政府が訪日外国人を2020年までに4000万人、2030年までに6000万人とする目標を掲げ、官民挙げたさまざまな施策が打ち出されている。一方で、地域にとっては訪日外国人旅行者の満足度を上げてリピーターになってもらうことも、継続的な成長には不可欠だ。いま、アクセンチュアは最先端技術を駆使して訪日外国人の生の声を調査・分析する「SNS分析」をはじめ、さまざまな調査・分析手法を提供している。本格的に動き出したアクセンチュアのインバウンド事業にフォーカスを当ててみた。
最先端技術を駆使し本格的にインバウンド事業へ
アクセンチュアは、全世界に約44万人の社員を抱えるコンサルティング会社。日本でも1万人弱の社員が、さまざまな領域で活躍している。コンサルティングというと企業の経営支援などを思い浮かべる人も少なくないが、2013年にデジタルコンサルティング本部を立ち上げ、幅広い業界に向けてビッグデータや人工知能などの最先端技術を活用した支援などもおこなっている。
拡大している事業領域のひとつがインバウンド。観光庁や自治体とともに各種の実証実験などを支援してきた。2011年の東日本大震災によって失速した感があったが、この頃からインバウンドが地方創生の切り札として注目が集まってきた。
そして、近年ではビッグデータを活用した調査・分析をこの領域で手がけるようになっている。分析には、同社とAmazon Web Services (以下AWS)社とのパートナーシップが活かされている。アクセンチュア社の米シアトルオフィスにて、Data Science Center of Excellence グローバル統括の工藤卓哉氏が中心となり、AWS社とパートナーシップのもとAIや機械学習のプロジェクトを推進しており、そのフラグシッププロジェクトとして、日本の観光業界での先端的AI技術導入事例、および官公庁と成功したパートナーシップの事例が注目を浴びている。
同社が支援した大きなプロジェクトでは、2014年にワイヤ・アンド・ワイヤレス(Wi2)とともに始動した「TRAVEL JAPAN Wi-Fi(TJW)プロジェクト」。これは訪日外国人がTJWアプリをスマートフォンやタブレットにダウンロードし、位置情報や属性情報の提供を含めた利用規約に同意することで、全国20万カ所以上にあるWi2のWi-Fiサービスに無償で接続できるサービスだ。このサービスによって得られた訪日外国人の位置情報をアクセンチュアが解析し、従来の動態調査よりも詳細なデータ取得を可能にした。
日本人の感覚では「冬にしか誘客できない」と思われている場所でも、雪のない季節に外国人が多く訪れていることや、意外な場所まで足を伸ばしている外国人がいることなどがわかるケースもある。アクセンチュアの田中さやか氏は、「まずは自地域の現状を知るスタートとして必要な調査」(田中氏)としている。
最先端技術を活用した特許技術「SNS分析」
インバウンド事業でのプレゼンスを高めているアクセンチュアだが、2017年に新たなソリューションを完成させて利用を開始した。このソリューションこそが、データサイエンティストたちが半年かけて開発した「SNS分析」だ。このSNS分析は、最新のAI技術を活用し、SNSの投稿内容を総合的に評価して点数をつけるもので、米国で特許を取得している独自の技術だ。
この分析手法は「対象市場における自地域の地名や観光コンテンツに関する認知度や評価を知りたい、訪日外国人の『生の声』を知りたい、競合観光国や地域との比較分析をしたい、といったニーズに応えることができるもの」。分析に使われるのは、調査対象市場のSNSサイトにある訪日旅行に関する投稿だ。
最初に観光コンテンツのカテゴリーや地理分布を考慮したうえで分析対象とするキーワードを設計し、対象言語に翻訳。次に市場別の対象SNSを選定し、キーワードを利用して投稿データを抽出する。こうして抽出した投稿データに対し、深層学習の評価推計技術を活用して投稿内容をもとに定量的に評価を推定する。調査結果はグラフによって可視化されるため、調査や分析に精通していなくてもひと目で結果を理解できる。
※深層学習(Deep Learning)とは、従来のニューラルネットワークの階層を増してモデル予測能力を強化する先端機械学習技術であり、本技術を用いて、アクセンチュア(株)はSNS評価の推計モデル構築の特許を取得している。
調査結果や調査の作業工程に大きな課題がある従来手法
