北米で人気の旅行アプリ「ホッパー(Hopper)」は日本に進出するのか? その戦略と躍進支えるBtoB事業をアジア責任者に聞いてきた

膨大なデータをもとに、AIで航空券やホテルの価格動向を高精度で予測し、航空券の「価格凍結」が人気となって急成長したOTAホッパー(Hopper)。北米では旅行予約アプリとして台頭してきたが、 アジア太平洋地域の攻略では、アゴダや豪州コモンウェルス銀行と提携するなど、まずBtoB事業に注力するという。このほど来日したアジア太平洋地区ジェネラルマネジャー、レノ・ワン氏に、日本を含む北米以外のマーケット進出における戦略を聞いた。

躍進を支えるのは「ホテル」と「BtoB事業」

ホッパーの名前を有名にしたのは、航空券の価格予測データをもとに2019年に開始したプライスフリーズ(価格凍結)などの革新的なサービスだ。予約した航空券の価格が予約時より上昇すれば差額はホッパーが負担する(値下がりすれば安い価格を適用)という“価格凍結”は、ミレニアル世代やZ世代から支持され、ダウンロード数は米国の旅行系アプリで最多となるなど話題を集めた。

同社によると、米市場における直販以外の航空券取扱シェアは、2023年1~6月実績で13%となり、「エクスペディア、プライスラインに次いで第3位のOTA」(レノ氏)となった。

しかし、現在、ホッパーの躍進を支えているのは「航空券よりもホテル」とレノ氏は明かす。本格的に取り扱うようになったのは、ここ3年ほどで、ホテル予約でも価格凍結や「Change For Any Reason(理由に関係なく変更OK)」など、様々なプロダクトを導入してきた。すでにホッパーのビジネス全体では、「ホテルが航空券を上回っている。航空券よりもホテルの方が、収益率が高いことが大きな理由」(同氏)という。

もう一つ、急成長しているのが2021年にスタートしたBtoB事業「ホッパークラウド」だ。その内訳は、主に2つ。価格凍結などのフィンテック商品を、他の旅行系プラットフォームに提供するものと、異業種向けの旅行ポータルサイト構築・運営するケースだ。これらのBtoB事業は、ホッパー全体の売上の半分以上を占めるまでになっており、来年には、BtoCのアプリ事業を超えるのが確実な状況だという。

アジアへの進出はBtoB事業で

レノ氏は、日本など、アジア太平洋地区の新しいマーケットへの進出でも、まずはBtoB事業を中心に進めていく方針だ。

「旅行業は新しい産業ではないので、欧州、アジア、南米など、どの地域にもすでにマーケットリーダーがいる。こうした大手と競争して新規顧客を獲得するには、多額の投資が必要。今すぐには考えていない」と同氏は説明する。

アジア太平洋地区では、2022年末からスタートしたアゴダとの提携が順調に推移している。アゴダのプラットフォーム上で、ホッパーがホテルの価格凍結サービスを提供開始したが、「ユーザーの反応は上々。北米と同様、アジアでもホッパーのフィンテック商品には大きな需要があるとの手応えを得ている」とレノ氏。今後、アゴダで提供するサービスをさらに増やしていく計画だ。

対照的に、2022年にパイロットプログラムを実施したトリップドットコム(Trip.com)との契約は、更新に至らなかった。航空券予約を中心にした取り組みだったため、収益レベルがホッパーにとって期待以下だったことが理由という。過去にあったインド拠点のMakeMyTripやインドネシア最大OTAトラベロカ(Traveloka)との提携関係も同様だという。

インタビューは、先ごろ開催されたWiT Japan会場で行った。写真は、ㇾノ氏が登壇したグローバルOTAのセッションの様子。米金融機関との成功を日本へ

日本市場への進出では、顧客や会員を抱える企業向けに、旅行ポータルサイトを運営する形が最も望ましいとレノ氏は考えている。

なかでも最有力候補の一つとして、レノ氏はクレジットカード事業を手掛ける日系メガバンクを挙げた。なお、ホッパーは今年5月、豪州ではコモンウェルス銀行と提携し、同行の顧客向け旅行アプリ構築で合意している。

レノ氏は提携相手について「業種などは問わないが、顧客ベースを持っていることが重要」と話す。ホッパーにとってのベストプラクティスは、2021年から会員向け旅行ポータルサイト運営で提携している米金融機関、キャピタルワンとの成功事例だ。同社はホッパーへの出資企業でもある。

「旅行ポータルサイト事業は、特に目新しいものではないが、競争力ある内容を提供できているところはあまりない。だがホッパーなら、大手OTAに負けない価格はもちろん、価格予測や変更保証など、最先端のフレキシブルなサービスも提供できる。しかもカード会員が獲得するリワードはOTAを上回るので、キャピタルワン・トラベルでは、カード会員の利用額アップという好結果につながった」(レノ氏)。

またキャピタルワン・トラベルでは、ホッパーと提携後、リワード比率(カード会員の利用額に占めるリワードポイントの比率)も80%から50%に低下。「会員が累積ポイントを消化するだけでなく、追加でさらに出費していることを示す数字で、ユーザーの満足度が高いことが分かる」とレノ氏は説明する。ホッパーとパートナー企業、さらに会員顧客にとってトリプル・ウィンのシナリオを、日本企業向けにも訴求していく考えだ。

テクノロジーでは常に先頭を走る

パートナー企業の顧客に満足してもらうためには、日本のローカルサプライヤーと良好な関係を築き、充分な旅行サービスを揃えることも重要になるとレノ氏は指摘する。一方、テクノロジー会社としてのホッパーの自負は、「技術面では常に先頭を走っていくこと」。

話題の生成AI、チャットGPTはすでに搭載済みで、カスタマーサービスやトラベルプランニングでの活用方法を考えている。「まだ実験的に導入している段階で、目下のターゲットは北米ユーザーのみ。社内データを使って、ホッパーのユーザーの行動、色々なシナリオ、適切な回答や提案方法を学習させているところだ。専任のプロダクトチームが、マイクロソフトと一緒に、ユースケース構築に取り組んでいる」(レノ氏)。

必要最小限のプロダクトを開発し、マーケットの反応を見ながら、完成度を上げていく。生成AIが脚光を浴びているが、「AI自体は、創業当初からホッパーの事業には欠かせないもの。我々は機械学習やビッグデータなど、関連技術にも慣れている」と自信を示した。

今後の目標は、まず2024年に稼働する豪州コモンウェルス銀行の会員向け旅行アプリで、最高のサービスが提供できるオペレーション体制を構築すること。そしてアジア太平洋地域で、もう一つ提携を実現すること。もちろん、日本も候補地の一つだ。

取材・記事 谷山明子

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