観光産業は圧倒的な人材不足、これから求められる人材と女性活躍を考える -国際女性デーの「トラベルボイスLIVE特別編」

国際女性デー(毎年3月8日)に合わせ、ニューヨーク大学プロフェッショナル教育東京は、これからの日本の観光と女性人材を考えるイベントを開催した。前日本政府観光局(JNTO)理事で、現・国土交通省の吉田晶子氏をはじめ、観光業界で活躍する経営層からマネジャー、現場スタッフまで登壇し、幅広い目線で観光業界における女性活躍について語るイベントだ。

トラベルボイスから、編集長がモデレーターとして参加した「トラベルボイスLIVE特別版」も実施。経営者クラスから、子育てを終えて観光業に飛び込んだスタッフまで、観光業に関わる様々な立場の人々が登場した本イベントをレポートする。

観光業界は圧倒的に人材不足

国土交通省の吉田晶子氏

基調講演に登壇した国土交通省の吉田晶子氏は、インバウンドを中心とした観光業界の現状と重要性を説明。訪日外国人を2020年に4000万人、2030年に6000万人とする政府目標に向け、「圧倒的に観光人材が不足している」と語り、観光業界で幅広い職種の経験者が求められている状況を説明した。

吉田氏によると、訪日外国人旅行者の観光消費額は2017年に4.4兆円に拡大。国際収支では電気機器、自動車、化学製品に次ぐ4番目の水準となり、「訪日外国人旅行者8人分で日本人の定住人口1人の年間消費額(124万円)と同程度」の経済効果がある。観光は人口減少が進む日本で、特に顕著な地方部における経済損失の補填を期待できる産業だという。

そのため政府はさらなるインバウンドの増加に向け、(1)観光資源の発掘と磨き上げ、(2)観光産業の革新(近代化・産業化)、(3)旅行者のストレスフリーな移動・通信の実現、の3つの柱で取り組みを展開。地域の魅力をエリア全体で高め、観光地経営を行なう組織として、地域における「日本版DMO」の形成を推進している。

ただし、「日本で訪日外国人がここまで多く来るようになったのはこの数年のこと。マーケティングや受け入れ整備、情報発信などができる人材が日本全体で限られている」と吉田氏。DMO以外でも、アプリ開発やデータ分析を含むITサービスなど、幅広い業種・職種の参入が求められており、従来以上に観光業界で活躍するフィールドが広いことを強調した。

観光業界の女性活躍の現状と可能性

続くセッションのテーマは「これからの観光業界に求められる女性人材とは?」。トラベルボイス編集長の山岡薫がコーディネーターとなり、観光産業の経営者らが企業側から見た女性活躍について意見を交わした。

OTAエボラブルアジアの現取締役CMOで、日本の大手旅行会社からヤフー、グーグルなど世界のIT企業の旅行分野に携わってきた松濤徹氏は、経営側の目線で観光産業で活躍する女性人材に言及。「旅行商品の決定権者は女性比率が高い。男性よりも旅行に対するモチベーションが高く、消費者目線がある」として、カスタマーサポートやパンフレット制作、SNS活用などの「消費者に近い分野に関与している方が成功の確率が高い」と述べた。

エアカナダ日本支社長のワイス貴代氏によると、航空業界や観光業界の企業には女性が多く、エアカナダにおける上級経営陣は25%が女性、管理職では40%に高まる。さらにグローバルの観点でも、エアカナダの雇用者の27%が非白人で、多様な国籍のスタッフが多い。世界的に職場のダイバーシティが進むなか、「日本は大きく水をあけられている。様々な部分で(世界に)学ばなければならないことが多い」と語った。

シェアリングエコノミー協会事務局次長で、スペースマーケットのブランド戦略(当時。現在は渋谷区観光協会事務局長)の小池ひろよ氏は、女性がシェアリングサービスを活用するメリットを説明。「企業に属さなくても、1日数時間だけ“好き”を仕事にでき、“得意”をお金に換えることができる」と述べた上で、地元でのガイドサービスなど、観光業界には体験を価値に変える可能性が多くあることに言及した。小池氏によると、スペースマーケットでイベントや会議などを行なうためにスペースを借りる人の6割は女性だという。

