星野リゾートの星野代表が語る、海外戦略、訪日(インバウンド)戦略

海外、訪日旅行者獲得で規模拡大へ

日本文化の独自性を活かしたブランド展開


 

軽井沢の老舗温泉旅館をリゾート運営企業に飛躍させた星野佳路氏。今年100周年を迎える星野リゾートの運営とともに、休日分散化を長年唱えるなど日本の観光産業の発展のための活動を積極的に展開してきた。そんな星野氏が語った、星野リゾートの現在と今後とはーー。このほど開催された同社プレス発表会で語られた星野氏が目指すリゾート運営と今後の戦略についてレポートする。


星野リゾート、星野代表

現在、星野リゾートが運営する宿泊施設は32施設。「星のや」ブランドで、日本国内の東京、富士、海外のバリ、「界」ブランドで日光、川治の開業を控えている。また、4月にはビジネスホテルの「チサンイン」21施設を取得。星野氏は、こうした施設数の拡大を続けてきた数年を「スケールメリットは予想よりも大きかった」と振り返った。特に「界」ブランドでは、部屋数が50室前後の小規模旅館を運営するブランドでも、件数がまとまることで「できなかった進化ができるようになる」と期待が高い。

こうしたスケールメリットを追求すべく「運営拠点は今後も増やしていきたい」という意思を表明し、今後も運営施設の拡大をしていく方針だ。


▼海外展開に意欲、東京から世界の「都市」へ

旅館メソッドの徹底とマルチタスクの

従業員教育

星野氏は、今後の海外展開について、まずは「アジア圏内で増やしていきたい」考え。特に「都市」への展開に意欲的だ。その試金石として2016年開業予定の「星のや東京」の成功が重要と位置付ける。「星のや東京」は、丸の内再構築プロジェクトの一環で、再開発中の大手町に建設。地上18階、地下3階という高層建築で高級旅館を表現するという、新たなチャレンジだ。この東京を成功させることで、新たな「都市」への一歩につなげたいという。

一方、海外展開の第一弾としては「星のやバリ」の開業を控えている。2014年開業予定で進められてきたが、実際の開業は2015年3月頃になる見通し。バリは同社にとって初めての海外展開で、今回学ぶべきことは多かったようだ。

星野氏は、こうした海外を含めた拡大をしていくうえで「日本旅館のメソッド」を実践する。これは、グローバルな高級ホテルとの差別化が鮮明になる方針で、独自路線のブランディングが期待される概念だ。具体的には、従来、欧米人目線で提供されてきたサービス方針を現地のマインドを重視した現地流のサービスとすること。従業員教育では出迎えから夕食、朝食、見送り、客室清掃まで、一連の業務に対応する日本旅館の運営の基本であるマルチタスクにこだわりたいという。


バリであれば、現地に住むバリ人の感覚で旅行者である客人を迎えるサービスを導入し、施設面だけでない「バリらしさ」が漂う宿泊を提供。また、マルチタスクでは「人件費差に甘えない」として一人一人のスタッフに様々な業務を兼任させることで、能力を高め、給与にも反映させて現地経済に貢献したいという。

日本国内で展開している「界」ブランドでは、施設が立地する地域文化に基づいた「ご当地楽」の提供を特徴としており、その土地らしさにこだわる同様のコンセプトともいえるだろう。


▼訪日外国人を積極的取込みへ

日本文化と移動手段として「鉄道」活用を提案

プレス発表会のプレゼンテーションより

星野氏は、訪日外国人の宿泊について、この2年間で「劇的に増えている」状況を明らかにした。さらに、「どうすれば増えるかわかってきた。」として今後、積極的に外国人の獲得に注力する姿勢だ。

星野氏は日本の温泉旅館の強みを「日本文化のテーマパーク」と表現。温泉や食事だけでなく、畳の客室や布団、浴衣などの日本文化に触れることができる場として外国人のニーズを満たす場であるという考えだ。京都では中心地にあるハイアットホテルに宿泊した外国人が1泊だけ嵐山の「星のや 京都」に泊まりに来るという事例も多いことに触れ、特殊な体験ができる日本旅館を外国人に売る上で「日本文化として譲らないところは譲らない。」という方針だ。

一方、世界の富裕層にとっての常識をとらえることも重要と考えており、界の宿泊施設が空港送迎をしている常識にチャレンジをしたエピソードも披露。しかし、コスト面や規制(法律面)の問題で断念した。そこで、星野氏は日本の鉄道文化を活用してもらうことを提案。定時で動き、日本全国に路線網を持つ快適や鉄道に乗車すること自体を日本文化体験と捉えてもらうための推進活動をしたいという。また、鉄道を活用すると都市から地方に外国人が移動しやすくなる点も指摘し、鉄道は訪日旅行者を増やすキーだと考えている。


▼ビジネスホテル「チサンイン」21施設を取得

ビジネスホテルは観光産業に大きな影響を与える

星野リゾート・リート投資法人が資産運用を委託する星野リゾート・アセットマネジメントは、2014年4月4日に新たに24物件の取得と賃貸を行うことを発表している(取得予定価格の総額は合計183億6000万円)。取得した「星のや京都」「界 阿蘇」「界 川治」の3物件では、京都を嵐山御瀬嵐峡舘に、界の2件は星野リゾート・マネジメントに賃借。また、「チサンイン」グループから21施設を取得し、SHRロードサイドインに賃借する。

今回の決定について星野氏は「正しい選択」だったとして、特に京都の物件が木造物件の旅館でありながら「REAT(不動産投資信託)に組み込むことができたのは、素晴らしい事例となる。」と評価した。


プレス発表会のプレゼンテーション資料。ビジネスホテルの利用目的でピンクがレジャー、青がビジネス。

ビジネスホテルのカテゴリにあたるチサンイン21物件を取得した理由について、星野氏は「ビジネスホテルは観光客のニーズを捉えている」と判断したという。これは、泊食分離、好立地の利便性、安価や室料などの面で、今後「ビジネスホテルが観光産業成長に大きな影響を与えている。」との考え。裏付けとしてビジネスホテルチェーンの宿泊実態を独自で調査したところ、ビジネスホテルは観光目的で使っている人が多いと結論づける結果がでたことを紹介した。過去に観光温泉旅館が担ってきた役割を現代に果たしているビジネスホテルは、名前が「ミスリード」との結論にいたり、今後も投資対象である考えを明らかにした。

なお、星野リゾート・リート投資法人は同時に公募増資と第三者割当増資で最大152億9954万5800円を調達。同時に、三菱東京UFJ銀行をはじめとする金融機関から、50億円を借り入れることを決めている。

参考記事>>>

(トラベルボイス編集部:山岡薫)

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