こんにちは。
企業や自治体へのアドバイザリー業務などをしている山口功作です。
年明けの1月以降、GoToトラベルキャンペーンが再開されようとしています。その経済効果に関してはエコノミスト等の予測に任せることとして、今回はその目的と旅行業界があるべき姿に着目してみたいとおもいます。
前回のキャンペーン運用時とは異なり、今回は各種データも出揃っています。「ワクチン・検査パッケージ」の活用で、運用上においてキャンペーン実施の目的に沿うということがテクニカルに可能となりました。デジタルという側面から、目的ごとにどのような改善が可能となるかを考察していきたいと思います。
3つの目的から対応を考える
観光事業者にとっては、「政府が旅行業界の支援策として商品代金の一部を負担してくれる」との端的な受け取りをする方々もいるかもしれませんが、施策には目的があり、前回の目的が踏襲されるようであれば、大きく以下の3つがあることをまずは理解しておくべきと考えています。
【Gotoトラベルキャンペーンの目的】
- コロナ禍により失われた「旅行需要の回復」
- コロナ禍により失われた「地域の観光関連消費の喚起」
- ウィズコロナ時代における「安全・安心な旅のスタイル」の普及と定着
1. 旅行需要の回復
新たに始まるGoToキャンペーンでは、ワクチン接種や陰性証明の確認・登録が必要になります。デジタル庁は2021年12月より新型コロナワクチン接種証明書(電子)発行システムの運用を開始します。自治体が発行する紙の接種証明書、検査機関が発効する紙の陰性証明書とともに利用されるものになるようです。
オンライン旅行会社の手続きにおいては、時間的なコストという意味では大きな変化はないかもしれません。しかし、旅行会社の店舗・窓口販売で紙の証明書を利用される場合には、事務処理に少なくとも券面情報を転記する必要が生じてくると思われます。
新たなGoToトラベルキャンペーンは、予算全体が増えて、1回の旅行当たりの割引上限が下がることが発表されています。これによって、旅行業者の「手続きの数」が増えることになるでしょう。転記ミスや確認漏れによる、さらなる事務手続きの負担を考慮すれば、旅行業者はワクチン接種証明システムのQRコード利用を促す施策の実施をすべきでしょう。
一方で、前回のGoTo実施時にも指摘された出張などビジネス利用では、今回も引き続き禁止の措置がとられるものと考えられます。個人的には、領収書等への「Gotoトラベル利用」明記の義務化と税務処理の禁止で、さらなる防止ができるものと思いますが、法律の変更が必要となることも考えられるため、開始時期がずれ込んでしまうことを考慮すると難しいのかもしれません。
2. 地域の観光関連消費の喚起
新たなGoToトラベルキャンペーンでは、平日で一泊当たり3000円、休日で1000円の地域共通クーポンが発行されることが決定しています。クーポンが紙であるか、電子であるかの差に関しては、表面上での違いは印刷費や輸送費などに限られるかもしれません。
GoToキャンペーン開始後に、再び感染が増加し、医療体制に逼迫の兆候が現れた場合はどうでしょう。前回はキャンペーン自体が一斉停止となりましたが、自治体間で接種履歴データの交換をおこなうことができれば、テクニカルには安全な地域間の移動に関しては継続性を保つことができると考えられます。2021年11月末にデジタル庁は、接種履歴について、本人の同意なしで自治体間での接種記録システム(VRS)による照会を認める方針を明らかにしています。
3. 「安全・安心な旅のスタイル」の普及と定着
現時点のように重症者の数が抑えられ、かつワクチン接種による充分な抗体量を持つ人々が多い状況下では、この感染症が収束したかのような安堵感を覚えることもあります。1年以上の緊迫感からようやく解放されたのですから、それも自然なことなのかもしれません。
しかし現実的にみると、抗体量が維持される期間が長くは続かないという悪化リスクが存在しています。感染症リスクに関する議論は専門家に任せるとしても、リスクマネージメントの基本は、最悪の状況を想定して考えることにあります。そうした場合に、GoToトラベルが感染症対策とどう向き合うことができるかを少々掘り下げてみたいと思います。
デジタル庁は各自治体から意見を募り、新型コロナワクチン接種証明書(電子)発行システムを当面の間、VRS(ワクチン接種記録システム)とのAPI接続をおこなわない方針を示しました。この決定を耳にしたときには、落胆せざるを得なかったというのが正直な気持ちです。今回、新たに発行される電子接種証明(QRコード)は、ワクチン接種証明書のオンライン化であって、他のシステムとの間でデータ交換をおこなうデジタル化ではなくなってしまったからです。
簡単に言うと、誰がワクチンを接種したということを証明する「札」のようなものを発行する一方で、「札」を使う人が同一人物であるかどうかの確認は、旅行業者や店舗に委ねられることになります。本来であれば、利用時の本人確認までおこなうことで、安全を確認することができるのですが、現行の計画では現在以上の安全・安心を担保することは難しいと考えています。とはいえ、API接続をしないのは「当面」とのことなので、将来的にはデジタル化が進むことによって「安全・安心な旅」というものが定着することに期待したいところです。
まとめ
地方自治体が地域の事情に合わせた本人確認等の「受け側」のアプリケーションを導入することで、より高い安心、自治体独自の支援策、有効なプロモーション等の新たな価値を創造するツールとなります。各自治体には、そのような認識が生まれることに期待したいところです。
旅行業界でも、旅がどのように地域経営に効果をもたらすかということを念頭に置き、ツールや考え方というものを提案していくことが期待されます。地域に寄り添って、実際に地域経営に参加するか否かが、次世代に求められる企業となることができるかのポイントとなるのではないでしょうか。失われた1年半の中で、どう変わることができるかを模索してきたことを、いよいよ発揮する時が来たということです。
これまでの長い歴史の中で、旅行業者は良い商品を良い価格で売ることに注力してきましたが、変革期にあたっては消費者が求める企業像も変化しています。企業規模の大小に関わらず新たな価値創造の方法を見出せないようでは、やがては求められない企業となる時代に入ることでしょう。旅を中心とした人の移動という舞台において、旅行業界が新たな価値を創造し続けることによって成長する業界へと変革することを期待したいと思います。