観光庁は、第3回のオーバーツーリズムの未然防止・抑制に関する関係省庁対策会議を2023年10月16日に開催し、オーバーツーリズム対策パッケージ案を取りまとめた。その案は、10月18日に観光立国推進閣僚会議で議論され、国として総合的な支援を行う方針が示された。
岸田首相は閣僚会議で、「観光客の集中による過度の混雑やマナー違反への対応」、「地方部の観光地の魅力向上などを通じた地方部への誘客促進」の2つの柱を示したうえで、「こうした取組みが、地域の実情に応じて円滑に進むように、政府・自治体・民間の連携強化に取り組む。また、地域主導で取組みを行う約20地域に対する包括的な支援を行い、先駆モデルを創出して、他地域に横展開していく」と明言。国交大臣を中心として、関係省庁の大臣に、持続可能な観光地づくりに向けて、政府一丸となって精力的に取り組むよう指示をした。
対策パッケージでは、持続可能な観光地域づくりを実現するためには、地域自身があるべき姿を描いて、地域の実情に応じた具体策を講じることが有効であり、国としてこうした取組みに対し総合的な支援を行うと明記された。
観光庁によると、総合的な支援には対策に必要な経費としての補助金や、情報提供などが挙げられる。対策パッケージで示された具体的な取り組みは以下のとおり。
オーバーツーリズム地域の交通・観光インフラの充実
観光客の集中による過度の混雑やマナー違反への対応では、観光客が集中する地域で交通手段や観光インフラの充実を進める。具体的には、京都などで混雑地域での路線バスから鉄道への分散・乗り換えを促進・支援するほか、全国的な「手ぶら観光」の導入を支援。チケット購入や運賃支払いのキャッシュレス・多言語化の支援を全国10地域から20地域以上に拡大させる。また、MaaSによる配車アプリの拡充、空港業務の生産性向上を進める。
交通手段の充実では、都市圏での鉄道や駅の改良、観光客向けの乗合タクシーの導入、タクシー不足に対する緊急措置など輸送力の増強を支援する。
さらに、まちづくり支援、国立公園を中心にした入域料の導入、「スマートごみ箱」の導入や宿泊業のDX化などを進める。このほかに、今年度中を目処に訪日客への民間医療保険加入促進を強化する。
需要管理では混雑運賃設定の規制緩和も
需要の管理の取り組みでは、エコツーリズム推進法や自然公園法に基づく入域規制やガイド同伴の義務化のほか、富士山では、適正な入山管理、軽装登山、ごみ投棄などについて、今秋から協議を開始する。また、京都市内における京都駅/清水寺方面などで急行バス導入促進と届出による運賃設定への規制緩和を進め、混雑運賃の設定に向けて、今秋中に制度の弾力的運用を行う。
需要分散化・平準化の取り組みでは、美瑛町や鎌倉市などで観光スポットや周辺エリアの混雑状況の可視化・リアルタイム配信の導入を支援し、文化財や美術館・博物館などでは早朝・夜間に体験する特別プログラムの実施も行う。
マナー向上に向けて「旅行者向け指針」を策定
このほか、マナー違反行為の防止・抑制では、タビマエ・タビナカにおける啓発として、今年度中を目処に統一ピクトグラムを策定。また、「旅行者向け指針」も策定する。多言語看板・デジタルサイネージなどの設置も支援する。さらに、今年度から観光客のごみ削減につながる行動変容を促進するモデル事業を開始する。
国立公園のブランド化で地方誘客
地方部への誘客促進については、地方部の観光地の魅力向上として、東北海道や伊勢志摩など全国11モデル地域において高付加価値なインバウンド観光地づくりの実現を目指す。また、全国各地で特別な体験や期間限定の取組などを自然、文化、食、スポーツなどの様々な分野で創出し、全世界に発信していく。具体的な例として、飛騨の里合掌造りの特別貸切、瀬戸内国際芸術祭の特別貸切鑑賞を挙げた。
さらに、中部山岳国立公園、やんばる国立公園など4カ所の国立公園における魅力向上とブランド化を進める。今年度に宿泊施設の誘致や自然体験アクティビティの提供など基本構想案を検討する。
地域住民との観光振興計画策定を20地域で
このほか、自治体やDMOが地域に働きかける取組みを促進。地域住民と協働した観光振興として、全国20地域で住民を含めた地域関係者による計画策定・取組み実施への支援をおこない、先駆モデルを創出。これを他地域にも横展開していく。これらに必要な観光の意義や効果などを地域住民らに伝える説明資料の作成もおこなう。
観光庁では、「地域自身があるべき姿を描いて、地域の実情に応じた具体策を講じることが有効。このための支援を行っていく」として、関係省庁を含めオーバーツーリズムに対して地域と連携しながら対策を進めていく方針だ。
各地域における課題解決のための相談窓口を設置し、各省庁が連携し支援する体制を整備する。今後も関係閣僚会議の枠組みは継続され、省庁をまたいだ情報交換や必要に応じた会議なども実施していく。