日本人の海外旅行市場促進に必要なカギは? 「旅行会社のデジタル対応」などスペシャリストの提言と議論を聞いてきた

2030年の双方向交流人口を9000万人まで増やすことが目標として掲げられる中、旺盛なインバウンドに対し、注目が薄れつつある日本人の海外旅行市場。日本人の出国者数は2016年に1700万人台に回復したものの、大きな伸びを見せるまでに至っていない。LCCやOTAの台頭を筆頭に、市場環境は大きく、そしてスピーディに変わりつつある。

2018年9月に開催された「ツーリズムEXPOジャパン2018」の海外旅行シンポジウムでは、「日本人アウトバウンド市場の潜在力について確認する」をテーマに、ツアーオペレーターや海外の旅行会社のリーダーら海外旅行のスペシャリストが集まり、アウトバウンドの現状から今後の海外旅行市場拡大で鍵となる要素について、さまざまな意見が交わされた。

パネリストはミキ・ツーリストの檀原徹典代表取締役社長、ハナツアーの權相鎬常務理事、ANA総合研究所の稲岡研士代表取締役副社長。モデレーターは航空新聞社の石原義郎氏が務めた。

基幹空港の機能増強と地方空港の活用で航空輸送力の課題をクリアすべき ―ANA総合研究所:稲岡氏

ANA総合研究所 稲岡氏

シンポジウムの冒頭では、ANA総合研究所取締役副社長の稲岡研士氏が基調講演を行った。

稲岡氏はまず、インバウンドとアウトバウンドのアンバランスな現状を説明したうえで、「航空輸送力や宿泊収容力、富裕層の攻略が課題となる」と話した。特に航空輸送力については、「2030年に必要な航空座席数を1億席と試算すると、約2800万席が不足する。基幹空港の機能増強はもちろん、近年国際線の就航が目立つ地方空港のさらなる活用も重要になる」などと指摘した。さらに、富裕層へのアプローチの必要性や、旅行に行かないと言われる若年層の出国率が高い事実を示し、特にミレニアル世代へのアプローチが不可欠であるとの見方も示した。

これらを踏まえ、稲岡氏は日本の海外旅行市場を拡大させるための展望として3つのポイントを挙げた。1つ目は「“beyond the destination”でアウトバウンドを拡大」で、新規路線・新規デスティネーションの拡大と、近隣諸国・地域への供給座席数拡大の必要性。2つ目は「旅行会社のAI・デジタル時代への対応」で、「既存の旅行会社もデジタル技術に早く対応すべきだ」などと述べた。3つ目は「地方創生(インバウンド)の視点」とし、「地方創生の主役である地方の人たちが、外の世界を見ることで本当の地方創生につながる」と力説した。

ミキ・ツーリスト 檀原氏

意識改革とアプローチ次第で出国者数は増える ―ミキ・ツーリスト:檀原氏

続いて「出国率向上のために何ができるか」をテーマに行われたパネルディスカッションでは、ミキ・ツーリストの檀原氏とハナツアーの權氏がそれぞれプレゼンテーションを行った。

ヨーロッパ方面への旅行を中心に取り扱うツアーオペレーターという立場から檀原氏は、ミキ・グループが日本だけでなくアジア市場での営業活動に注力していることを紹介し、「韓国、台湾、香港では、かつてのように価格ではなくツアーの質が求められるようになってきた」と指摘。韓国と台湾については、日本という近隣国への旅行だけでなくヨーロッパ方面を中心にロングホールのレジャー市場も伸びていることから、「肌感覚ではあるが、台湾や韓国の人は、生活の中に海外旅行が当たり前のこととしてあるようだ。ところが日本では、海外旅行=長期休暇=罪悪と考える人が大半ではないか」との見解を示した。

「海外旅行市場が拡大している韓国や台湾に学ぶべきことも多い」としつつ、日本人の意識改革とアプローチの方法次第では、「日本の海外旅行市場はまだまだ伸びるはず」との考えを展開した。

LCCを使用する旅行商品造成がアウトバウンド拡大につながる ―ハナツアー:權氏

ハナツアー 權氏

檀原氏が指摘した韓国の海外旅行市場の拡大について、ホールセラーという立場からLCCを活用した商品造成という例を紹介したのがハナツアーの權氏だ。

權氏は著しい成長を見せる韓国の海外旅行市場の特徴の1つとして、LCCの成長について言及。チェジュ航空やジンエアー、ティーウェイ航空といったLCC3社の営業利益が大きく伸び、韓国証券取引所への上場も相次いで実現していることから、「新機材の導入や路線拡大、運航回数の増加など成長への基盤づくりが進んでいる」と解説した。

こうした成長を見せるLCCを使用した旅行商品を造成した自社の例を挙げ、「海外旅行市場の拡大の背景には、消費者の選択肢の幅が広がったことも大きな要因としてある。日本でもLCC利用の商品造成が有効なのではないか」と提案した。檀原氏から出た「LCCの運賃はダイナミックに変動する。商品造成するうえで価格を決める苦労はないのか」との質問に対しては、「そこが問題」と苦笑しつつ、「苦労しても消費者の選択肢の幅を増やすのが一番」との見方をあらためて示した。

モデレーターを務めた航空新聞社の石原氏

また、韓国では政府主導で“旅行のある日常”というテーマでキャンペーンが行われたことや、“ワークライフバランス”が旅行の代表的なキーワードとして注目されていることなど、社会的な変化が旅行業界を後押しした事例を紹介した。

それぞれが異なる立場から日本の海外旅行市場の可能性について語った3氏の考えを受けた石原氏は、「これまでインバウンドに大きな予算が割かれてきたが、来年度以降はアウトバウンド拡大のための予算も確保された。今、かつてないほどアウトバウンドに追い風が吹いている。旅行業界もこれに応えていかなければならない」などとまとめた。

取材・記事 高原暢彦

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