トラベルポートLIVEアジア太平洋カスタマー・カンファレンス2016 現地レポート(2)
競争が激化する航空業界で、今後の航空業界はどこへ進むのか――? トラベルコマース・プラットフォームのトラベルポートがマカオで開催した「トラベルポートLIVEアジア太平洋カスタマー・カンファレンス2016」では、「What next for airlines? (航空会社の未来)」と題したパネルディスカッションが行われた。
話題はLCCアライアンスから国際航空運送協会(IATA)のNDC(New Distribution Capability)などの流通、そして「"ウーバー的" 航空会社」まで。キーパーソンが今後のアジア太平洋(APAC)の航空業界を占った。
パネリスト:
|
アライアンス、IATAとの関係、変化するLCC
パネルディスカッションでまず話題に上がったのがLCCのアライアンス。中国では「U-FLYアライアンス」が結成されたほか、アジアのLCC8社が集まり「バリューアライアンス」を立ち上げた。議論に先立ち、トラベルポートアジア太平洋エア・コマース担当VPのダミアン・ヒッキー氏が提起した課題は「APACの航空業界では大きな変化が起きている。旅行会社はこの変化からメリットを得ることができるのか?」。
―IATA クリフォード氏
「航空業界の障害は40年間続いているレガシー構造。FSCにとって難しい課題だが、白紙から始めるLCCにとってはそれほど難しくない。LCCアライアンスはある意味実験的なこと。ここで、合理化、経費削減、収益向上、イノベーションを起こせれば、世界に広がるのではないか」との見方を示す。
―香港エクスプレス ジアン氏
同社はどちらのアライアンスにも参加していないが、この動きに関しては好意的だ。ジアン氏は「APACの空港では、航空会社自らスロットを確保することはできないところが多い。新規LCCや中小LCCは、FSCとの競争の点でも自分たちを守る必要がある。」との考え。
また、APAC、特に北アジアではLCCはまだ新しいビジネスなので、アライアンスを組むことによって、各国の規制を超えることができる」と説明。今後の展開として、「参加LCCの乗り継ぎチケットが共有ウェブサイトで購入できるようになるのではないか」と予想した。
―WATTT ウエストヴェリー氏
旅行代理店の立場から「アライアンスは厳しい話」としたうえで、「もっと旅行代理店とLCCが協力できないだろうか。流通技術が発達しているいま、LCCとのB2Bの関係もよくなるはず」と希望を述べた。
―IATA クリフォード氏
これを受けて、クリフォード氏は「LCCもBSP(IATAの精算システム)に加わる方がいいのではないか。」と提案。「IATAはLCCとの話し合いを続けており、今後BSPに加わるLCCも増えるかもしれない」とLCCとの関係の変化に期待感を示すとともに、「世界中7000のIATA代理店が同じ構造を持つのは難しい。IATAでは、より柔軟なBSPの仕組みをつくるための議論を進めている」と説明した。
流通構造激変も、旅行代理店経由の予約は必要
そして議論は、流通における航空会社と旅行代理店の関係に発展する。各氏の見解は以下だ。
―WTAAAウエストヴェリー氏
「流通は激変している。IATA代理店がこの進化から取り残されないようにするのが大切。先進的な技術はあらゆる人にメリットをもたらすが、小規模な代理店ではそれを享受するのは難しいのかもしれない」。
―カンタス航空オルスザクツキー氏
「航空業界は非常に複雑だが、カスマターにいかにシンプルに情報を提示できるかが重要。また、業界内でのパートナーシップも引き続き大切だと思う。すべての予約がタイレクトになることはない。やはり代理店の存在が必要になってくる」。
―香港エクスプレス ジアン氏
一方、ジアン氏(香港エクスプレス)は「eコマースとテクノロジーの進歩によって、LCCは新しい商品を出せるようになっている」と話し、ダイレクト流通がLCCのビジネスモデルに重要な役割を果たしている点を強調した。
―IATA クリフォード氏
IATAでは、旅行会社経由で航空会社のプロダクトや付帯サービスを販売する際の新しい販売規格NDCの普及を推進している。クリフォード氏は、この取り組みについて説明。「航空会社150社を対象にした最近の調査では、50%がNDCを導入済みか導入計画があり、導入しないと答えたのは15〜20%だった。NDCを求める市場の声は大きい」とした。
航空会社と旅行会社との連携強化を目的に立ち上げられたNDC。オルスザクツキー氏は「法人の予約は代理店経由が多い。NDCのメリットは大きい」と応え、ウエストヴェリー氏も「代理店を使って予約をする流通は十分に残っている」と強調した。
"ウーバー的"な流通の仕組みが航空業界にも?
新しいビジネスモデルが旅行業界にも出現し、Airbnbはホテル業界を、ウーバーはタクシー業界を変えている。アメリカではすでに小型機を利用した「プライベート・フライト・シェアリング・サービス」が登場した。果たして航空分野でも「ウーバー的航空会社」が、業界の構図を変える可能性はあるのだろうか。
カンタス航空のオルスザクツキー氏は「オーストラリアでも出資金を募ってウーバー的航空会社を始めようとする動きがある」と紹介。そのうえで、「なにもかもがウーバー化することはないと思う」とした。
その理由として「航空会社にはブランドの価値というものがある。顧客にとって、信頼性も含めてそれは重要な要素になっている。サービスのよくないタクシー業界でウーバーは生まれ得るが、航空業界では難しいのではないか」との見解を示し、業界を変えるほどのインパクトはないと見る。
ただ、ウーバーの技術が新しい流通のコンセプトを生み出した点についてパネリストの意見は一致した。将来、ウーバー的航空会社は広がらないにしても、ウーバー的な技術を用いた革新的な流通の仕組みは航空業界にも生まれるかもしれない(オルスザクツキー氏)。
同カンファレンスの現地レポート(1)の記事はこちら>>
取材・記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