ホテル基幹システム(PMS)を開発するタップは、2017年11月13日に開催した創立30周年の記念イベントで、沖縄に自社ホテルを開業し、運営することを発表した。今後10年の事業展開の一環として、同計画を明かした。
ホテルの建設・運営は、これからの時代に沿った新しいPMS「スマートPMS」の開発に伴うもの。代表取締役会長の林悦男氏は開発において、ホテルの基幹を支えるシステムとして逸脱せず、そのユーザーである宿泊施設およびマーケットとテクノロジーの進度とのバランスを重視していることを説明。それでも、新たなPMSは従来のものと全く概念が異なるものになるとした。
その要因は、利用者の予約や滞在時の行動変化。林氏によると、これまでのホテルは、ホテルスタッフが運営し、それを支えるためのPMSを作ってきた。しかし、これからは、利用客が自らスマートフォンで宿泊予約からチェックイン/アウトを行ない、レストランなど付帯設備も予約する。これにより、PMSは利用客が自ら入力した情報を活用することになるため、「つまり、ホテルは利用客が自らオペレーションするようになる」と指摘。従来のスタッフが操作するためのPMSから、利用客が操作するためのPMSが求められるようになる。だから、実験用のホテルが必要だと話した。
実はタップはすでに、スマートフォンでのチェックイン/アウトに対応したPMSを開発しており、すでに既存ホテルに提供している。スマートPMSも技術的、論理的には以前でも提供可能だった。しかし林氏は、「テクノロジーと人が融合しなければ、システムは定着しない。やっと世の中の環境が整った」とも語っており、今がそのタイミングにあることを示唆する。
新ソリューションの研究や社員・宿泊施設の研修の場にも
ホテルを開業する場所は、沖縄県がIT関連産業の拠点として国内外企業の誘致に力を入れている「津梁ITパーク」。2700坪の土地を取得し、ホテルと同社の拠点を置く。ホテルは客室数50室程度で、スパなどの付帯設備も入れ込み、2~3年後に開業する予定だ。
ホテルには、IoT、AI、ビッグデータ、ロボティクスの先端テクノロジーを積極的に取り入れ、周辺事業者との共同研究や最新ソリューションの検証も行なうほか、ホテルスタッフの人材育成や研修、大学、専門学校の教育実践の場としても活用する。客室販売はOTAに出さずに自社でのみ行い、デジタルマーケティング分野の研究も行なう。こうした実験の結果は世の中に報告しながら、スマートPMSに反映させる。
林氏は、タップはホテルシステムを開発しているが、客室販売までは行っておらず、その論理、デジタルマーケティングは「苦手分野」との認識を提示。「その実験をすることで、経験に基づいたお話ができる。私は社員にお客様と同等、またはそれ以上の知識を身につけるように話をしている。その機会の場をこの実験用のホテルで作った」と述べ、タップがこれ以上ホテルを建てることはないことも強調した。
小規模施設対応のPMS開発、海外展開も
林氏は今後の事業展開として、実験ホテルの運営のほか、海外事業と小規模施設向けのシステムの販売も注力することを発表。特に小規模施設向けのシステムについては、「これまで我々は宿泊業界の1割に満たない施設に商品を提供していた。小規模施設の方々にはITの恩恵がなかった」と強調する。
すでに、システムは開発済みで、沖縄の7か所で実証実験も実施。スマートフォンやタブレットで操作ができるのが特徴で、サイトコントローラーのねっぱんやAirbnb経由での予約も取り込めるという。
林氏は挨拶の中で、同社がIT企業として、今後もこれまで同様に宿泊業界向けに特化した事業を展開することを表明。「非上場企業なので、利益は宿泊施設に還元するしかない」と述べ、システムのバージョンアップへの投資額を、従来の年間8000万円から今後は年間2億円に拡大することも明かした。
記事:山田紀子