JTBオンライン戦略で「一番の強みはリアル店舗」、今井社長が語るオムニチャネル化構想

i.JTB代表取締役 今井敏行氏

2015年、JTBのオンライン販売額は約2050億円に達する見込みだ。この数字は、JTBの個人旅行(日本人の国内・海外旅行)の約2割を占める。i.JTB代表取締役の今井敏行氏は、旅行のネット販売を「もはやオンライン/オフラインではなく、JTBの旅行そのものといえるようになった」と位置付ける。


2015年4月に開始したオムニチャネル化の推進は、それを象徴しているようだ。リアルの店舗販売網を持つ旅行会社は、長らくインターネットとの付き合い方を模索してきたが、その最大手が真っ先に見出した答えと勝機は何か――? 今井氏に現在の取り組み状況とともに、今後の展開を聞いてきた。

今井氏は2016年2月1日付で、JTB本社の取締役旅行事業本部長に就任し、ウェブ戦略とCS推進を担うことが決定している。


オムニチャネル化の効果 ―2段構えで店舗とオンラインを融合

JTBがオムニチャネル化を発表したのは2014年7月のこと。異業種企業でもオムニチャネルの成功例が少ないなか、日本一の販売店を持つ大手旅行会社として初の大決断だ。計画は2段構えで、2015年の第1フェーズは、(1)店舗とネットの顧客ポイントの共通化と、(2)店舗スタッフが関わったオンライン販売の売り上げ実績を店舗に還元する、の2つ。

店頭に売上実績が戻るようになると、「ネットを使って利便性を追求し、店頭とネットの両方を伸ばしていこうという機運が高まってきた」と今井氏は語る。

店頭とネットの会員情報を紐づけることで、久しぶりの来店だと思ったお客様が実はネットで旅行を購入していたことが分かれば、その情報を踏まえた上での接客ができる。ネット専用商品が来店客の意向にあうのなら、それを勧めることにも積極的になった。

店頭スタッフのモチベーション向上はもちろん、事業会社側もオムニチャネル化のスピードアップを促すようになり、「2017年には一定の成果が見られると思う」と自信を見せる。


オムニチャネル化の本当の目的

今井敏行氏

その2017年には第2フェーズとして、店舗とインターネットの一部予約システムの統一を予定。ネット上に会員の「カート(買い物かご)」を用意し、商品の取り置きや予約を店頭と会員の双方ができるようにする。「そうするとCSも向上し、店頭販売の強化にも繋がる」と効果を語る。

例えば、旅行案内の末に安価なネット専用商品が最適と判断すれば、店頭スタッフがネット上のカート(買い物かご)に入れておく。そして、購入手続きは場所や時間を選ばず、自宅や友人と客自身が行なうことが可能だ。

その分、海外挙式・ハネムーンや三世代旅行など、ネットでは完結できない商品のコンサルティングでは、店頭スタッフとの相談時間を十分に取る。こうした時間の使い方で「店頭の役割はさらに変わってくるだろう」と店頭販売の強化に繋がることも説明する。

「以前は店頭を持っているがゆえにできなかったことがあるが、今は店頭があるからこそできることがある。それが他OTAとの差別化になる」と今井氏。「これで真のオムニチャネルが完成する。ここからがもう一つのスタート」と、オムニチャネル化はゴールではなく、事業展開の基盤であることを示唆する。


激化する仕入れ競争に追い風

世界的な“大交流時代”、特に日本ではインバウンドの急増で商品の仕入れ環境が大きく変わってきた。“在庫の枯渇”が発生する状況のなか、サプライヤーとの関係でも店頭を有する旅行会社であることが有利に働くと、今井氏はいう。そのポイントは3つ。

1つは、宿泊施設側の意識が変化してきたこと。手数料の安さで優勢だったOTAの群雄割拠で、現地払いやキャンセル料ゼロなど様々なサービスが出てきたことで、ノーショーや大量取消が発生し「“歩留まり”を意識されるようになった」。

