インバウンド客から注目高まる「相撲」、JTBが仕掛ける「朝稽古見学ツアー」を同行取材した

訪日外国人旅行者のあいだで、観光コンテンツの一つとして相撲の注目が高まっている。JTBグローバルマーケティング&トラベル(JTBGMT)は、訪日向け「サンライズツアー」で、本場所の大相撲観戦ツアーに加えて、「朝稽古(あさげいこ)見学ツアー」を造成・販売。力士の朝稽古を間近で見学できるだけでなく、本物の日本文化体験として人気を集めている。訪日外国人は、相撲のどこに魅力を感じているのか? ツアーに同行して、人気の秘密を探ってみた。

私語厳禁のなかオーディオガイドでライブ解説

朝稽古見学ツアーの場所は、東京都台東区の「立浪部屋」。第74代横綱に昇進した豊昇龍が所属する相撲部屋だ。ツアーは朝8時半に現地集合で始まる。今回参加したのは、カナダから2人、英国から2人、スウェーデンから1人。JTBGMTレジャー事業本部エクスペリエンスサプライ部デストリビューションパートナーシップ課課長の福島温子氏は、参加者の中心は欧米豪からで、最近ではキプロスなど珍しい国からの参加もあり、「世界に相撲人気が広がっているのを感じる」と話す。

部屋に入る前に、相撲に精通した通訳案内士が注意事項を案内。稽古見学中は「私語厳禁」が確認される一方で、「部屋内はWi-Fiが通じているので、その場でSNSに投稿しても大丈夫」と意外な提案もした。立浪部屋では、若い力士たちのモチベーションにもなると、稽古風景などをSNSで積極的に発信しているという。

稽古場に入ると、ピーンと張り詰めた空気の中で、力士たちは「すり足」「四股」「股割り」など稽古の基本動作を繰り返していた。ある力士は、柱に向かって「鉄砲」。乾いた音が稽古場に響く。力士たちの鍛えられた体に汗が光り始めてきた。

このツアーの特徴の一つが、オーディオガイドによる解説が付いているところだ。美術館のように事前に録音された説明を流すのではなく、通訳案内士が別室で稽古の様子をモニターしながら、その力士たちの動きに合わせてライブ解説する。福島氏は、「私語厳禁の中、ただ稽古の様子を見学しているだけでは、参加者も間延びしてしまう。しっかりと内容を伝えることにこだわった」と話す。立浪部屋も、その仕掛けに理解を示し、協力を惜しまないという。

しばらくすると、「三番稽古」「申し合い」が始まった。「三番」とは数多くという意味。実力が近いもの同士で何度も取組を行う。「申し合い」は、取組後、勝ち力士はそのまま土俵に残り、名乗りを上げる控えの力士たちを指名して、すぐさま取組を行う稽古のことで、力士たちの真剣度がさらに増す。

力士たちのぶつかり合いが始まると、体と体がぶつかり合う音と荒い息遣いが静かな稽古場に響き、参加者たちも忙しくスマホを操作し始めた。

スマホで「本物の日本文化」を動画撮影豊昇龍の横綱昇進で予約も増加

すると、稽古場に横綱豊昇龍が現れた。場の空気が変わる。オーディオガイドで紹介されると、参加者たちの視線も横綱の方に集まった。福島氏によると、JTBGMTによるプロモーション強化のタイミングとも重なり、豊昇龍の横綱昇進の前の月に比べて予約が5倍ほどのスピードで増加し、横綱昇進後は毎日のように予約が入る状況だという。特に日本通の外国人の間では、横綱はやはり特別な存在のようだ。

しばらく、若手力士の稽古を見守り、時折アドバイスを送っていた豊昇龍は「ぶつかり稽古」に参加。受け手となり、若い力士たちに胸を貸す。ぶつかる力士は、何度も転がされながら、また豊昇龍の胸にぶち当たっていった。ぶつかっていく力士の息があがってくる。スポーツとしての相撲の激しさに、座布団に座って見学していた参加者も前のめりになる。

横綱豊昇龍が若手力士に胸を貸す朝稽古の締めは、力士たちが一列に並んですり足で土俵を回る「ムカデ」。足腰を鍛えるためには欠かせない稽古だが、見た目にもかなりきつそうだ。

稽古見学の後は、力士たちと記念撮影。力士たちとちょっとしたコミュニケーションが取れるのも、このツアーの魅力。「本物」の日本文化に触れる貴重な体験だ。

力士もカタコトの英語で応じる「スポーツながら、とてもスピリチュアル」

ツアー参加者5人のうち、カナダ・バンクーバーからの1人を除いては、訪日リピーター。初訪日のカナダ人女性は、ハンクーバーには日本人コミュニテイがあり日本文化に触れる機会もあるが、「相撲はテレビ番組でチラッと見たことがあるくらい。日本伝統文化の一つの形に触れられて非常に興味深かった」と振り返った。

また、英国ロンドンから参加した女性は、静かな空間での真剣な力士たちの姿に感銘を受けた様子。「スポーツながらも、とてもスピリチュアルな感じを受けた」と話す。彼女は、ちょうどNetflixで相撲をテーマとしたドラマ『サンクチュアリ』を見たばかりだったので、このツアーに興味を持ったという。

スウェーデンの男性は、「ゆっくりとした動作から激しい動きまで、稽古に強弱あるところが興味深かった」と話すとともに、「実際に横綱を見れたのはラッキーだった」と続けた。

ツアー後、参加者はそれぞれ東京観光にJTBGMTの福島氏によると、「本場所のツアーとは異なり、間近で聞こえてくる力士たちの息遣いや激しいぶつかり合いの迫力を感じられたという感想を頂いている」という。また、オーディオガイドによるライブ解説や力士とのインタラクティブな交流も「ツアーの満足度を上げている」と自信を示した。

JTBGMTは、2024年8月からこの「朝稽古ツアー」の販売を始めた。コロナ前も同様のツアーを催行していたが、コロナ禍で中断。立浪部屋の協力で再開にこぎつけた。今年12月まで毎週火曜日と金曜日にツアーを設定している。

ツアーの課題は、立浪部屋まで浅草駅や三ノ輪駅から徒歩20分以上かかること。福島氏は、「今後、浅草散策とのセットプランや宿泊施設からの送迎プランも検討していきたい」と明かす。また、「大相撲観戦ツアー」とのセットプランにも意欲を示す。

JTBGMTの福島氏。参加者には立浪部屋ロゴ入りのネックピローとエコバックをプレゼント

2025年10月15日からは「大相撲ロンドン公演」が開催される。ロンドン公演は1991年以来2度目。日本相撲協会が主催する海外巡業も、2005年10月のラスベガス公演以来となる。

ロンドン公演を機に、世界で相撲人気がさらに広がり、日本のスポーツ文化観光コンテンツとしての訴求力が高まることが期待されている。

トラベルジャーナリスト 山田友樹

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