人工知能をベースにした独自のアルゴリズムと高性能エンジンで、パーソナライズされた広告を自動配信するクリテオ(Criteo)。EC領域で高い成果を挙げているが、旅行業界でもOTAを中心に数々の成功実績を重ねている。そのソリューションのひとつがB2B向けのリターゲティング広告。ユーザーの閲覧履歴や興味・関心を分析し、クライアントに有効な顧客再獲得機会を提供する。今年のWIT Japan 2018の起業家コンペ「スタートアップピッチ」に審査員の一人として参加した同社APAC 戦略市場開発担当副社長の斉藤祐子氏にマーケット・トレンドやクリテオの強みについて聞いた。
さまざまな最適化エンジンを提供
クリテオのサービスはB2Bソリューションであるため、一般消費者からは見えにくい。最も分かりやすい例は、大手ポータルサイトのトップページ。[PR]と表示された広告枠に、これまでの閲覧履歴や購買履歴をもとにして、関連のおすすめ商品の広告が表示される。この仕組みを動かしているのがクリテオだ。
同社のリターゲティング広告にはさまざまなオプティマイゼーション・エンジン(最適化エンジン)がある。たとえば、クリック数を高めるもの、コンバーションを最適化するもの、単価の高いユーザーのコンバーションを最適化するものなど。2年前には、ROI最適化を志向したエンジンである「バリュー・オプティマイザー」もリリース。これによって、たとえば、個別の商品の粗利率を考慮したリターゲティング広告を配信することも可能になった。
OTAでも課題解決で広く活用
クリテオのソリューションはOTAでも広く活用されている。その一例として、斉藤氏はインドの大手OTAヤトラを成功事例として挙げる。ヤトラ(Yatra)はインドではマーケットシェア30%ほどを持つリーディングOTAでユーザー数は多いが、コンバージョン率やCPA (Cost per Acquisition: コンバーションにかかるコスト)が高いという課題を抱えていたという。
そこで、クリテオのリターゲティング・キャンペーンを実施。その結果、実施前との比較でCPAは半減、フライト予約数は62%増、平均単価も34%増になったという。斉藤氏は、キャンペーンを実施しなければ、「改善の機会損失になっていただろう」とこの成功事例に自信を示す。
ここで言うキャンペーンとは、期間限定のプロモーションという意味ではなく、継続的な広告施策のこと。クライアントがこの施策に広告費を投入すれば、クライアントがストップをかけるまで、キャンペーンは走る。斉藤氏は「キャンペーンのリテンションレート(保持率)は9割」と胸を張る。
クリテオは、主力のリターゲティング広告ソリューションに加えて、離脱した顧客を呼び戻す「クリテオ・オーディエンス・マッチ (Crieto Audience Match )」、新規顧客獲得に特化した「クリテオ・カスタマー・アクイジション (Crieto Customer Acquisition: CCA)」を日本でも相次いで発表した。斉藤氏は「これで、日本でもさらに幅の広いキャンペーンを展開できるようになる」と期待を寄せる。
進むモバイルファースト、アプリで高いコンバージョン
斉藤氏は、オンライン広告の視点から見た旅行マーケットのトレンドについても言及。同社が発表した直近のグローバルコマース調査レポートによると、「モバイルファースト」の傾向がさらに強まっているという。旅行関連におけるその比率は、アメリカで約40%、ヨーロッパで約45%、APACでは50%以上。APACの特徴としては、ウェブよりもアプリの使用が多いが、「日本だけは特別で、アプリの利用は非常に低い」と明かす。
アプリは、ネイテイブで作り込んでいる環境のため、ユーザーエクスペリエンスがよく、コンバーションも高い。斉藤氏によると、旅行部門ではコンバージョンはウェブよりも約5倍高く、平均客単価も高い。「国によっては、デスクトップよりもコンバーションがいいところもある」と話し、日本でもアプリへの投資と利用促進を勧める。
旅行でもモバイルファーストが進むなか、斉藤氏は興味深いトレンドとして、「間際予約が増えた。特に、宿泊の間際予約はスマホ経由が圧倒的に多く、その比率はグローバルで8割から9割」と明かし、スマホの登場で宿泊予約トレンドは劇的に変化しているとした。今後は、スマホと間際予約の相性がいい現地体験の需要も今後拡大していくことが予想されるため、OTAを中心に「クロスセル、アップセルにつながるキャンペーンも設計していきたい」と意欲を示す。
クロスデバイス・マーケティングに注視を
また、斉藤氏は、アプリに加えて大事な視点として「クロスデバイス・マーケティング」を挙げる。「ユーザーは、時間と場所に応じて、アプリだけでなく、モバイルウェブでもデスクトップでも見る。デバイスを行き来しているので、ユーザーがどこにいても探せるように、さまざまなチャネルを構築することが大切」と指摘する。クリテオのデータによると、3分の1ほどのユーザーがマルチデバイスを使ってコンバーションに至っているという。
そのうえで、クリテオの強みとして「ユーザーセントリックスなキャンペーン」を挙げ、「どのデバイスを使っていても、同じユーザーであると判断することができるテクノロジーがある」とアピールする。
同社の調査レポートによると、オンとオフを組み合わせたオムニチャンネルの消費者は全体の7%に過ぎないが、売上全体の27%を生み出しているという結果も出た。旅行に限らず一般的に、「リアル店舗に行く人のうち8割が事前にオンラインでチェックしてから行く」という。特に若い層でその傾向が強く、オンとオフを行き来する人の方が単価も高い。
日本の旅行業界では、まだO2O (Online to Offline)のキャンペーンは実施していないという。ただ、「技術的には、オフラインの顧客情報をオンラインとマッチングさせて、オンラインの広告をより確度の高いものにすることは可能」だとし、今後のキャンペーン展開に期待を寄せた。
記事:トラベルジャーナリスト 山田友樹