日本人のクルーズ旅行が定着しつつある。最新の統計によると、日本人のクルーズ人口は31万5000人(2017年数値、国土交通省海事局発表)。10年前に比べ倍増し、世界周遊やフライ&クルーズ、手頃な価格帯などバリエーションが増え、富裕層やシニア以外にも三世代やカップルの利用が広がっている。ただ、その中でも一生に一度は体験してみたいと憧れを集めているのが、“海の女王”と呼ばれるクイーン・エリザベスら豪華客船を擁するキュナード・ライン社だ。このほど来日した同社国際開発企画担当副社長のマット・グリーヴス氏に、日本戦略や世界のクルーズ動向を聞いた。
2021年の日本人客数は2018年の4倍に
英客船大手キュナード・ラインが日本マーケットを強化している。2018年は1回・7泊分だったクイーン・エリザベスの日本周遊を、2019年は大黒ふ頭(横浜市鶴見区)に完成する客船ターミナルも利用して2回・16泊分、2020年は7回・61泊分へと拡大する計画だ。さらに、2021年春夏には日本発着全4クルーズのほか、オーストラリアから東南アジアを経由して日本に寄港するなどさまざまなラインナップを設定する。
グリーヴス氏は「日本は当社にとって核となる市場に成長しつつある。日本の刺激的な町並みを楽しみたいという欧米やオーストラリアをはじめとする海外からの乗船客はもちろん、2021年の日本人客数を2018年の4倍に増やしたい」と意気込む。
大黒ふ頭に続き、2020年には東京港に誕生する東京国際クルーズターミナルの母港化も進めていく考え。2018/2019年の年末年始クルーズ客320人のうち、25%がスイートを選択するなど、客単価が高いのも日本に着目する理由だ。
官民で盛り上がる寄港地
日本での寄港地も増やしている。2019年は函館、秋田、金沢、境港、八代、青森、室蘭に初入港。秋田寄港では東日本旅客鉄道(JR東日本)がクイーン・エリザベスを見に行くための臨時列車を運行し多くの人でにぎわったほか、青森では寄港に合わせて県産酒の試飲会が行われるなど、地元も“海の女王”効果を最大限に活かし官民で盛り上げようと懸命だ。日本市場の開拓に伴い、キュナード・ライン ジャパンオフィスのコマーシャルディレクターに就任した浅井真一路氏は、「寄港地でのエクスカーションは外国人、日本人ともに楽しめるものを提供している。ただ、今後は少人数での観光など、キュナードらしさをさらに打ち出していきたい」と話し、グリーヴス氏も「ブリティッシュ・エクスペリエンスを核としながらも、日本人に合ったサービス、たとえばコシヒカリを使った料理やソムリエの田崎真也氏が選んだワイン、日本語が話せるスタッフの採用など、部分、部分で日本人向けにテーラーメイドしていきたい」としている。
市場開拓には旅行会社のコンサルが不可欠
もっとも、市場拡大には課題もある。キュナード・ラインは2022年、クイーン・メリー2、クイーン・エリザベス、クイーン・ヴィクトリアに続く4隻目のラグジュアリー客船就航を発表しているが、グリーヴス氏は「世界的にクルーズのキャビンは全ホテル数の2%に満たない。造船所も限られており、このままでは毎年約100万人ずつ増えている新規顧客の成長に対応できない」と懸念。浅井氏も「日本マーケットが伸びているといっても、世界的にみればクルーズの認知度は低い。浸透していくためにはさらにアピールが必要だ」と話す。
トリップアドバイザーがクルーズの評価レビューや各種情報を扱う新しいプラットフォーム「トリップアドバイザー・クルーズ(TripAdvisor Cruises)」を2019年4月9日から稼働するなど、ネット企業のクルーズ参入も話題だが、日本市場については「いずれはEコマースが伸びるだろうが、リピーターが少ない現段階では旅行会社のクルーズ・コンサルタントやクルーズ・マスターをはじめ、コンサルティングが最も重要になる」(浅井氏)との考え。オンライン化が進むなかで、対面販売が鍵を握る数少ない市場と言えそうだ。
取材・記事 野間麻衣子