観光庁、コロナ後に向けた検討会を始動、「観光推進立国基本計画」の施策に反映される、識者の議論を取材した

新型コロナウイルスの影響で大きく落ち込んでいる日本の観光需要。地域の経済が立ち直るためには、中核でもある観光地の再生が不可欠だが、支える観光産業ではコロナ禍以前から、旧来型事業モデルの転換や生産性向上といったさまざまな課題が問題視されている。

このため、観光庁は新たに「アフターコロナ時代における地域活性化と観光産業に関する検討会」を設置。2021年11月25日に開催された第一回会議の冒頭、挨拶した国土交通省副大臣の渡辺猛之氏は、「観光産業は地域の稼ぐ力を高め、成長と分配の好循環を実現するためのけん引役を果たしていくことが必要」と言及したうえで、「検討会での議論を踏まえ、政府も今年度末に予定している観光推進立国基本計画への反映などに取り組んでいきたい」と、今回の検討成果を政府の施策として導入する方針を示した。

アフターコロナの観光復興に影響を与えるであろう、第一回会議のポイントをレポートする。

伸びしろは体験コンテンツ

まず、検討会の座長に選出されたのは、一橋大学名誉教授の山内弘隆氏だ。冒頭で山内氏は地域経済を復興させるためには、「観光の復興」、「持続可能性(サステナビリティ)」の2つが大きなポイントになるとの見解を述べた。

アフターコロナ時代に観光を復活させるためには、どのような取り組みが求められるか。多くの委員が喫緊にすべきこととして挙げたのが、新たな価値の創造だ。全国旅行業協会(ANTA)副会長の近藤幸二氏が「地域の人が自分たちでしか交渉できないような形で観光地を磨き、独自性のある着地型旅行に造成にあらためて力を入れなければならない」と述べたほか、じゃらんリサーチセンター・センター長の沢登次彦氏は「今後の伸びしろは、体験コンテンツ、体験プログラム」にあると指摘し、具体例として、コロナ禍で世界的に注目が高まっている「アドベンチャーツーリズム」を挙げた。

地域の視点からは、愛媛県大洲市長の二宮隆久氏が、「自然や歴史的資源をどう街づくりに活かすか、今まさに大きな課題になっている」と実情を話した。

日本旅行業協会(JATA)会長代行・髙橋広行氏の代理として出席したJATA理事の原優二氏も、アドベンチャーツーリズムやナイトタイムエコノミーのポテンシャルに期待し、深掘りが必要だと語る。また、生き残りを迫られる旅行会社にしかできない役割として、「高付加価値商品・サービスの提供、修学旅行を含めた団体旅行のコントロール、運営力が重要になる」と述べた。

レジリエンス高めるモデルへの転換

もっとも、こうした旅行業・宿泊業の高付加価値化、経営改善は、資金力なくしてはあり得ない。コロナ禍では政府や金融機関による資金繰り支援策、持続化給付金などで一時的に資金繰りが緩和され、旅行会社や宿泊施設の倒産抑制につながっているものの、現実はいずれ元本を返さなければならず、今後の対策が大きな検討課題となる。

官民ファンドである地域経済活性化支援機構(REVIC)地域活性化支援本部執行役員の大田原博亮氏は「アフターコロナに向け、新しいことをやるためにはどうしてもお金が必要で、地方金融機関がキーマンになるだろう」との見解。「融資だけでなく、資本という手段も含めて持続可能かつレジリエンス(復活力)を高めるビジネスモデルへの転換が早急に求められている」とも述べた。日本政策金融公庫常務取締役の片岡佳和氏も「政策金融で何ができるか。みなさんと議論を深めたい」とした。

観光の担い手をどう確保するか

冒頭で山内座長が2つ目のポイントに挙げた「持続可能性」については、検討会でほぼすべての委員が言及した。東京女子大学教授の矢ケ崎紀子氏は、観光は社会・経済・環境のすべてに関係する稀有な分野との認識をあらためて示すともに、アフターコロナの復興を実現するためには、「(漠然とではなく)データも活用しながら観光の可能性を再定義し、広く国民に理解してもらい、心を合わせて再度盛り上げていかなければならない」と力を込めた。そのためには、新型コロナの経験を十二分に活かし、地域で多角的に稼ぐこと、成長と持続可能性の両立、レジリエンスを高めることが大切だとする。

矢ケ崎氏の観光産業、地域創生全体を見すえた意見に特に強く同調したのは、観光産業の土台となる宿泊業に深く関わる、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会会長の多田計介氏と、日本旅館協会会長の浜野浩二氏である。

宿泊業はとりわけ、家族経営形態が多く、企業経営的な視点の不足や収益性の低さ、働き手の確保が課題になっている。多田氏は「旅館は地域への造詣も深めながら、日本文化を長い間守ってきたが、産業としての認知はいまだ低すぎる」との現状を説明し、「消費者動向の変化も踏まえながら産業の仕組みを再定義し、あらためて観光立国を宣言するべきではないか」との持論を展開した。

検討会ではコロナ禍でさらに深刻化した観光産業の人手不足を懸念する声も多く上がった。浜野氏は「少子高齢化による生産年齢人口の検証に加え、コロナ禍で働き手の確保がさらに難しくなっている」との現状を吐露。「働き方改革を実施するとともに、起点とするサービス形態の研究が必要だ」と指摘した。じゃらんリサーチセンター・センター長の沢登氏は、「観光の担い手を確保していくための働き方の柔軟性、努力と実績が報われるキャリアパスを構築していく必要がある」と述べた。

バックキャストで戦略を描く

委員からは単にアフターコロナに向けた対策だけでなく、中長期的に産業としての基盤を確立するための議論を重ねていきたいとの意見も多く上がった。日本交通公社主席研究員の山田雄一氏は、「(コロナのような)問題が起きたから後追いするのではなく、たとえば2030年頃をめどにバックキャストとして体質改善、構造改革を考えなければならない」と指摘。立教大学観光研究所・特任研究員の玉井和博氏も、「地域社会の人たちに観光をもっと理解してもらうためのインナーマーケティングを進めつつ、観光の社会的共通資本化を大きな目標値としてとらえることはできないか」と述べた。

また、日本政策投資銀行企業金融第6部長の森裕一朗氏は、「日本の観光の力の評価をきちんとするために、コロナ禍前になぜあれだけインバウンドが伸びたかについても要因分析したい」と語った。コンサルティングなどを手がけるリヴァンプ代表取締役兼CEOの湯浅智之氏は、「サステナブルに対する関心も高い若い世代にどうバトンをわたしていくか。成長の分配の議論も含めて(検討会では)踏み込んでいきたい」と意気込んだ。

今後、宿泊業と旅行業に分かれてワーキンググループを設置し、集中的な議論が始まる検討会。2022年2月頃をめどに、観光推進立国基本計画への反映も見込まれる骨子が取りまとめられる。

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