稼働率だけではなく、ADR(平均宿泊単価)やRev PAR(販売可能な客室1部屋当たりの売上)を重視する傾向も強まっており、「今は予約の早さ、金額、ギャランティの3つが大きな要素。事前決済で100%ギャランティの店頭販売の重要性を見直す施設が増える」と見る。

2つ目は、ITの発達で独自の在庫確保が難しくなってきていること。宿泊施設側では複数の販売サイトの在庫を共有できる一元的な予約管理システムの導入が進んでいる。

この状況に対し、宿泊施設へのプレゼンスを上げる方法として今井氏は、旅行会社ならではの企画力をあげた。例えば、テーマパーク近辺のホテルでは夕食を園内で済ませる利用客が多いため、宿泊単価を上げる工夫が課題となっている。そこで、閉園時間以降に軽い夕食を設定したプランを提案したところ、多くの宿泊客に利用された。「OTAとして力を入れる技術開発や検索トレンド分析に加え、サプライヤーに対するコンサルティング力が強みになる」と胸を張る。

3つ目は、「売るものがない」という声が聞こえるほど、商品確保が難しくなっていること。JTBではオンライン販売だけではなく、店頭販売やパッケージ、団体旅行すべて一括仕入れとしているため、商品の時期やチャネルに応じた配分が可能。「枯渇すればするほど」総合旅行会社の強みが活かせるという。

実際、国内旅行予約の「るるぶトラベル」は掲載施設数が増加し、品揃えが広がっている。今井氏は「掲載軒数がサイト価値になる」とし、今後もさらに拡大させていく方針だ。

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「旅行会社であること」を勝ち抜く武器に、ダイナミックパッケージに活路

i.JTBの本業であるオンライン販売では、どう展開していくか。

まず、オムニチャネル化が完成する2017年には、「るるぶトラベル」と「JTBホームページ」の一本化を予定。サイト内の商品拡充とともにCRM戦略へと舵を切っているという。

品ぞろえでは、ダイナミックパッケージに注力する方針。募集型企画旅行なので、競合の外資系OTAが現在、取扱い出来ない分野であること、国内OTAに対しては「宿泊単品は勝負できるようになってきたが、ダイナミックパッケージでは遅れている」というのが理由。

楽天やじゃらんは、提携で先行した大手日系航空2社の仕入れで強みを持っているが、i.JTBではこれら2社に加え、LCCジェットスター・ジャパン(GK)とダイナミックパッケージで最初に提携。航空会社はグループの強みを生かし7社を揃える。さらに2015年末にはJR東海と提携し、初めてダイナミックパッケージでJRの取り扱いを開始した。

このほか、レンタカーは2社扱っており、今後は高速バスを始めるための準備も進めている。「ダイナミックパッケージに組み込める商品の幅広さがある」と、ここでも総合旅行会社の強みをアピールする。

さらにその先は、旅行を軸にしたオンラインでの経済圏拡大も視野に入れる。2015年にはJTBとしてアクティビティ会社・アソビューに出資し、「JTBホームページ」で旅ナカ商品のバリエーションを広げたが、今後はJTBスタンプ組織を活用し、訪日旅行サイト「JAPANiCAN」などでの土産品販売も模索する。


JTBの経済圏をオンライン上に展開

いずれにしても「オンライン販売においても、一番の強みはリアル店舗。これをもっと活用しない手はない」と今井氏。グループ内を含め、周辺商品を有機的に販売できる協業先には、積極的に声をかけていく方針だ。JR東海とのダイナミックパッケージや、ソフトバンクとのインバウンドにおける提携も、そうして実現したのだという。

「今の時代は何が起こるかわからない。テクノロジーを活用し、業種を超えて旅行に参入する企業が増えており、JTBとしても気を抜けない。けれども、大きな違いは旅行会社かIT会社かどうかということ」と今井氏。インタビュー中、何度も強調するこの点が、JTBの見出した勝機だ。オンライン販売はそれを融合し、活かすための基盤というのが、現時点での答えなのだろう。

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聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫

記事:山田紀子(旅行ジャーナリスト)



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