2018年が間もなく幕を閉じようとしています。今年もトラベルボイスでは「旅行・観光×デジタル」に関わる数多くのニュースを取り上げてきました。その中で、読者の方々の関心を集めた記事のアクセスランキングを発表します(トップ20は下段で一覧)。
今年は、目まぐるしく観光・旅行ビジネスが動いた年と感じられた方も多いことでしょう。多くの異業種からの参入、民泊の解禁、スタートアップ企業の大型資金調達などの話題が大きく反響を集めました。
目まぐるしく動いた異業種の新規参入、タビナカへの熱視線
国内の新規参入では、LINE(4位)、DMM(3位)、バンク(9位)など、新たな観光プレイヤーが多く誕生しました。彼らを取材する際に投げかけた「なぜ、今、旅行ビジネスなのか?」という問いの答えは、総じてみると「既存事業の強みを利用してさらなる発展を求めた際に、『旅行に商機』を見出した」ということでした。
彼らは単独ではなく既存プレイヤーとのパートナーシップを結んで事業を展開しています。この分野がいかに複雑な仕組みの上に成り立っているかを理解し、最短・最速のスピードで事業を確立するためには「餅は餅屋」にまかせ、自社の強みを全うする姿勢です。こうした点では、既存プレイヤーにとっての異業種の新規参入は、脅威ばかりでなくチャンスでもあるといえるでしょう。また、固定概念にとらわれず、ユーザー本位で行うサービス構築は、学ぶところも多いのではないでしょうか。
今年中には実現しませんでしたが、国内外でアマゾンの旅行事業参入が噂される中(13位)、その場合には、どんな手法でやってくるのかは興味深いところです。一方で、今年はグーグルが旅行領域サービスを拡大。航空券、ホテルでは検索や広告機能を磨き、ついにタビナカではメタサーチ的な予約サービスを開始しました。
タビナカは、まさに今、群雄割拠。創業4年目の香港拠点のスタートアップ「Klook(クルック)」が2億ドルの資金調達、トリップアドバイザーが日本の「タビナカ体験」獲得に本腰(14位)の取り組みを開始するなど、しばらくは激戦が繰り広げられることでしょう。ランク外ですが、この激戦状態は以下の記事が参考になります。
こうした動きの一方で、DeNAが「DeNAトラベル」をエボラブルアジアに売却。フリマアプリ「メルカリ」も旅行アプリのテスト運用を始めたものの、年内にはサービス終了の発表を行いました。DeNAやメルカリは、短期間に大きなビジネスを確立した企業。こうした企業が撤退を決める背景についても興味深いところです。
波乱含みの「民泊解禁」、宿泊の選択肢として健全な発展を
国内の大きな変化では、「民泊の解禁」があった年でした(12位)。日本の民泊解禁は、民泊規制でのスタートとなり、プラットフォーム上で予約済みの違法民泊が強制キャンセルされるなど、混乱を見せました。海外メディアが「minpaku(民泊)」と表現しながら、この様子を報道していたのは印象的です。
一方で、全国で一番厳しいといわれる民泊条例を施行した京都市では、違法民泊が激減。京町家民泊やホームステイ型民泊などが少しずつ誕生しつつあるそうです。また、全国的には営業日数規制のない旅館業法に即した簡易宿所の増加傾向も。国が掲げる「健全な民泊の発展」へ向けて、来年は観光庁が新たな民泊運営システムの開発に着手することが発表されています。
技術革新で変わる旅、「新たな移動」や「決済」に変化の兆し
こうした変化のスピードが加速する時代を象徴した記事として、ランキング2位にはANAの「破壊的イノベーションに挑戦する取り組みとは?」の記事がランクインしました。馬車の時代から、クルマ、飛行機、そして宇宙旅行へ。さらには、移動の概念が変わり、瞬間移動という未来の事業まで見据えるANAの取り組みを取材したものです。
今年後半にかけてトラベルボイスの記事で、技術革新によって進む新たな移動「Maas(Mobility as a service)」にかかわるものが増えていることに気づいている読者の方も多いかもしれません。旅行の基本となる「移動」の概念が変わることは、旅行自体の概念を変えていくのかもしれません。残念ながら、今年はランキング外となりましたが、「Maas」については、今後の動きを注視したいところです。
また、20位にはHISがスマホ決済「PayPay」を国内全店舗に導入した記事もランクインしました。PayPayを運営するヤフーが実施した「100億円あげちゃう」と題した大型キャンペーンで話題となりましたが、このキャンペーンでスマホ決済を初めて利用した方も多いと聞きます。スマホ決済の普及は、訪日旅行者の満足度向上だけでなく、日本人のタビナカの行動を変える可能性もあるのではないでしょうか。
こうした変化の兆しは、考えているよりも早い段階でカタチとなって目の前に現れてくるかもしれません。
自然災害の頻発した年、観光が果たす役割を考える
さて、最後にランキングトップについて。ご想像の通り、日本国内で頻発した自然災害にかかわる記事でした。1位には、災害後の各地復興に向けた国の取り組み「ふっこう割」や支援プログラムなどをまとめて掲載しています。被災された方々に対して、心よりお悔やみ、お見舞い申し上げますとともに一日も早い復興をお祈りするばかりです。
