今年のWIT Japan 2018では、各航空会社が参加したセッションも開催され、それぞれ「今気になっていること」について意見を披露した。そのなかで、日本航空Web販売部国際Eコマース業務刷新グループ・マネージャーの丸山貴史氏は、関心が高い領域として「メタサーチ(旅行商品の横断比較検索サイト)」と答え、その理由として「新しい技術が出てきている」ことを挙げた。また、インバウンド戦略についても言及し、「訪日外国人への国内線販売に注力している」と付け加えた。
そんな丸山氏に、イベント時に別室でメタサーチに注目する理由や新しい技術がもたらす航空券販売への影響などを深堀して聞いてみた。
メタサーチではダイレクトブッキングとNDCに期待大
「OTA(オンライン旅行会社)では、あまりに情報が多く、旅行者にとってはイライラするだけになってしまった」——。航空会社は、OTAに投資を行い、自社のネットワークに旅行者を誘導することに力を入れてきたが、「プッシュ型のアプローチが強く、その結果、OTAから客が離れている状況を招いた」と丸山氏は話す。
一方、メタサーチは「ノンバイヤスで価格重視の比較なので、旅行者は選びやすい」。ここ最近のOTAとメタサーチの力関係は、世界大手OTAによる傘下にあるメタサーチ強化に象徴的に表れている。シートリップのスカイスキャナー、エクスペディのトリバゴ、ブッキング・ホールディングスのカヤック。日本でもトラベルコが業績を伸ばしているほか、LINEもメタサーチで旅行分野に進出した。
丸山氏は、その活発なメタサーチの動きの中でも、2つの技術に注目しているという。ひとつは、ダイレクトブッキング。「メタサーチのUI/UXが改善し、会社そのものの信頼性も上がってきた。そのなかでダイレクトブッキングは有効だと思う」。押し売り的なプッシュ型ではなく、「『正直なものを正直に出す』というスタンスが消費者に受け入れらている」という評価だ。
もうひとつは、メタサーチのNDC認証。NDC(New Distribution Capability)とは、国際航空運送協会(IATA)と加盟航空会社が主導して導入を進めている新しい流通通信規格のこと。これにより、航空会社はさまざまな付帯サービスを含むコンテンツを流通させることが可能になるとされている。
すでにスカイスキャナーはNDCレベル3認証を受け、シンガポール航空と直接連携を始めている。「航空会社はメタサーチ上でもリッチコンテンンツを出せるようになるため、なぜフルサービスキャリアがLCCよりも高いのか、あるいは、JALの国際線は高くてもそれに見合った価値があることを分かりやすく説明できるようになる」と期待をかける。
JALは現在、足元の広い座席や非常口の座席に追加料金を課したり、事前座席指定を有料化するなどのアンシラリーサービス(付帯サービス)は設定していない。「それでも、リッチコンテンンツで、JALの質の高い座席をアピールできれば、優位性を持てるようになると思う」と話す。
海外でのダイレクト予約に注力、訪日の国内線利用の促進も
課題だった訪日外国人の国内線利用については、JALは2015年12月から「Japan Explore Pass」を販売。丸山氏によると、その今年の売上は昨年比で25%増と好調に推移しているという。このPassは、JAL国際線で日本に来た外国人だけでなく、他社便やクルーズでの訪日者も対象。ゲートウェイから地方への送客につながることから、地方活性化にも貢献できると期待している。
急拡大するインバウンド市場は、航空会社にとっても大きなビジネスチャンスであるのは間違いない。人口減少が急速に進む日本で日本人旅客ばかりに頼っていては、国内線は先細りするばかり。インバウンドによる地方活性化は、JALにとっても国内線の需要拡大につながる。
しかし、丸山氏は地方のインバウンド対応について、「訪日客受け入れに積極的なDMOと現地事業者とのあいだに温度差を感じる」という。また、インフラの整備も東京と地方ではギャプが大きい。「たとえば、東京のタクシーはスイカもクレジットカードも使えるし、同時通訳システムを導入している会社もあるが、東京を少し離れただけで、サービスレベルが変わってしまう」と話し、各分野で共通したインフラ整備の必要性を指摘した。
海外での航空券の流通については、「まだ旅行会社経由が多い」と明かす。デジタル社会だと言われている韓国でさえも、情報はオンラインで探すものの、予約は依然としてハナツツアーなどリアルエージェントが強いという。ただ、それぞれのマーケットのJALホームページでのダイレクトブッキングも増えており、「今後もここが注力ポイントになる」と話す。そのためには、海外でのJALのブランド力をさらに高め、JALファンを増やしていくことが求められそうだ。
記事: トラベルジャーナリスト 山田友樹