【対談】 星野佳路氏と世界大手OTAトップが本音トーク、OTAの悩みから宿泊施設との関係まで

斬新なコンセプトで次々と新施設を生み出す「和製」のリゾート運営会社・星野リゾートを率いる星野佳路氏。そして、アジアを起点に業績を伸ばすOTAアゴダ・ドットコムのビジネス開発担当VPティモシー・ヒューズ氏。このふたりがWIT Japan 2016で初めて出会った。テクノロジーの進化で旅行流通が大きく変化しているなか、彼らが語り合ったら、どんな化学反応が起きるのだろうか?

そんな関心から企画したふたりの対談の話題は、テクノロジーからOTAと宿泊施設の関係、訪日市場、民泊にまでおよんだ。そこから見えてくる成長するための術とは――?

モデレーター:トラベルジャーナリスト 山田友樹

“いくら流通の環境が変わっても、プロダクトがやはり重要”

――テクノロジーの進歩によって、オンライン旅行業界の変化も激しくなっています。この流れをどう見ていますか?

星野(以下、敬称略) 進化するIT技術にアジャストしていかなければいけないのは確かですが、いくら流通の環境が変わっても、プロダクトがやはり重要だと思います。現在の流通の問題は商品がコモディティー化していること。そこで、必要になってくるのがサービス、施設、宿泊体験の差別化でしょう。それができれば、技術の進歩を恐れることはない。技術が進歩しているからこそ、原点に戻ることが大切だと思います。

ヒューズ ベストのマーケティングはプロダクトの品質。いくら投資しようとも、プロダクトがよくなければ成功しない。進化するテクノロジーへの対応としては、カスタマーケアを向上させるとか、コンテンツを充実させるとか、予約プロセスをちょっとだけ早くするとか、ビッグイノベーションというよりも、そういったスモールイノベーションの方が大切だと思います。

“OTAと宿泊施設も友人関係なんでしょうか?”

――技術の進歩によって予約方法も変化しています。また、消費者も体験やパーソナルな旅を求める傾向にあると言われています。最近の予約傾向に変化を感じられますか。

アゴダ・ドットコム VPのティモシー・ヒューズ氏

ヒューズ 予約については3つの傾向があるように思いますね。まずは従来通りの予約。それからオフラインからオンラインへの移行。そして、3つ目として、消費者はオンラインで従来とは違うものを予約する傾向がある。オフラインとは違う価格のもの、違う体験のもの、これまで行ったことないデスティネーションなどです。オンラインで消費者はもっと深い旅を求めているような気がします。

星野 予約について言いますと、WITのパネルディスカッションで航空会社とOTAは友人関係だと話していましたが、OTAと宿泊施設も友人関係なのでしょうか?

ヒューズ もちろんそうですよ(笑)。そうでなければ、私たちのビジネスは成り立たない。

星野 私が言いたいのは、独立系の宿泊施設はダイレクトブッキングに力を入れている。理想を言えば、それが一番いいのではないかと思うんです。つまり、宿泊施設がOTAに加わる価値とは何だろうかと。

ヒューズ いい質問ですね。OTAは宿泊施設による予約の補完的な役割ではないかと思うんです。水と油の存在ではなく。OTAとの関係には2つの価値があります。ひとつは、より多くのカスタマーやリピーターを呼べること。もうひとつはマーケットスケール。

たとえば、日本のホテルを翻訳することによって、それを他国でも売ることができる。それを個人でやろうとすると莫大な投資が必要になってきますよね。毎年、同じ人が同じホテルを直接予約することは、ホテルにとってうれしいことですが、それに加えて、OTAは新しいカスタマーを連れてくることができる。

星野 OTAをできるだけ避ける宿泊業者も日本には多いと聞きます。補完的な役割だとは思っていない業者がいるのも確かです。宿泊施設側が効果的にビジネスを展開するには、どのようにOTAを利用すればいいでしょうか?

ヒューズ OTAそれぞれの個性とスタイルを理解して、パートナーシップを大切していくことに尽きると思いますね。アゴダは現在世界でトータル16万軒の宿泊施設を取り扱っていますが、それも相互理解のおかげだと思っています。星野さんともすぐにパートナーになれますよ(笑)。

“OTA業界は毎年競争が激しくなるので、毎年頭を抱えています”

星野リゾート代表 星野佳路氏

星野 そのなかで、成功しているところとそうでないところもあると思うのですが、アゴダのシステムをうまく利用しているホテルとはどういったところでしょう?