自治体などがおこなっている主な調査方法は、ウェブや街頭でのアンケートによる満足度調査などだ。しかし、これらの手法には「好き/嫌い」や「良い/悪い」など特定キーワードの集計結果を評価点として採用する「評価手法の単純さ」や、多言語展開する際の「翻訳にかかる手間や調査員の手配」、サンプル数を確保するために要する「莫大な準備工数と実施工数」など課題も多い。
SNS分析では、翻訳作業が必要となるのはSNS投稿データを集める際のキーワード設計時のみ。その他は深層学習の技術がカバーする。また、ビッグデータの活用により各国のSNSサイトからSNS投稿内容を収集するので、一定のサンプル数を比較的確保しやすいという利点もある。
分析メニューとしては、「認知度・評価分析」「受入環境分析」を提供しており、「認知度・評価分析」は、「地名」「観光カテゴリー/コンテンツ」「季節性」に関する調査が可能。また、自地域の認知度・評価分析の結果を、他国や他地域の結果と比較することで「競合比較分析」も可能となる。訪日外国人が実際にSNSに投稿した内容を利用しているため、街頭調査などよりもさらに「生の声」を活用した分析が可能となるため、田中氏は「課題の多い従来手法の代替手段として活用が可能」と胸を張る。従来手法と比較して利点が多いことから、すでに5つの中央省庁、自治体が利用しているという。
北海道の調査で驚きの結果を示したSNS分析
このSNS分析では、インバウンドに携わる人たちが想像していない事実が浮き彫りになることがある。
例えば、2016年度に北海道観光振興機構にて実施した調査では驚きの結果が出た。
まず、北海道内の市町村名の認知度・評価では、台湾市場で北竜町が高い評価を得ていることが判明。これを、観光コンテンツ別の認知度・評価結果と紐づけたところ、北竜町にある「ひまわりの里」の満足度が突出して高いことがわかった。ひまわりの里は北海道でも知る人ぞ知る観光コンテンツだったという。
田中氏は「認知度が低くても評価が高いコンテンツがわかれば、重点的にプロモーションを行うことができる」と話す。
※平成28年度 北海道外国人観光客再訪促進事業 調査事業報告書より抜粋。 ※グラフ中の点線は、各項目の投稿件数と平均評価点の中央値を示す。
また、季節性でも意外な結果が出た。欧米人に人気のニセコは、「スキー」という冬のイメージが強いが、韓国市場では4〜6月にニセコの投稿件数が最も多く、その評価も高い傾向にあった。評価の高い投稿内容を深掘りしていくと、自然景観や牧場での飲食に関する内容が見られたことから、ニセコは韓国市場に対し、スキーだけでなくグリーンシーズンにおいてもPR可能な観光地であることが明らかになった。
さらに、競合観光地調査では、オーストラリア市場における北海道とカナダを比較。雪に関する投稿がカナダより多いことや、投稿数は少ないものの寺社仏閣の評価が高いことなどもわかった。一方でカナダは国立公園の投稿数が非常に多く、雪や山、温泉などの多様なコンテンツを関連させる北海道の「ナショナルパーク」ブランド戦略を検討すべきとの提言もおこなっている。
調査・分析を活用したプロモーションで高い費用対効果を
訪日外国人の生の声に基づいたプロモーション活動は、より高い費用対効果が得られるのは間違いない。また、主に地方自治体などでは調査が「目的」となってしまい、得られたデータや新たな発見を翌年以降の施策に反映しきれていないケースも散見される。田中氏が「調査で得られたデータを元に戦略を立ててこそ、初めて調査・分析をする意味がある」と話すように、SNS分析による定点観測が必要だ。
アクセンチュアは「調査から分析、結果に基づいた解決策の立案まで、ワンストップでのサービスを提供」(田中氏)できるうえ、定点観測は1度設定したキーワードを再度使用するだけなので、コストも抑えることができる。アンケート調査では対応しきれないトレンド変化のスピードに対応しつつ、内容の深い調査を可能にするアクセンチュアのSNS分析は、インバウンドに本腰を入れて市場を攻略しようとする団体にとって、心強いソリューションとなるに違いない。
広告:アクセンチュア
URL:https://www.accenture.com/jp-ja/applied-intelligence-index?src=SOMS
問い合わせ先:info.tokyo@accenture.com
記事:トラベルボイス企画部、REGION