台風や豪雨、地震など、自然災害が多発した2018年の日本。各地に大きな被害を与えただけでなく、観光産業にも大きな影響をもたらしたことは記憶に新しい。このコラムでは、過去にタイ・プーケットで発生した大津波の事例をもとに、被害状況やそこからの復興の流れ、官民連携の役割分担、日本がそこから学ぶべきことを読み解きます。(執筆:公益財団法人日本交通公社 観光地域研究部 主任研究員 牧野博明)
はじめに:自然災害はどこでも起こりうる
2018年は日本にとって、立て続けに大きな自然災害に見舞われる年となっています。10月中旬までに発生した主な自然災害を挙げると、6月18日に発生した「大阪府北部地震」、7月初旬に発生した「平成30年7月豪雨」、9月4日に上陸した「台風21号」、9月6日に発生した「北海道胆振東部地震」、9月30日に上陸した「台風24号」、10月初旬に猛威を振るった「台風25号」などがあり、いずれも各地に大きな被害をもたらしました。
これらの災害の影響は観光面にも及んでおり、宿泊キャンセル、鉄道や道路における交通網の寸断、鉄道の計画運休、空港の閉鎖、停電などによる旅行の中止や延期が発生し、宿泊事業者や交通事業者、観光事業者等の売り上げが大きく減少する事態となりました。とりわけ交通網の寸断については、2016年の熊本地震を含め、未だに不通となっている鉄道や道路があり、1日も早い復旧が望まれます。
自然災害は日本だけでなく、世界各地で発生しています。2018年5月3日のハワイ島・キラウエア火山の噴火では、ハワイ火山国立公園がしばらく閉鎖される事態となり、観光に大きなダメージを与えました。また、8月6日には、バリ島に近いインドネシア・ロンボク島で強い地震が発生し、津波情報などによってバリ島などの観光地がパニック状態に陥りました。さらに、9月28日にはインドネシア・スラウェシ島にて地震が発生し、津波や火山噴火が起きました。
このように、自然災害はどこでも発生しうるものであるため、災害発生に備えた復旧・復興対応策を事前に検討することは重要です。観光においても、過去の事例などを参考にしつつ、ハード・ソフトの両面における効果的な復旧・復興対応策が求められます。
プーケットとカオラックの被害内容、その後の観光復興は?
当財団では九州産業大学と共同で、「被害の階層性を踏まえた災害復興における観光地マネジメントに関する理論・実証的研究」に取り組んでいます(日本交通公社研究員コラムvol.365「熊本地震被災地の今」)。この研究の一環として、2018年8月、2004年12月に発生したインドネシア・スマトラ沖地震によるインド洋大津波の被害を受けたプーケット(タイ)及びカオラック(同)を訪れました。
地震発生当時、それまでに津波に遭った経験がない現地の人は、津波がどのようなものなのか、またどこに逃げればいいのか分からなかったようです。そのため、プーケット・パトンビーチでは、海岸沿いにあったデパートの地下街に逃げ込んだ人や、一時的に波が引いたことにより打ち上げられた魚を捕りに行った人がいて、残念ながら津波の犠牲に遭ったとのこと。そのような状況下で幸いだったのは、当日は日曜日で、学校や公共施設等が休みだったため、平日よりも外出する人が少なかったということでした。
プーケットにおける復旧・復興の流れをまとめると、図1のようになります。
観光の復旧・復興には、国、タイ政府観光庁、自治体、民間それぞれが役割を分担して対応に当たりました。
そしてこの大津波をきっかけに、プーケットでは以下のような災害への対応策が施されました。
観光客の回復状況ですが、2005年1月のプーケットのホテル稼働率はわずか5~6%に過ぎませんでした。その後、タイ国内の旅行業者や航空会社による価格訴求型旅行「ファン・パッケージ」の導入や、プロモーションやSNSなどにおける復旧アピールなどを行った結果、2005年12月時点でようやく70%まで回復しました(表1)。ちなみに、国内客の回復が遅れた要因の一つとして、「被害にあったと思われる行方不明者の『お化け』が出るという噂が広がり、タイの人が恐れた」ことが指摘されています。
現在は、新たなホテル建設が進んでいることもあり、観光客は順調に伸びています。そのようななか、回復が遅れているのは日本人観光客で、常に地震や津波を警戒しているようです。
おわりに:プーケットの観光復興策から得た所感
自然災害発生直後に観光客数が大幅に減少することは、現地の物理的状況や旅行者の心理的状況を考えると致し方ないことと言えます。観光がなるべく早く復興するためには、(1)迅速な復旧対応、(2)正確な情報発信(安全性のアピールなど)、(3)効果的な観光復興策の導入、が求められます。
このうち(3)について、プーケットでは民間事業者を中心に、価格訴求型旅行である「ファン・パッケージ」が導入されました。これについては、ホテルの稼働率向上につながったことや、情報発信としての効果が高かったという点において評価する声があがった一方で、外国人観光客は価格よりも地域の魅力を重視しているという調査結果も出されており、過度な価格訴求は地域のブランドイメージを低下させるだけという意見も聞かれます。
このため、災害後の観光復興策については、急減する需要に対して救済するための短期的な対応と、ブランドイメージを維持したうえで地域の魅力を活かした需要創出を図るという中長期的な対応を区分したうえで、断続的に取り組んでいくことが肝要であると思われます。
※このコラム記事は、公益財団法人日本交通公社に初出掲載されたもので、同公社との提携のもと、トラベルボイス編集部が一部編集をして掲載しています。