ユーロモニター・インターナショナルは、英国ロンドンなどで相次いだテロ事件が海外旅行マーケットに及ぼす影響について、同社独自の予測ツールを使った見通しをこのほどまとめた。
それによると、今夏のピークシーズンまでについては、予約済みの英国旅行をキャンセルするといった影響は軽微と予測。特に英国の場合、価格が比較的高いデスティネーションとのイメージがあるため、早期割引で活用して予約した旅行をあきらめるまでには至らない。ただし、各国政府が英国への渡航自粛を促すような注意喚起を発出した場合、状況は異なる。
一方、安全なデスティネーションとしての英国のイメージに対する打撃は免れない見通し。秋以降から2018年にかけて、英国旅行を検討していた人が旅行の延期、あるいは行き先を変更する動きが数字にも現われてくる可能性があると予測している。
訪英外国人旅行者数はトータルで1%減の見通し、減少幅最多は2017年か
英国に限らず、欧州各地で同様の事件が起きている状況下、デスティネーション側が重視すべきこととして、同レポートでは、旅行者の安全確保、さらに有事の際の当局の対応を挙げた。例えば今回のロンドンのテロ事件でも、警察やセキュリティ当局が迅速に動いた点を評価。英国旅行を考えている人は、こうした部分にも注目しており、その後の需要動向も左右するとの考えを示した。
英国への旅行者数は、EU離脱を表明した後、大きく伸びていた。経済見通しの不透明感からボンド価値が15%下落、海外客にとっては実質的なお得感につながっていた。
こうした追い風はあるものの、テロ事件の影響を加味すると、2017〜2020年の4年間で、訪英インバウンド旅行者数は、ユーロモニターの当初予測より1%減、人数ベースで37万8000人減と試算。最も減少幅が大きくなるのは2017年で、年間インバウンド客数は、当初予測より28万5000人減の3655万7000人と予測している。
訪英インバウンド旅行者数・英国におけるテロ襲撃被害の影響予測は以下のとおり。
※「Baseline」の値は同社の当初予測値。「Multiple Terror Attacks」は複数のテロ襲撃後の影響を加味した予測値。延べ旅行者人数で算出。
フランスは2016年に5%減、現在は「ゆっくりだが回復基調に」
同様に、テロ事件が発生したフランスの場合、旅行市場にはどのような影響があり、どう対応したのか。
ユーロモニターによると、2015年11月にパリで起きた事件の影響で、2016年の訪フランス外客数は前年比5%減、8440万人から8000万人に減少。さらに同社暫定データによると、パリへの外客数は4%以上減少した。
しかし2017年については、前年比0.9%減程度にとどまると予測、「ゆっくりだがパリはテロ事件から回復している」(ユーロモニター)。
テロ事件が頻発した場合、世界中どの都市でも短期・中期の打撃は避けられないが、フランスの事例から学ぶなら、観光戦略を機敏に見直すことが一つのカギであり、例えばローヌ・アルプ地方やプロヴァンスなど、パリ以外のプロモーションを一例に挙げている。
さらに顧客サービスの強化、オンラインやモバイルでの予約拡大、中国、タイ、インドネシア、インドなど新しい送客市場からの旅行者に対するビザ手続きの迅速化への取り組みも需要と指摘している。
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