国際短編映画祭「ショートショートフィルム・フェスティバル&アジア2016」が主催する「第2回地域プロモーション映像の作り方講座」が開かれた。セミナーでは、約200万回再生された滋賀県の『石田三成CM』、レスリングの吉田沙保里選手を起用して話題となった三重県津市の『つ・がない世界』、2016年の観光映像大賞(観光庁長官賞)を受賞した熊本県のショートフィルム『うつくしいひと』のクリエイターが登壇。それぞれ制作の背景や裏話が披露された。地域プロモーション動画に必要なことは?拡散させるカギとは?それぞれの映像にも大ヒットにはワケがあった。
滋賀県『石田三成CM』
―拡散をねらって、あえてツッコミどころを挿入
滋賀県は2015年の都道府県魅力度ランキングで43位。この知名度の低さを打開するために県はPR動画制作に乗り出した。
担当したのは、電通関西のアートディレクター・映像デイレクターの藤井亮さんとプランナーでコピーライターの小堀友樹さん。NHK大河ドラマ『真田丸』が人気を集めていることから、登場人物である滋賀県生まれの石田三成に注目。滋賀県と石田三成との関係性についても知名度は低かったが、「ゼロから三成を知ってもらうことで滋賀県をアピールしよう」(藤井さん)と制作に乗り出した。
まず着眼したのは、悪役で狡猾なイメージの強い三成のイメージを親しみやすい人物に転換させること。そのために、ローカルCMのフォーマットを思いついた。藤井さんは「『なんか、昔からTVでよくみるなあ』と思わせるテイストにしたかった」と話す。地方でよく見かける低予算で作られた動かないCMのように、あえてチープ感を出すことで、三成のイメージを変えるとともに、PRのメインである滋賀県の魅力も昔から存在するような「錯覚」を与えることに成功した。
第1弾は今年3月に公開。第2弾は総集編として6本の動画を公開した。ウェブ上での再生回数は計200万回を超える大ヒット。この結果、広告換算は6億円以上。魅力度ランキングも33位に上昇した。また、CMで使われた佐和山城の観光客数は、「なにもない所にもかかわらず(笑)」(藤井さん)、前年比289.9%増となった。今年3月時点での滋賀県と石田三成との関連性も、過去6年間の同月との比較で42.9倍という脅威の数字となったという。
藤井さんは、ヒットの理由を5つ挙げる。
- ボケているのか本気なのか微妙なライン。あからさまなボケではないので、ツッコミどころが満載で、それが拡散につながった。
- 15秒と30秒のTVCMフォーマット。視聴者の見やすさにつながった。
- 小ネタがいっぱい。たとえば、通販CMでよく見かける「個人の感想です」をわざと「故人の感想です」にした。また、背景の幕が見切れている部分をわざと作り出した。これによって、「この小ネタに気づいた」とSNSでの投稿が増え、拡散につながった。
- 思いつきが盛り込める制作体制。基本的に制作のアイデアは任せてもらえた。
- 自治体の対応。パロディー的映像への理解があり、プレゼンテーションでは、「これでいきましょう!」と即採用になったという。
▼石田三成CM<第一弾>
▼石田三成CM<第二弾・総集編>
津市『つ・がない世界』
津のことを語らないシュールさが拡散の要因に
津市のプロモーション動画の目的も滋賀県と同様に、知名度の向上だ。制作を担当したのは、電通名鉄コミュニケーションズ・クリエイティブディレクターの森俊博さんとENDOJI _LABOディレクターの近藤良隆さん。三重県には伊勢神宮、松坂牛、伊勢志摩など観光素材は多いが、県庁所在地である津には、「これだというものがなく、世界に誇れるものはないか」(森さん)と探した結果、世界一短い地名である「津(英語でZ)」に着目した。
「ただの紹介ビデオでは誰も見てくれない」(森さん)と思い、発想を逆転。「つ」がないと意味が変わってしまうおもしろさに行き着いたという。「つ」がないと世界は困る、「つ」があるのは素晴らしいと。
制作にあたっては、津市出身で最も有名なレスリングの吉田沙保里選手を起用。歌手デビューも果たしていた吉田さんに歌もうたってもらった。内容は、同じ構図のなかで前半では意味不明だが、後半でそれが解明される演出にした。結果、津市のことは何も語っていないシュールな仕上がりとなり、そのシュールさがネットでも話題になり、拡散につながった。
告知を経て、今年7月に配信開始。Yahoo Japan!での映像トピックスに取り上げられたことで再生回数2万回を超え、配信5日目で10万回突破。大手メディアでの露出も増えたことで、現在(12月初旬現在)、227,000回に達している。
森さんは、成功のポイントとして、
- 目的を地名の認知のみ絞ったこと
- 一点突破のシンプルな企画
- 吉田沙保里選手の意外性のある起用
- 耳に残る、癖になる音楽
を挙げる。また、滋賀県と同様に「自治体の理解も大きかった」と付け加えた。
熊本県『うつくしいひと』
震災前のうつくしい熊本の映像を後世に
滋賀県や津市とは異なり、『うつくしいひと』は本編40分のショートフィルム。監督は熊本県出身で、『世界の中心で、愛をさけぶ』や『北の零年』などでメガホンを取った行定勲氏が務めた。プロデューサーを務めたセカンドサイトの倉田泰補さんは、撮影クルーはいつもの行定組だが、「『スタッフもキャストもできるだけ熊本出身の人で』という行定監督の意向にそって制作された」と紹介。「地域性と公共性に注力し、熊本以外でも通用する人と人との関係性を描いた」と説明した。熊本を好きになってもらうという目的は、滋賀県や津市と変わらない。
ロケ地は、熊本城、草千里、夏目漱石記念館、江津湖、通潤橋など県内のうつくしい観光名所。小さな旅の中で、過去と現在が交錯するラブストーリーで、探偵役として政治学者の姜尚中さんやくまモンを起用したことでも話題となった。
熊本県企画振興部の小牧裕明さんは、今年4月の熊本地震について触れ、「震災前は、地方創生の取り組みのひとつとして注目されたが、震災後は復興支援を目的としたチャリティ上映が全国やネット上で行われている」と説明した。震災前後では、注目度の中身が変わってきたものの、うつくしい熊本の映像への関心は続いているようだ。倉田さんによると、「行定監督も『震災前のうつくしい熊本を映像に残してくれた』という感謝の声に感動していた」という。後世に残る映像美の記録という意味では、滋賀県や津市のプロモーションとは趣向が異なる。
▼『うつくしいひと』予告編
取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