Airbnbが「体験」を始めた。共同創設者ジョー・ゲビア氏が言う「ディープなローカル体験」だ。Airbnb Open 2016が開催されたロサンゼルスで、実際にその「体験」を体験してみた。参加したのは、シンディーさんがガイドする「Street Art Steward」。本来は3日間のコースだが、メディア向けのお試し体験ということで4時間ほどに凝縮されたもの。タビナカが注目されるなか、Airbnb的体験とはどういったものだろうか。
LAアートディストリクトで最新アートシーンを実体験
近年、再開発が進むLAダウンタウン。南北を流れるロサンゼルス川の西側は、かつてロングビーチにあるロサンゼルス港に物資を運ぶための倉庫が立ち並んでいたが、時代の流れとともに廃れていった。
しかし、家賃が安かったことから、アーティストが住み着くように。いまでは広い地域がアートディストリクトとして再生している。数十年前は治安の悪さで近寄りがたいエリアだったが、いまではギャラリーやエッジの効いたカフェやレストランが進出。建物の壁には色鮮やかなグラフィティが描かれ、街の景色は一変している。
シンディーさんが体験ホストを務めるのは、その地区の南側サンタフェ通りを中心としたエリアだ。カートホイール・アート・マガジンの発行者でLAのアートシーンに精通しているシンディーさん自身、このエリアの住人。近隣のアーティストと協力しながらこのエリアのツアーを企画し、街の活性化に一役買っている。Airbnbのためにツアーを企画したわけではなく、これまで続けてきたツアーをAirbnbが採用した。
体験ツアーのハイライトのひとつは、地元アーティストがインストラクターを務めるワークショップ。そのアーティストの作風を教わりながら、自分の作品を創ってみようというものだ。グラフィティの街らしく、スプレー缶を使った創作。グラデーションの付け方、型紙を使ったデザインなどのレクチャーを受け、マスキングした紙の上に好みの色のスプレーで着色していく。付け焼き刃の技術で思った通りの作品ができるわけもないが、単なる観光ではない参加型の体験には、自作した作品とともに記憶に残る楽しさがある。
ユニークなローカル体験の一方、ホストのツアー催行に課題も
このほか、限られた時間の中、25年以上にわたってLAのグラフィティを研究し、「グラフィティLA」という本も上梓しているスティーブさんのガイドで、このエリアを散策した。このエリアのグラフィティはすべて合法。アート作品として認められるという。ロンドンのショーディッチ、メルボルンのホイザーレーンなど世界にはグラフィティで観光名所になっているところがあるが、ダウンタウンLA(DTLA)もこのストリート・アートを目当てに訪れる人も多いようだ。
また、このエリアは映画やテレビ番組のロケ地やフッション誌の撮影地として使われることも多い。再開発が進んでいるとはいえ、かつての倉庫をそのまま利用して、ギャラリーやレストランにしているところが多いため、昔のさびれた空気感と先端トレンドとのミスマッチが独特の空間を造り出しているところが好まれているという。
ツアーの最後は、グラフィティが描かれた倉庫の中でのディナー。地元シェフが腕を振るう。
「このエリアはこれからもっと変わっていくと思う。このツアーでその変化を楽しんでもらえたらうれしい」とシンディーさん。一方で、Airbnb体験の課題も口にする。このツアーの最大催行人数は8人だが、1人でも予約が入れば、それに対応しなければいけない。「地元のアーティストに協力してもらっているので、その調整が大変になる。3日に分かれたツアーでディナーやアルコールなども含まれるので、少人数だとコスト面も厳しくなる」という現実もあるようだ。
生花ホストの大谷さん、「日本に対する間違ったイメージも払拭できれば」
LAで開かれたAirbnb Open 2016には日本人体験ホストの大谷美香さんも参加した。大谷さんは草月流の華道家。Airbnbプラットフォームでは、インバウンド旅行者向けに「Exquisite Ikebana」として2日間計10時間のコースを提供している。
都内3ヶ所で開いている生花教室では、多くの在日外国人生徒も持ち、HISのインバウンド向けアクティビティ予約サイト「hisgo」でもツアーを提供するなど、外国人向けのレッスンでは定評がある。「Airbnbからは、『ただ楽しいだけでなく、終わったときに何かしらの達成感が得られるようにしてもらいたい』とお話をいただきました」と大谷さん。体験内容はAirbnbと相談しながら決めたという。
これまで参加したのはカナダ、アメリカ、オーストラリア、フランス、イギリスからの旅行者。「生花の予備知識がある人が多いですね。職種で言うと、プロダクトデザイナー、グラフィクデザイナー、建築家、フローリストが多いようです。意外と男性も参加されます」と明かす。
体験は同じ内容のため、初めての参加者が対象になるようだ。「通常の教室では、日本人生徒にさえ4日目になってやるレッスンも、2日間に組み込みます。たとえば、どこからでも美しく見える『四方正面』という考え方、空間を埋めるのではなく空間を創るという概念、日本独特の『くずしの美学』なども。次のステップに進みたい人には、海外には草月流の教室も多いので、そうした機会があることも伝えています」。
2日間10時間も一緒にいると、自然と個人的な話もするようになり、メールアドレスの交換やSNSでつながることも多いという。「生花を教えるのではなく、日本に対する間違ったイメージを払拭できれば」。大谷さんは、外国人旅行者にとって日本文化の入口になっている。
取材・記事 トラベルジャーナリスト 山田友樹