今年の「WIT Japan 2018」で開催されたエアラインのセッションでは、ANAマーケティング室マーケットコミュニケーション部アシスタントマネージャーの永山裕氏は、「モバイル率が高まっている今、消費者がチャネルを選ぶ時代」と話したうえで、「旅全体を通じて旅行者に寄り添うカスタージャーニーが大切になってくる」との考えを示した。
そんな永山氏に、WIT会場の別室で、現在のANAが行っている顧客対応から今後注力する分野、地域との連携まで深掘りして聞いてきた。
カスタマージャーニーの充実で旅客との濃密な関係を
「カスタマージャーニーでの取り組みは遅れている。今は何ができるか洗い出している段階——。」
ANAのデジタル戦略ではこれまで販売に注力してきたことから、カスタマーに対しては予約から購入までのサポートで終わり、ジャーニーまで行き届いていないのが現状。しかし、永山氏は「本来はそこから旅客との濃密な関係が始まる。旅を通じてカスタマーをサポートし、快適な旅行環境を提供していきたい」と強調する。
現在のところは、たとえば、「非日常である飛行機の旅」のサポートとして、搭乗までやっておくべきことなどをメールで案内しているだけだが、将来的には予約客が希望するチャネルで対応できるようにし、付帯サービスの案内や販売にもつなげていきたい考えだ。
国際線ダイレクトブッキングの割合増に注力
永山氏によると、ANAホームページ上でのダイレクトブッキングのおおよその割合は国内線で約50%、国際線で約30%。今後、この割合を高めていくことが永山氏の担当のひとつになるという。
「ダイレクトブッキングは、消費者の反応や動向が直に分かるので大切。特にインバウンド市場の傾向を掴む上では重要」という認識だ。「デジタルを使えば、海外で何でもできるだろうというのは間違い。やはり、消費者が何を求めているかが分からなければ、リーチのしようがない」。
そこで大切になってくるのがコミュニケーションだが、「海外のANA会員はまだ少なく、限られた情報のなかで、その動向を理解するのに試行錯誤している」と明かす。
デジタルは単なるツールでしかない。今後はビッグデータやAIを活用して、顧客のニーズに合わせた情報を提供する『パーソナライゼーション』がカギになると言われているが、永山氏は「両者の間に介在するのがデジタルというだけで、結局はヒューマンタッチのコミュニケーションが大切になってくるのではないか」と話す。
ただ、パーソナライズされたコミュニケーションは塩梅が難しい。ショップに入って、いきなり店員に話しかけられるのを嫌がる人もいるように、カスタマージャーニーでも人によっては余計なサポートになってしまう。「要は多くの選択肢を提供することだと思う」。カスタマージャーニーの中で選択肢を増やし、SNSなどのデジタルコミュニケーションツールを介して、顧客とつながる。そうなれば、「ANAが増えるだろうし、ダイレクトブッキングも増えていくのではないか」と期待を寄せる。
インバウンドでの国内線販売に課題、新幹線を上回る価値を
インバウンド市場でのウェブ販売にはまだ課題があるという。訪日外国人旅行者の国内線利用を進めており、訪日向け運賃「Experience JAPAN Fare」を提供しているが、「グローバルなウェブ展開はまだできていない。2020年の東京オリパラに向けて改善していかなければいけない」との現状認識だ。日本には、観光素材にもなっている新幹線という強力な競合が存在する。その競争の中で、「新幹線を上回る価値を提供して、ANAの国内線に乗りたくなるような仕掛けを考えていきたい」と意欲を示す。
ANAは日本の地域の魅力を世界に発信するツールとして「Taste of Japan」を2013年に立ち上げた。これまで四半期単位で3県ずつ、その県の観光の魅力を紹介してきた。しかし、「海外では都道府県単位で日本を見ていない」(マーケティング観光アクション部観光の窓口チーム・アシスタントマネージャー吉村卓也氏)。そこで、昨年11月に都道府県の紹介が終了した現在は、北海道、九州など広域単位での特集に切り替えた。
カスタマージャーニーを考えるときも、地域との連携は重要だ。「飛行機を乗って降りるだけの旅はありえない」。ANAは昨年11月、傘下のピーチアビエーションとともに民泊大手のAirbnbとパートナーシップを締結した。特設サイトを開設し、新しい旅行のスタイルを提案している。「カスタマージャーニーを追求していくうえで、さまざまなパートナーとの協力も必要になってくるだろう」。タビマエから、タビナカ、タビアトまで。6年連続でスカイトラックスの「5つ星」を獲得しているANAが創り上げるカスタマージャーニーに今後も注目だ。
記事: トラベルジャーナリスト 山田友樹