ヒューズ 写真などのコンテンツが充実しているところだと思いますね。消費者はビジュアル情報を好む。それから、価格を適時アップデートするところ。たとえば、ピークやオフなどシーズンに合わせて柔軟に価格を設定するところですね。

星野 レビューの役割はどうですか? トリップアドバイザーをチェックする旅行者は多いですよね。

ヒューズ レビューは重要ですね。ユーザーにとってだけでなく、ホテルにとっても。同じホテルでも、それぞれ宿泊者のタイプによってレビューは変わってくる。たとえば、ファミリーとビジネスとでは違いがある。それを分類すると、そのホテルの顧客プロファイルができます。

星野 OTA業界も、次から次へと新しいプレイヤーが登場して競争が激しいですよね。ホテルサイドからすると、人も限られているので、OTAを選ばざるをえない。

ヒューズ OTAの世界に15年ほどいますが、毎年競争が激しくなるので、毎年頭を抱えていますよ(笑)。でも、需要がそれだけ伸び続けているということでしょう。技術の進歩に合わせて、サービスのクオリティーを上げて、競争に挑んでいます。常にイノベーションを起こす。小さなイノベーションでいいんです。立ち止まっていることはないですね。OTAに参入する壁は低いですが、成功するのには高い壁がある。強力な競争相手は多いし、ユーザーも賢くなっていますから。

“訪日外国人目標4000万人は高すぎる目標だと思いますよ”

――昨年、訪日外国人が2000万人に迫る勢いを見せました。日本政府は新たに2020年に4000万人という目標を掲げました。これは過大評価でしょうか。それとも過小評価?

ヒューズ 日本市場を常に見ているわけではないので、その目標が適切かどうかはよく分かりませんが、日本のプロダクトは素晴らしいということだけは言えます。世界での日本の評価は非常に高い。課題を挙げるとすれば、もっと日本を知ってもらうための次の段階の情報提供ではないですか。

星野 個人的には高すぎる目標だと思います。たとえば、欧州ではテロの発生によって、旅行者は減少しています。その旅行者が日本に向いている側面もある。円安も今後どうなるか分からない。そうした予測不可能なことはいっぱいある。インバウンドも重要ですが、まずは国内旅行消費の大部分を占めている日本人による国内旅行に注意を払うべきですよね。

日本の旅行人口は徐々に減少していますが、それは人口減少というよりも、若者層の旅行離れが問題です。私が学生の頃、新幹線は東京/大阪間だけでしたが、今は全国にネットワークを広げている。新幹線によって旅行は早くなりましたが、値段は高くなった。ビジネス旅行者にとってはいいかもしれませんが、時間はあるがお金のない若い人たちにとってはよくないことですよね。交通網が整備されるにつれて、若者は旅行がしづらくなったのも事実です。

近い将来リニアも登場しますが、値段はもっと高くなるでしょう。同じことは訪日外国人旅行者にも言えるのではないでしょうか。早い移動について彼らは誰も文句は言わないけれど、値段が高ければ、旅行を躊躇してしまう。国内旅行消費や外国人による消費を伸ばしたいなら、業界はもっと消費者の声に耳を傾けるべきだと思います。

“施設をラグジュアリーにアップグレードして、シェアリングの手法で新たな収入源に”

――旅行業界にもシェアリングエコノミーという新しい流通スタイルが現れています。その代表格がいわゆる民泊(ホームシェアリング)です。この民泊の未来をどう見ていますか?

ヒューズ アゴダではノン・ホテル・アコモデーション(NHA)として、個人所有のアパートメント、コンドミニアム、別荘などを長年扱っています。特にインドネシアでは多いですね。そのなかにはニュージーランドのハイクオリティーB&Bタイプもある。こうしたタイプの宿泊は昔からありますよね。流通は違いますが、レジャートラベルであれビジネストラベルであれ、ホームシェアリングが直接的に既存のホテルと競合するものではないと思っています。異なるキャパシティーを提供するプロダクトとしていいオプションになるのではないでしょうか。

星野 いわゆるNHAはヒューズさんの母国オーストラリアでも伸びているのですか。規制もいろいろあると思うんですが。

ヒューズ オーストラリアでホリデーハウスとして扱われているものがあります。長期的なレンタルが中心。規制は緩い方じゃないですかねえ。政府は徴税で悩んでいるようですが。

星野 日本では新しい法規制の議論が進んでいますが、現時点では民泊は法的にグレイになっています。でも、マーケットは成長し、ホストも増えている。一方で、安全性や近隣との関係を心配する声は多い。ほかの国ではどうなんでしょう。アゴダの物件で何か問題を聞いたことがありますか。

ヒューズ アゴダで扱っているのは独占契約のプロパティーだけです。各オーナーと直接話ができる体制になっているので、安全性や近隣からの苦情についても対応はできています。

――シェアリングエコノミーの経済的側面はどうでしょうか。

星野 ある特定のエリアにおいて経済効果は高いと思います。たとえば、スキーリゾート。日本のスキーリゾートの施設は3、40年前のものも多く、非常に古い。食事もいいし、文化も面白いし、雪質も最高なのに施設が悪い。スキーシーズンは1年で3〜4ヶ月だけですよね。投資家は1年に数ヶ月しか稼働しない所に投資したがらないんですよ。

こうしたところでは、シェアリングエコノミーは大きな役割を果たせるのではないでしょうですか。ヨーロッパやニュージーランドはシーズンオフにも使える素晴らしいスキーアコモデーションがある。施設をラグジュアリーにアップグレードして、シェアリングの手法で閑散期に貸すことができれば、新たな収入源になりますよ。

ヒューズ まったくその通りですね。供給の選択肢が増えれば、需要の底上げにも繋がる。たとえば、LCCの登場によって、マーケットの需要動向も変化してきた。LCCが旅行者を増やしているのは確かですよね。宿泊施設も同じじゃないですか。民泊で旅行者が訪れれば、その土地も有名になり、経済的にも潤うと思いますよ。


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