世界で広がる「反ツーリズム論」、観光産業に求められる「観光管理」、観光リーダーの提言を取材した

米観光産業ニュース「スキフト」が、このほど米国ニューヨークで開催したグローバルフォーラム2024で、カナダ観光局(デスティネーション・カナダ)の元CEO、グレッグ・クラーセン氏が登壇。オーバーツーリズムなど観光への批判が高まり、世界各地で規制強化の動きが強くなっている現状に危機感を示した。世界の旅行者人口が急増するなかで、観光産業が成長を続けるためには、マネジメント強化が急務だと訴えた。現在、クラーセン氏は、スキフト・アドバイザリーの戦略担当シニア・ディレクターを務めている。

クラーセン氏は、同フォーラムの講演で、持続可能な成長を実現するためには、バランスの良い需要分散や住民とのコミュニケーションなど、何よりもツーリズム・マネジメントの強化が必要だと話した。また、各地の観光組織がそれぞれ個別に問題に対処するだけでなく、グローバル・レベルで連携し、ツーリズムをめぐる議論に積極的に関わるなど、PR戦略の見直しも欠かせないとの考えだ。

世界的な反ツーリズム論の広がり

冒頭、クラーセン氏が紹介したのは、2023年の火災から復興途上にあるハワイ・マウイ島で、住民が抱える観光へのいらだちなどを取り上げた米国のテレビ番組だ。これは一例に過ぎず、同様の批判は、世界中のメディアで目立つようになっている。環境破壊、物価高騰、手ごろな住居用野賃貸物件の不足など、様々な問題が「オーバーツーリズム」という言葉でまとめられ、同氏は反ツーリズム運動のロビイストにとって格好の材料にもなっていると指摘した。

市民の不満に対応するため、イタリア・ヴェネチアでは中心部エリアで入域料金を徴収するようになり、バルセロナではホテル供給数を削減へ。アムステルダムからは“夏は来ないで”とのメッセージまで出ている。

こうした状況について、クラーセン氏は「これまで、観光・旅行業界が数的な成長拡大を何よりも重視してきた」ことで、「経済効果や税収増には貢献したが、観光客を受け入れるホスト、住民との関係構築が、ないがしろになっていた」と指摘。また、ツーリズムがやり玉に挙がる論調に対し、「充分な反論を行わず、必要な議論を避けてきた」とも話し、これまでとは違うKPIや指標、対応策を強化すると同時に、各地での取り組みを、地域住民や政府、活動家、メディアに知ってもらえる戦略的なアプローチが必要との見方を示した。

「観光産業のこれまでを振り返っても、政府による過度の規制が、健全な発展を妨げることは明らかだ。観光産業が自ら、問題解決に向けた議論を主導するべき」と同氏は訴えた。

観光の「マネジメント(管理)」にもっと人材を

クラーセン氏は「誤解しないでほしい。ツーリズムは、間違いなく成長を促すエンジンであり、世界の多くの国を支えてきた」と強調。そのうえで、世界の旅行人口が拡大するなか、数的な成長だけを追求する手法は限界を迎えており、持続可能ではないと指摘。住民を中心に据えた観光を「管理」することに力を入れることが、最も重要だと話した。

「これは、売上を減らすということではない。もっとスマートな手法が必要だ。例えば、訪問先や旅行シーズンをバランスよく分散すること。より幅広いタイプの旅行者を誘致することが必要になるかもしれない」。持続可能な成長のためには、「マーケティングよりもマネジメントに、もっと多くの人材を」とクラーセン氏は呼びかけた。

カナダ観光局の元CEO、グレッグ・クラーセン氏。「マーケティングよりもマネジメントを」と提言

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