO)が明かしたもの。同氏に日本市場でのビジネス拡大への意欲や近年の旅行者トレンド、BtoBの取り組みなどを聞いた。
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「国内旅行にも便利」なイメージ訴求
日本におけるブッキング・ドットコムの利用形態には、変化の兆しが見られるという。特に最近の顕著な動きとして、ライヴァースCMOは日本人ユーザーが国内旅行で同社サイトを利用する動きが目立って増加したことを挙げる。
同社では昨年7月、初の試みとして、テレビ広告キャンペーンを展開。今夏も再びテレコマーシャルや、SNSなどデジタル上でのキャンペーンを実施予定だが、内容はかなり異なる。「昨年は、海外旅行と国内旅行の両方を紹介し、ブランドの全般的な認知度アップを狙ったが、今回は国内旅行を中心に取り上げる。昨年の秋以降、日本国内ユーザーによる国内宿泊施設の利用が、海外旅行やインバウンドに比べ、非常に大きく伸びたことが一因」とライヴァースCMOは説明した。
旅を紹介する切り口も、「今夏の広告では、国や都市などデスティネーションではなく、食・スポーツ・祭りなど、旅の目的を切り口にした」(ライヴァースCMO)。同社では今春から、都市名やホテル名ではなく、興味や関心の対象をキーワードにした検索機能「パッション・サーチ」が登場。各地の現地情報に詳しい専門家の協力を得ながら、ユーザーがまだ知らない旅行先や宿泊先に巡り合えるようなツール開発に注力している。
ブッキング・ドットコムは外資OTAであることから「海外ホテルには強いが、国内には弱い」というイメージを払拭することも、今回の狙いの一つ。「日本政府が観光振興を掲げる日本において、国内旅行の需要を喚起する上でも、当社は大きく貢献できると自負している」(ライヴァースCMO)。
日本国内のパートナー宿泊施設は、一年前の7000軒から、現在は8300軒に増加。こうしたパートナー宿泊施設での利用泊数は、現在、日本が世界最大の伸び率を示しているという。詳細は非公開だが、親会社プライスラインの発表によると、昨年の全世界での利用泊数は前年比で27%増。米国外での予約取扱高は同29%増。「日本国内のパートナー宿泊施設での利用泊数の伸びは、これをはるかに超える勢い」(ライヴァースCMO)。
BtoB事業にも注力、ホテル・旅館の収益最大化を目指す
日本での今年の目標は、「パートナー宿泊施設1万軒」の達成。全世界では今年10月までに100万軒達成を掲げている。新しいパートナー獲得に力を入れる一方で、すでにパートナーとなっている日本国内のホテルや旅館に対するBtoB事業の強化も目標に掲げる。宿泊施設の収益向上に向けた提案だ。
例えば空港近くのエアポートホテルへの提案。フライト遅延により、日付が変わった夜中12時以降に到着した旅行者が、近くのホテルを探す場合を想定し、夜中2時までは「前日扱い」で宿泊予約できるシステムを考案した。「ブッキング・ドットコムには、各宿泊施設の特性に適した機能のノウハウが豊富にある。日本のパートナーに、広く紹介していきたい」(ライヴァースCMO)。レベニューマネジメントやウェブサイト・プレゼンスなど、宿泊施設の収益最大化ツール開発は、「今、当社が最も投資している分野」(同CMO)と強調する。昨年末、登場した「ブッキング・スイート」は、ホテル経営に役立つこうした機能をパッケージ化したもの。主に、5~25室規模の小規模な宿泊施設の利用を想定している。
現在、世界全体でのブッキング・スイート利用ホテルは4万軒。日本国内では、50軒が導入完了、環境設定中の50軒をあわせると約100軒が利用する規模となった。今後は、さらに拡大を目指す。
若年層向けにはSNSでコンテンツ・マーケティング
では、今後のマーケティング戦略はどうか?
過去の日本でのマーケティング活動では、検索サイトからのユーザー誘導のほか、航空会社、銀行など様々な企業との戦略パートナーシップで新規顧客の獲得につなげてきた。日本市場での知名度が低かった頃、こうした手法は、取扱いの拡大に効果が大きかったという。
しかし、モバイル利用者が増える現在は、ブランドの知名度向上に注力するようになった。特に若年層ユーザー向けのマーケティングで欠かせないソーシャルメディア対策。旅行先での景色や宿泊施設を背景にした自撮り写真の投稿キャンペーンや、フォロワーを多く持つブロガーや著名人との連携も行い、知名度向上へとつなげている。
グローバルでは、Facebookとのパートナーシップも注目される。ライヴァースCMOはこの点について「FBは話題のニュースを提供するのに適したツール。ホテルや旅行業界向けに開発されたダイナミック・アド・フォー・トラベル(DAT)機能にも注目しているが、どのように活用するのが効果的か、様々なチームのエンジニアと可能性を協議している。しかしまだ試行錯誤の段階」と話した。
取材・記事:谷山明子