タビナカ狙うレストラン予約大手「オープンテーブル」、その仕掛けから日本の展開までCEOに聞いてきた

飲食店オンライン予約の世界大手オープンテーブル(OpenTable)。1998年、当初は米サンフランシスコで、ローカル向け(地元向け)のレストラン予約サービスとして創業したが、2014年にプライスライン・グループ傘下となって以降、海外旅行者向のタビナカ(旅行中)を狙い、グローバルなサービス展開に力を入れている。このほど来日したクリスタ・クォールズ最高経営責任者(CEO=写真)に、同社の戦略と日本市場について聞いた。

オープンテーブルの加盟レストランは、世界20カ国超・3万8000軒、毎月の利用者は2000万人以上。日本での加盟店は1700軒、累計利用者数は600万人を超える。レストラン経営者向けには、送客だけではなく、予約管理ソリューションを行うアプリを開発。一方、一般利用者向けのサービスでは、プライスライン・グループに加わって以降、ローカル需要だけでなく、海外旅行者が慣れない異国で外食するときに、どのような場所やメニューに需要があるのか、どのようなサービスがあったら便利か、を強く意識するようになった。

「旅行中の食事というのは、普段以上に、一食一食がとても貴重な体験。旅行者は、どこの店で食事するか、いつも真剣に悩んでいる」とクォールズCEOは話す。食事の値段についても、海外旅行中はいつもより高くても構わないと考える人も多い。こうした観点から、プライスラインに加わって以降、「技術やアプリへの投資を増やし、ローカルだけでなく、旅行者を意識したユーザー・エクスペリエンスの改善に注力している」(クォールズCEO)。その大きな一歩が、昨年秋から導入開始した「グローバル・ダイニング・パスポート」だ。

このサービスの特徴は、一度アプリをダウンロードすれば、世界中のレストラン情報や各国語で書かれたレビューを自国語で読めるようになったこと。当初、オープンテーブルの予約アプリは、国ごとにバラバラだった。例えば東京で普段、オープンテーブルのアプリを利用している人も、海外旅行先では、現地語のアプリを再度、ダウンロードする必要があったが、これをグローバルで統一。一度、ダウンロードしたアプリが世界中で利用できるようになり、しかも日本語を含む5か国語に対応可能している。今年6月には、さらにオランダ語が加わる予定だ。

オープンテーブルが昨年、「旅行中の外食」について実施した調査では、日本人回答者2014人から「海外で外食するときの苦労」として最も多く挙がったのが「言葉の壁」だった。グローバル・ダイニング・パスポートは、こうした日本人海外旅行者のニーズに応えると同時に、訪日インバウンド旅行者を誘致したい日本国内のレストランにも役に立つサービスだと自信を示す。クォールズCEOによると、昨年10月のサービス開始から今春までのグローバル・ダイニング・パスポートの利用者数は、世界全体で前年比95%増となり、確実な手応えを感じている。

東京の食事情「外国人にはまだ難しい」

オープンテーブルの東京オフィスは原宿にあるが、「今回、平日ランチタイムの町を歩き、外食事情を実際に肌で感じることができた。とにかく人も店も多くて、外国人が目的のレストランに辿り着くのは、なかなか大変なのではないかと痛感した。日本のレストラン経営者には、オープンテーブルが提供する便利な機能をもっと知ってほしい」(クォールズCEO)。

オープンテーブルがレストランに提供する予約管理ソフトウェアなどは、店の規模がある程度、大きい方が導入するメリットも大きい。当初、オープンテーブルに問い合わせてくる日本のレストラン経営者は、こうしたノウハウに関心がある場合が多かった。だが最近では、訪日インバウンド旅行者の予約を取るための流通経路の一つとして、オープンテーブルに注目するレストラン経営者からの問い合わせが、急速に増えているという。

東京が、2020年にオリンピック・パラリンピックの開催を控えていることにも注目している。「年間4000万人の外国人を誘致するとなれば、言葉の壁や、複雑な交通機関など、外国人にとってのストレスを軽減し、もっと簡単にレストランを楽しめる仕組みが必要ではないか。東京は、世界有数の食の都であり、食は東京にとって非常に重要な要素の一つ。五輪という日本の潜在的な魅力を発信するまたとないチャンスに、オープンテーブルをぜひ活用してほしい」(クォールズCEO)。

最近では、旅行中であると推測できる「複数都市でオープンテーブルを利用しているユーザー」の数が増えている。こうした利用客には、グーグルやフェイスブックの位置情報機能などを活用し、海外旅行中のニーズに的を絞った広告を投入している。将来的には、旅行者が目的地に到着すると同時に、現地のレストラン情報を届けるプッシュ機能など、「慣れない土地に降り立った旅行者に、最適なタイミングで、より快適な食のナビゲートを提供するのが目標。改善するべき部分はまだたくさんある」(同CEO)。

レストラン情報は「数」より「密度の濃さ」

日本市場の今後については、ユーザーの選択肢充実が課題という。特に重視しているのは「密度の濃さ」。登録店の数、あるいは都市をどんどん増やすよりも、外国人旅行者が多く滞在するホテルを起点とし、そのアクセス圏内にある有名店から裏通りにあるローカルの人気店まで、あらゆる選択肢を幅広く揃えることが、ユーザーの満足度アップにつながるとの考えだ。

オープンテーブル限定「スペシャルプラン」

「今は東京、大阪、京都など主要都市にフォーカスし、そこで圧倒的な支持を得ることが最優先。他の海外都市でも、同様な考え方で進めてきた」(クォールズCEO)。

既存の登録レストランで提供するサービスについても「選択肢の充実」を目指す。この春、東京で新しく始まった取り組みが、オープンテーブル予約者を対象とした特別メニューや特典など「スペシャルプラン」の提供だ。現在、10店前後でスペシャルプランを提供しており、今後は日本語メニューに苦労する外国人旅行者を意識したセットメニューなどについても検討していく。

スペシャルプランは、オープンテーブルが2010年に買収した英国の同業社、トップテーブルがもともと実施していたサービスだった。今やロンドンでは、数千店のレストランがオープンテーブル予約者向けの特典を用意している。現在、同じ手法をグローバルでも展開するべく、米国でも動き出している。

旅行者は、ローカルとは異なる時間帯にも動くので、例えばレストランが暇な時間帯の活性化を狙った特典サービスの実施など、利用者と店、双方にメリットがある形を提案していく方針だ。「一定以上の密度を保つこと」、「情報内容を濃くすること」、さらに「多言語化」を実現することで、世界中の迷える旅行者をサポートする食のコンシェルジェを目指す。

取材・記事 谷山明子

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