静岡ツーリズムビューロー(TSJ)は4月下旬、「旅行停滞期におけるTSJの考え方と取り組み」をテーマにオンラインセミナーを開催した。国内外で新型コロナウイルスの終息が見通せないなか、TSJディレクターの府川尚弘氏は「現状を正しく理解し、将来の旅に備えることが重要」と強調し、DMOとして2020年とその先を見据えた戦略を説明した。
TSJはインバウンド市場の開拓と観光客誘致を目的に2017年に開設。富士山というキラーコンテンツを持つ静岡県は、順調に訪日外国人旅行者を増やし、2019年は234万人を受け入れた。全国第10位の規模だが、ラグビーワールドカップ2019(RWC2019)効果もあり、伸び率は前年比30.4%と全国3位となった。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって、その需要は吹き飛んだ。
今必要なのは旅行会社とのパートナーシップ
日本政府観光局(JNTO)がまとめた2018年の統計によると、静岡県の外国人宿泊者数のうち、中国からの旅行者が圧倒的に多く、およそ100万人。第2の台湾の10万人強を遥かに上回る。
TSJでは、新型コロナウイルス発生以前から、オーストラリアのTV番組を誘致するなど欧米豪からの誘致に力を入れており、特定市場依存からの脱却を図っている。その流れのなかで、府川氏は、インバウンド総崩れの現状を「転換期」と捉えたうえで、「さらにデスティネーションマーケティングの強化する必要がある」との考えを示す。具体的には、将来のマーケット分散化に向けて、TSJ海外オフィスから現地の静岡に対するニーズをすくい上げ、それをステークホルダーに発信していく方針だ。
そのうえで、今後の需要回復に向けては「自然、安心、健康などがカギになる」との認識を示し、「静岡にはヘルスやウェルネスと結びついたユニークな素材が多い」と前を向く。海外を含めた県外には、その特徴をプロモーションしていくとともに、県内に向けては外から人を呼び込むために「地域の魅力を再確認することが大切」と主張した。
また、府川氏は、県内の事業者に対して「今必要なことは旅行業界との密接なパートナーシップ」と強調。旅行会社は、人的なコンサルティング機能によって、予約を単なるキャンセルとして終わらせるのではなく、将来の需要として延期させることができる。そのパートナーシップのもとで、「パーソナライズされた付加価値を提供し、顧客満足度を上げ、最後は信頼のブランドと共感を創っていきたい」と続けた。
セミナーに参加したTSJ戦略アドバイザーのトニー・エバレット氏も「旅行会社は、新型コロナが終息したら、顧客に営業をかけるだろう。県内の事業者が海外の旅行会社とコミュニケーションを続けていれば、将来の効果は大きい」と助言した。
県内旅行の促進で観光総合力の向上を
TSJは今年3月、2020年度と2021年度のデスティネーション・マーケティング戦略事業計画を策定した。今後のマーケット動向を注視し、調整を加えながら、この計画を維持していく予定だが、足元の状況から需要回復に向けた短期的な取り組みも進める。
まず、情報発信では、質の高いコンテンツを準備し、JNTOを通じて世界に配信していく。エバレット氏は「静岡の身近な景色や季節の移り変わりの動画をアップロードし、静岡を将来の旅の計画に入れてもらうようにする」と先を見据える。府川氏は「単に情報を発信するだけでなく、現地の個人、組織、メディアなどと『つながる』ことが必要」として、デジタルマーケティング強化の姿勢を打ち出す
TSJでは、インバウンド誘致策としてテーマ別ツアー商品のプロモーションを企画しており、特に欧米豪に向けてゴルフとサイクリングの訴求を強めていく計画。だが、先が読めないない現下では、静岡県観光協会とともに県内旅行の需要喚起にも力を入れていく考えで、そのテーマのひとつとして「愛犬との旅」を掲げている。
「まずはお手軽な旅から旅行が再開される」(府川氏)との見立てから、地元の人が地元で消費する「地消地産モデル」として、県内の地域内需要の拡大を先陣として推進していく。府川氏は「たとえば、静岡のお茶。地元の人たちが一緒に地元のお茶を楽しむなど、地域ぐるみの産業としてツーリズムを考えていくべき」と話し、現在の危機を地域の観光総合力を上げていく機会と位置づけた。
なお、このウェビナーは申し込み多数のため、5月12日にも再度開催された。この記事は4月開催時に取材したもの。
トラベルジャーナリスト 山田友樹