日本旅行業協会(JATA)が先ごろ、WEBセミナー「新型コロナウイルスと日本の観光業」第2部を開催した。当日は国内外のDMOや観光事業者が登壇し、新型コロナウイルス(COVID-19)流行の収束後に訪れるマーケットの変化や、新たな旅行トレンドを展望した。
セミナーには国内外のDMOや現地手配会社が登壇。収束後にまず戻るマーケットとして期待される個人旅行(FIT)への対応や、COVID-19の防疫経験を経たマーケットや新たな旅行トレンドの変化も語られ、そのキーコンテンツの一つとしてセルフガイドツアーの可能性があげられた。
送客・受け入れの双方でルール作りを
海外DMOの登壇者は、駐日外国政府観光局協議会(ANTOR-JAPAN)会長で、フランス観光開発機構(Atout France)在日代表のフレデリック・マゼンク氏。同氏はCOVID-19収束後の旅行マーケットについて、「消費者には交通機関の利用を避けたり、旅行先での感染を恐れる気持ちが生まれている」と、心理的な影響があると指摘。観光地も来訪者からの感染を恐れるとし、ANTOR-JAPANの意見として、旅行者と観光地の双方が安心して旅行できるための対策を求めた。
そのために旅行関係者ができることとして、(1)旅行出発時での簡易検査キットなどを用いた健康チェック、または(2)マスク着用や一定距離の確保など、海外旅行時のルール策定を提案。また、旅行会社や航空会社、観光局などによる大規模な共同意識調査や、旅行の夢を抱けるような旅行需要を再構築するためのプロモーションが大切になると話した。
さらに、Atout France在日代表として、個人旅行(FIT)から回復するとの見通しについて、「収束後、航空座席数は現状より改善するが、完全には戻らない。関係各所へのヒアリングでは、流行前の水準に戻るのは再来年(2022年)との見解が多い」と、物理的な理由も指摘。航空券の値上がりが予想されるため、「来年は高額の個人旅行客をターゲットとする方がマーケット的に成功する」との見方を示した。
あわせて、コロナ後の旅行者は安心できる旅行先・ホテルを求めていると言及。現在、フランスとしてホテルや観光施設内での観光客向け衛生管理などのルール作りに向けた検討を行なっており、全国的に導入する考えがあることを明かした。
国内地域は生活が見える「異日常」の観光へシフトを
国内DMOの登壇者は、雪国文化で共通の3県7市町村で構成する雪国観光圏の代表理事であり、老舗旅館「温泉御宿 龍言」を再生した古民家ホテル「ryugon」を経営するいせん代表取締役の井口智裕氏。
井口氏は、地域連携DMOと旅館経営の2つの事業での取り組みを説明するなかで、「この情勢なので県外に行けないけど旅行をしたい需要や、普段は海外旅行をする人がこの機会に国内旅行をしようと思うこともある。海外旅行で得られるような地域性を感じる旅を、これからの日本の観光地は目指していくべき」と話した。
井口氏が取り組んでいるのは、「地域の過ごし方」をカギとする新しい観光への変革。すでに旅行者の志向は、従来型の「非日常」の観光から、地域の暮らしを体感できる「異日常」の旅にシフトしているとし、その対応のためryugonでは宿のホームページのトップで、地域の生活文化に触れる滞在を提案するための「過ごし方」を掲載している。
トレンドの変化を示す例として井口氏が紹介したのが、新潟市内の旅行会社と共同企画した1泊2日の貸切ツアーだ。同市内から車で2時間ほどの距離にあるryugonに、参加者全員で大型バスで行き、観光は宿泊翌日に宿周辺でのオプショナルツアーを用意しただけの企画に、70名もの予約があった。残念ながら同ツアーはCOVID-19の影響でキャンセルとなったが、マイカーでも行ける近場の宿にバスツアーで行き、地域でのんびり過ごす企画がマーケットに受け入れられたことに、「地域の可能性と旅のトレンドが大きく変わったことを感じた」という。
こうした生活風景が見える観光を推進する上では、「地域全体のコンテンツをストーリーとして伝える仕組みと、その媒介者となるツアーガイドの存在が重要になる」と井口氏。個人旅行化の時代、かつ、訪日旅行者に対応できるガイドの確保が難しい現在は、セルフガイドツアーの仕組み作りが必要になるとみている。
感染症は恒常的に発生すると想定して対策を
ミキ・ツーリスト代表取締役の檀原徹典氏は、COVID-19の流行を踏まえ、「国際交流人口の急激な増加が予想されるなか、収束後も次の新しい感染症が発生すれば、また今回のような事態となる。今後はこのような事態が恒常的に起こることを前提に旅行を考えないといけない」と話し、次の3つの課題を示した。
その課題とは、(1)集団を避けようとする新たな公衆衛生概念の定着化による個人旅行の拡大、(2)ツアーのガイドを受ける際に密になる参加者の分散、(3)COVID-19で、高齢化が課題だった添乗員や日本語の現地ガイドの引退が早まることによる現地ガイドの不足、への対応。
檀原氏は、これら課題に対して旅行関係者が取り組むべきものとして、(1)有名観光地から地方への分散、(2)テクノロジーを活用した新しい旅行の仕方の提案、をあげた。
このうち(2)については、ガイドシステムの活用を提案。人の密集を解消する対策はオーバーツーリズム対策とも共通であるが、すでに欧州の多くの観光地ではその対策の一つとして、イヤホンガイド等が使われている。例えば、バチカンのサンピエトロ大聖堂では、人の密集や騒音防止のため、グループツアーでの入場時にはイヤホンガイドの使用が義務付けられているという。
檀原氏はイヤホンガイドのほか、スマホアプリと連動したオーディオガイドシステムがあることも紹介。アプリではデジタルマップや現地ツアーなどのコンテンツ提供のほか、ガイドの多言語対応も可能で、ミキ・ツーリストでは欧州の乗合バス「JOIBUS」で導入している。
檀原氏は、「イヤホンガイドやオーディオガイドシステムによるセルフガイドシステムを使用すれば、人との距離を保ち、感染防止にも対応できる」と主張した。
ミキ・ツーリストではVOX社(本社:イタリア)のイヤホンガイドやオーディオガイドを使用している。檀原氏は4月30日にVOX JAPANを設立し、日本でのBtoB販売を開始することを紹介。今回のWEBセミナーでは共同主催者として、ウェビナーシステムを提供した。