では、観光業界で活躍する女性の特徴は何か。松濤氏はまず、女性は管理職などを任せようと思っても「自分ではできない」と委縮する人が男性より多い傾向を指摘。「自己肯定力が高く、小さな成功に喜び、前向きに進める人」が活躍する人材の性質として多く、それは「性別は関係ないこと」であると強調した。

ワイス氏は世界での活躍を視野に、語学力が必須であることに加え、異文化理解とコミュニケーション力の重要性を強調。その上で、「違う文化のなかでコミュニケーションをとり、お互いを理解しようとすることは女性の得意なところ」と女性の利点にも言及した。

小池氏は、コミュニケーション領域を軸に活動してきた自身の経験を含め、「強い意志を持って社会を変えたいという人が周りに多い。言いたいことを言いながらも女性のチャーミングな部分が、観光にいかせる点が多いのでは」と語った。

トラベルボイス編集長の山岡も観光業界で培ってきた自身の経験から「妊娠・出産時のタイミング以外で、仕事をするなかで自分が女性であることを意識したことはなかった」と振り返り。「それだけ女性が活躍できるフィールドがあるということ」と話し、セッションをまとめた。

未経験で観光業界に転身

最後のセッションは、子育てを終えてから未経験で観光業界に就職した2人の女性と雇用側の人事担当者を迎え、「観光業界からはじめる女性のキャリア」をテーマに展開。進行役となった、人材サービスのWarisワークアゲイン事業統括でWaris Innovation Hub プロデューサーの小崎亜依子氏はこれまでの議論を踏まえ、「観光業界にチャンスがあるのは明白」とし、就職後のキャリア構築や企業側の受け入れ制度に絞った議論を開始した。

企業側の登壇者は、ANAインターコンチネンタルホテル東京・人事部長の竹岡由紀子氏。欧米の高級ブランドの小売業を経て、2016年に現職となった。竹岡氏も異業種からの転身だが、ホテルの仕事は接客から宿泊予約管理、調理などのオペレーションまで、「様々なバックグランドの人々が働ける機会がある」とその多様性に驚いた。また、24時間稼働なので分業制になっており、女性が働くための工夫がしやすい職場なのだという。

星野リゾートの星のや東京で働く関口麻里氏は、商社を結婚退職後、子育てをしながら自宅での英語教室運営や塾講師などをしていたが、観光業界での勤務経験はなかった。しかし、旅行での滞在をきっかけに星野リゾートの大ファンになり、その現場で働きたいと思うようになった。その気持ちを、今回の登壇者である友人の薄井シンシア氏に話をしたところ、「まずANAインターコンチネンタルホテルで経験を積んでみては」と勧められたのがきっかけとなった。

まずはパートタイマーとして館内のビジネスセンターのサポートを担当し、予約管理の部門では契約社員にステップアップ。介護の事情で退職したが、落ち着いた頃に星のや東京のオープンを聞き、スタッフ募集に応募した。星のや東京でもパート採用だったが、客室清掃から3か月後にはトレーナーになり、現在はフロント業務となっている。

順調なキャリア形成ができた背景には、勤務先の人事制度や社風のサポートがある。ANAインターコンチネンタルホテルでは「社内公募制度」を設けており、他部門からの異動のチャンスを与えている。竹岡氏によると、様々な職種のある同ホテルの中でキャリアを積める環境を用意する人材育成の観点に加え、人手不足の中で人材流出を防ぐ目的もあるという。

一方、関口氏を観光産業に誘った薄井氏は現在、日本コカ・コーラの東京2020オリンピック・ホスピタリティ担当を務める。薄井氏は貿易会社での勤務後、30歳の時に育児のために専業主婦となり、子供の大学入学と同時に就職活動を開始。カフェのマネージャーや会員制クラブの電話受付を経て、ANAインターコンチネンタルホテル東京に契約社員として就職し、3年で営業開発担当副支配人となったユニークなキャリアの持ち主だ。

薄井氏は自身のキャリアについて、「ここまで来られたのはやっぱり観光業だったから。成長産業はポジションが次々とでてくる」との持論を披露。飲料メーカーに転職したことについては、「観光業の経験は他の業界に行けるチャンスがある」と観光業界の特性も強調し、チャンスに積極的に飛び込み、キャリア形成をしていった経緯を語った。

竹岡氏も「体験を売る観光業界は伸びしろがある。まずは1日4時間などで、少しずつ足を踏み入れてみては」と、関心がある人に向けて挑戦を呼びかけた。

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