こうした災害や復興への取り組みで、今年は、観光が果たす役割を改めて深く考える年となりました。新元号となる来年は、自然災害が起きない平和な年になりますように。そして、さらに平和のために観光産業ができることを実践できる年になりますように。
ランキング20位までは以下の通りです。
- 1位 国内で頻発した自然災害関連、ふっこう割など対策
- 政府、北海道の「宿泊料金の割引支援(ふっこう割)」導入を決定、道内全域を対象に(2018年9月21日)
- 観光庁、北海道の復興支援の具体策を発表、「ふっこう割」は最大7割を補助 (2018年9月28日)
- JALとANA、北海道の復興支援プログラムを追加、割引価格や特設サイト開設など(2018年9月21日)
- 北海道の宿泊割引き支援「ふっこう割」、旅行各社の日本人向け商品の販売スケジュール決定、まずはネット系から(2018年10月2日)
- 2位 ANAが「破壊的イノベーション」に挑戦する取り組みとは? 未来に描く旅と移動の可能性を聞いてきた(2018年1月5日)
- 3位 DMMが旅行業に新規参入
- DMMが旅行事業に参入、2018年秋に「DMMトラベル」立ち上げへ、すでに旅行業登録も(2018年7月10日)
- DMMが旅行業に参入する背景とは? 狙う分野や差別化ポイントを責任者に聞いてきた(2018年7月19日)
- 4位 LINEが旅行事業に本格参入、旅行比較検索サイトでタビナカ狙う事業構想を聞いてきた(2018年6月28日)
- 5位 観光庁、「Trip.com問題」で中国OTAシートリップ日本に立入り検査、消費者にオンライン取引きの啓蒙強化へ(2018年12月6日)
- 6位 楽天、トラベル事業の業績開示を取りやめ、観光庁の「主要旅行業者」の旅行取扱い状況で(2018年8月27日)
- 7位 観光客の増え過ぎ問題「オーバー・ツーリズム」
- 「オーバー・ツーリズム」とは? アムステルダムは規制強化へ【外電】(2018年1月12日)
- 京都市長に聞いた現在と未来の観光政策とは? 混雑問題の集中打破から全国一厳しい民泊条例の背景まで、門川大作市長に聞いてきた(2018年9月19日)
- 京都市の「オーバーツーリズム」の具体策は? 宿泊施設不足や郊外への分散化まで責任者に対応を聞いてきた(2018年10月10日)
- 8位 JTBは事業再編でどう変わるのか? 1000億円投資で目指す未来を聞いてきた、デジタル戦略からOTAとの協業まで(2018年5月28日)
- 9位 【続報】旅行代金ツケ払いアプリ「TRAVEL Now」のビジネスとは? 旅行業登録で新たな市場創造、取引先にリスクなし(2018年6月28日)
- 10位 訪日外国人の消費総額が初の年間4兆円超えに、中国が全体の4割、1人当たり支出額も中国の23万円(2018年1月16日)
- 11位 DeNAトラベルが売却へ、エボラブルアジアが全株式取得、ブランド名称は変更予定もサイト統合なし(2018年5月14日)
- 12位 民泊新法の施行
- 13位 なぜアマゾンは旅行業に参入できていないのか? 買収か挑戦か、「直面する難題」から「次の一手」まで考えた【外電コラム】(2018年4月24日)
- 14位 トリップアドバイザー、日本の「タビナカ体験」獲得に本腰、商品掲載は無料、リスクゼロで世界中に販売、24時間コールセンターも(2018年7月25日)
- 15位 日本政府観光局、知りたい「日本の観光統計」データを簡単に得られる専用サイト公開、世界の旅行者動向データも提供 (2018年3月27日)
- 18位 来年1月に始まる「出国税」、旅行会社が知っておくべきポイントは? 国税庁担当者が語る解説を聞いてきた(2018年8月2日)
- 19位 民泊エアビーが旅行会社(OTA)に挑戦状、ホテル予約の格安な手数料で波乱の予感、小規模宿泊施設に公開レターも 【外電コラム】(2018年4月13日)
- 20位 HIS、スマホ決済「PayPay」を国内全店舗に導入、「100億円あげちゃう」2割還元キャンペーンにも参加(2018年11月22日)
トラベルボイスは、サイト開設からちょうど6年、来年は7年目を迎えます。観光産業において、デジタル活用の意識が高まる中、トラベルボイスの読者は拡大が続き、月間50万人を超える方が集まる観光産業で最大のサイトに成長しました。
サイト開設から6年は、まさに訪日インバウンドの拡大期。今年は、とうとう訪日客3000万人を突破し、ますます活況をみせています。一方で、その成長とともに観光客増え過ぎ問題といえるオーバーツーリズムも顕在化(7位)。また、拡大するオンライン旅行販売では、Trip.com問題(5位)で観光庁が消費者に対して外資系OTA利用に注意喚起を発する事態も発生しました。
こうした課題とともに、来年には、ゴールデンウィークの10連休、新元号、消費増税などが控えています。テクノロジー発展のスピードは加速し、消費者トレンドや革新的なビジネスの変化は続いていくことと思われます。来年も、こうした課題や話題から、旅行・観光ビジネスに関わる皆様の一助になるニュースやトレンド情報などをご紹介していきます。
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トラベルボイス編集部 山岡薫