オンライン旅行業界の国際会議「WIT Japan」で、毎年人気を誇る日本市場をテーマにしたセッションは今年、「Best of Both Worlds:An OTA Exchange」と題し、日本と外資のプレイヤーのトップや事業責任者が市場動向と展望を議論した。「世界的にオンライン旅行市場の成長スピードが鈍化している」とWIT Japan実行委員責任者の柴田啓氏(ベンチャーリパブリックCEO、Travel.jp運営)が指摘するなか、日本市場のユニークさが際立ったセッションとなった。
登壇したのは、OTA日本勢が楽天(楽天トラベル)、JTB、リクルートライフスタイル(じゃらん.net)、外資プレイヤーがエクスペディア、トリップアドバイザー。各社が語ったマーケット認識と今後の展望をまとめた。
日本OTAの成長率は1桁に
最初に日本OTA3社が登壇。まずはMCを務めた柴田氏がデータを示しながら、ブッキング・ドットコムやトリップアドバイザー、シートリップのグローバルにおける成長率が低下している現況説明から開始した。トリップアドバイザーは3年前の39%増から1桁台の推移となっている。
これに対し、日本OTAの成長率は3社とも「0~10%」の回答。「2016年の熊本地震後のふっこう割の需要に対する反動もあった」(楽天トラベル事業長の髙野芳行氏)という特殊事情もあったが、柴田氏が「日本のマーケットシェアに近いと思う」と作成した、シミラーウェブとフォーカスライトのデータによるトラフィックデータ(2018年5月)に対しても、評価は各社とも「50点」と厳しい見方。
JTB Web販売部戦略統括部長の三島健氏は、「数字的には予算を達成しているが、期待値でいえば半分くらい。オフラインのコンテンツをオンライン化してトランザクションを増やす手法はもう一定程度終わっている。いまはデータがメタ化してテクノロジー対応の領域に入っており、これによりメタサーチが伸びてきているが、(我々は)対応し切れていない」と認識を示した。
新規需要の流入では、楽天の髙野氏は「グループ内からが一番多い」と、複数サービスの使用でポイントがアップする新しい会員プログラムの効果を説明。JTBの三島氏は、「モバイル」からの流入が多いという。これに対し、リクルートライフスタイルの旅行領域担当執行役員・宮本賢一郎氏は、「検索エンジン」と述べ、従来型チャネルからも新規需要の流入が続いていると話した。
宮本氏は後の外資プレイヤーとの合同セッションでも、「CEOになったら何をしたいか」の問いに、「インバウンドが増えているといっても、日本市場は日本人の消費が圧倒的。日本人が旅行をし続ける市場を作る」と語り、総需要を拡大して新規需要を獲得するリクルートの方針を強調した。
外資プレイヤーは日本で2桁成長を持続
一方、外資プレイヤーの業績は順調のようだ。
MCのイェオ・シュウ・フーン氏(WIT創設者)が、「全体的にはスローダウンというが、アジア太平洋地域ではOTAが成長している」と述べ、その上で各社の業績を聞いた。エクスペディアホールディングス(日本法人)代表取締役社長のマイケル・ダイクス氏は「日本では30%を超え、急速に伸びている」と回答。日本法人での予約は現在、国内旅行で3割、訪日旅行で7割だという。
メタサーチ機能を持つクチコミサイトのトリップアドバイザー(日本法人)代表取締役社長の牧野友衛氏は「日本国内で50%増、訪日旅行で26%増と見ており、非常に良い成長をしている」と述べ、両社とも日本での好調さをアピール。
流入元は、エクスペディアのダイクス氏は、「訪日旅行はどのチャネルも好調で、特にメタサーチとテクノロジー領域への投資で伸びている」とした。トリップアドバイザーの牧野氏は、掲載カテゴリがホテル、レストラン、アトラクションと多様な中で、「ホテル以外のカテゴリの成長が著しい」といい、トリップアドバイザーが地域需要の獲得を目的に全世界でローカライズを重視して、投資をしていることを説明した。
テクノロジーで進む方向
日本と外資のプレイヤーの合同セッションでは、日本市場の特性や環境認識、今後の方針で見解の相違が特徴的だった。
例えば、「日本の旅行・観光業で理解できないこと、ユニークな点」という質問には、日本のOTAは「旅行業法」の回答が多く、外資プレイヤーは「国内に対して最適化されている」(エクスペディアのダイクス氏)、「消費者の立場で見ること」(トリップアドバイザーの牧野氏)と言及。
一方、今後の注力する分野では各社とも「テクノロジー」に言及。「ブロックチェーンかAIか」の問いでは、全員が「AI」と答え、日本OTAのセッションでは3社ともAIを活用したサービスやマーケティングに着手していることを話した。
リクルートでは、AI活用したチャット形式の問い合わせサービス「トリップAIコンシェルジュ」を、JTBではアマゾンのスマートスピーカー「アマゾンエコー」での旅行サービスを開始。楽天トラベルでは、優良顧客の趣向と同じユーザー群をグループ全体のデータから探し、そこに仕掛けるマーケティングを実施しており、「もし企業買収をするとしたら」の問いにも、楽天トラベルの髙野氏は「AIの強い企業」と、楽天経済圏を活用するAIの重要性を強調した。
エクスペディアのダイクス氏は、「旅行体験を変えるユニークな自社の取り組みは?」の問いで、「AIベースの機械学習を活用した、自然言語のインターフェースの構築」と言及。「オフラインとオンラインの境界があいまいになることは間違いないトレンド」とし、「人間のようなインタラクションを可能とすることで、自宅のリビングにいながら外のサービスが受けられる体験ができるようになる。中国ではすでに音声検索が一般的になっており、世の中はその方向に進んでいる」と述べ、インターフェースをトレンドにあわせる重要性を強調した。
脅威・ライバルは業界外に
さらに環境認識では、今後の脅威にも言及。「アマゾン」(エクスペディアのダイクス氏)、「グーグル」(リクルートの宮本氏)など、ITやECの世界大手や、「スタートアップ」(楽天トラベルの髙野氏)などがあがった。また、外資セッションでトリップアドバイザーの牧野氏は「異業種からの参入」を脅威として挙げた。つまり、各社とも業界の既存プレイヤーではなく、新テクノロジーと新発想を持ち込む新規参入者を脅威として捉えている。
MCからは、グーグルに対しては特別に「旅行ビジネスの戦いでフェアだと思うか。サーチを所有し、データを有するという点で、モノポリーだとの指摘も多い」という問いかけも。それに対し、「フェア」という意見も多かった。
「企業努力の結果。旅行に限れば、プレイヤーは様々おり、サーチはチャネルの一つ。他のプレイヤーが勝つ余地がある」(エクスペディアのダイクス氏)、「ユーザーが選ぶこと。これは避けられない現実と受け止め、どんなパートナーシップを築くかだと思う」(JTBの三島氏)という見解だ。
日本ではちょうどWIT Japan2018の開幕日に、圧倒的なユーザー数を誇るLINEがメタサーチで旅行業参入を果たしたほか、大手ECサイトのDMMも先ごろ、旅行業登録をおこない、秋の旅行事業参入を発表。「後払いで、先に旅行を世の中に出しまくる」という新ビジネスモデルの旅行サービス「TRAVEL Now」で新風を送り込むスタートアップのバンク社など、新規参入のニュースが業界関係者を賑わせている。2018年は日本のオンライン旅行市場の潮目の年になるか。今後の動きに注目したい。
記事:山田紀子