訪日外国人旅行者の受け入れに際し、指紋や手のひらの生体認証を活用した決済や旅館・ホテルのチェックインが開始される。経済産業省が推進する訪日外国人の受け入れ連携基盤「おもてなしプラットフォーム」構築に向けた、「IoT活用おもてなし実証事業」として実施されるもの。
2020年に訪日客数4000万人、消費額8兆円などの政府目標の達成に向け、サービス事業者同士が連携して質の高いサービスを提供する仕組みを構築するのが目的。「おもてなしプラットフォーム」は2020年の社会実装を目指す。
同プラットフォームの具体的な仕組みは、訪日客の同意のもと、買物、飲食、宿泊、レジャーなどのサービスを受ける際に必要な個人情報を共有・連携。生体認証などによる手ぶらでの決済やホテル・旅館のチェックイン、体験プログラムの参加などのサービス提供のほか、スマートフォンへの情報提供などを行なう。予め登録した言語でのサービスが受けられるほか、宿泊先や自宅の住所登録をしておくことで、毎回の記載手続きをなくし、簡便に荷物配送サービスを受けることも可能となる。
一方、サービス事業者にとっても、訪日客の行動履歴や購買履歴など1事業者では収集が難しい膨大なデータを解析に活用できる。これにより、新サービスの開発やマーケティングでの利用が可能となる。
実証は地域ごとに行ない、まずは関東、関西、九州の3地域で実施。このうち関東はJTBコーポレートセールスなどによる指紋認証を活用した「Touch & Pay」、関西はパナソニックグループなどによる手のひら認証の仕組みで、各種実証が行なわれる。各地域の取り組みについては、下記を参照。
なお、事業者や地域の連携を可能にする「おもてなしプラットフォーム」の構築では、大日本印刷が開発したシステム「VRM(ベンダーリレーションシップマネジメント)」を採用。同社とデロイトトーマツコンサルティングが委託を受け、運営する。プラットフォームの名称は「miQip」(マイキップ)。miQipへの一度の登録だけで事業者や地域のアプリやサービスごとの登録を不要とし、サービスを受けやすい環境を整備していく。大日本印刷ではmiQipを通じたVRMシステムの社会実装により、2020年度に30億円の売上げを目標としている。
【関東実証(湯河原・箱根・鎌倉):JTBコーポレートセールスなど】
関東での実証実験は、JTBコーポレートセールスが取り組む「Touch & Pay」を採用。指紋生体認証技術と個人属性情報をサービス事業者間で利用するIDサーバーを連動して構築している。この仕組みで必要な指紋生体認証では、人の指紋の分岐点や端点などの特徴のみを抽出して数値・暗号化しているのが特徴。指紋自体の情報管理の必要はなく、この情報だけで指紋の画像に復元することもできないため、不正利用は不可能だという。
空港や観光案内所、ホテルなどの旅のファーストポイントで初回の指紋登録を行ない、「Touch & Pay」と紐づける。タビマエにホームページでなどで各サービスに必要な個人情報を登録しておくことで、タビナカ、タビアトでは指紋生体認証のみでサービスが受けられるようになるという仕組み。
今回の実証実験は神奈川県湯河原町、箱根町、鎌倉が対象だが、すでに三重県菰野市を含む4地域で試験運用を実施しており、順次全国への普及に向け取り組む。国内のメジャーテーマパークや大手ホテル、銀行でも導入されており、システム改善も進行している。
「Touch & Pay」(イメージサイト)
指紋認証「Liquidpay」イメージ動画(英語)
【関西実証:パナソニックなど】
関西ではパナソニックシステムネットワークスが委託。関西国際空港、なんばCITY、天保山マーケットプレースで実施する。空港や鉄道改札口、商業・観光施設などに光ID送信機能を搭載したデジタルサイネージを配置し、情報を見る訪日外国人のスマートフォンに母国語で情報を提供(英語、中国語、韓国語、タイ語)。利用者の属性の応じたレコメンド機能で、送客・誘客効果も検証する。
また、天保山マーケットプレースでは手のひら認証決済サービスも実施。利用者が事前にダウンロードしたスマートフォンアプリに自身で掌紋を撮影し、決済に利用するクレジットカード情報とあわせて登録すると、対象店舗での買い物時に手のひらを店舗設置のタブレットにかざすだけで決済できるようにする。
その他、来店客の属性を店舗に伝えるインタラクティブショッピングサービスや、旅行メディアを軸にした送客・誘客施策の有効性の検証も行なう。
「大阪おもてなしサービス」(イメージサイト)【九州実証(福岡):ジェイティービーなど】
JTBが委託を受け、NTT、JCB、ジャパンショッピングツーリズム協会(JSTO)と共同で実施。JTBとNTTによる観光情報アプリ「Japan Trabel Guide」を活用した、観光、ショッピング、飲食、優待サービスなどの情報提供と、特典付きのカード型商品券「JCBプレモカード(For Tourists)」で、滞在中の移動と決済の情報を解析し、地域経済活性化のためのマーケティングに活用していく。
観光情報アプリ「Japan Travel Guide」ダウンロードキャンペーン「HAPPYY! KYUSHU FESTIVAL」サイト(オープン未の場合あり)