ウクライナは依然としてロシアとの戦争の真っ只中にいるが、観光収入が国の経済の再建に役立つとの考えから、観光基盤の再構築に努めている。
ウクライナ国家観光開発局のマリアナ・オレスキフ議長は、最近実施されたウェビナーで、戦争が続いているにもかかわらず、国民はウクライナに戻りつつあり、それに伴って、非常にゆっくりとではあるが、国内旅行が戻りつつあることを明かし、「すべての領土を取り戻す戦いを続け、同時に観光産業の復興にも取り組んでいく」と楽観的な未来を語った。
オレスキフ議長によると、ウクライナ人は、ロシアからの攻撃リスクの低いカルパティア山脈などの自然豊かな地域への旅行を楽しんでいるという。ウクライナ国家観光開発局によると、2022年上半期の観光産業からの税収は、前年同期に比べて26%減少したという。
しかし、オレスキフ議長は、当然ながら、外国人観光客のウクライナへの旅行は勧めていない。「街の中心部にさえミサイルが打ち込まれる状況では、観光客の安全は保証できない」と話す。ロシアによる侵攻の前の2019年、ウクライナは約1370万人のインバウンド観光客を受け入れていた。
先月、ウクライナ観光局は、外国人旅行者にウクライナの現状を知ってもらう日帰りツアーを催行した。それでも、オレスキフ議長は「安全が100%確認できるまで訪れるのは待って欲しい」と呼びかけている。
クリミアに再び観光の栄光を
一方、オレスキフ議長は、西側諸国がロシア人旅行者に課している観光制裁を歓迎。「他国の主権やアイデンティティを侵害しているロシアの旅行者が、自由世界を訪れることは許されない」と話す。
「彼らは、自国の行動が全く正当化できないことを知るべきだ。ロシア市民がロシア政府によるウクライナへの敵対行為をやめさせることを求める」と続け、ロシア市民の入国を制限する欧州連合の動きを支持した。
8月下旬、欧州連合はロシアとのビザ協定を一時停止することを決定。これにより、ロシア人が欧州旅行のためのビザを取得することは難しなった。ただ、ウクライナは欧州連合全体でのビザ発給禁止を求めていたが、何カ国かはそれに参加していない。
欧州国境沿岸警備局は、ウクライナ危機が始まってから8月22日までに合計99万8085人のロシア市民が陸路の国境検問所から合法的にEUに入国したと発表した。
世界観光機関(UNWTO)によると、2019年にロシア人が海外旅行に費やした額は360億ドル(約5.1兆円)、ウクライナ人は85億ドル(約1.2兆円)。両国の世界全体の観光支出に占める割合は約3%。
オレスキフ議長は「世界の旅行業界に対して、ロシアとの間の旅行をすべて停止し、侵略国との協力を断つように訴えたい」と主張した。
かつては人気の観光地だったクリミア半島は、2014年以来、ロシアが併合し占領が続いている。それでも、オレスキフ議長は、「クリミアは観光地としての栄光を再び取り戻すだろう。そして、我々はクリミアをワールドクラスの観光地にしていきたい」と前を向いた。
※ドル円換算は1ドル143円でトラベルボイスが算出
※編集部注:この記事は、米・観光専門ニュースメディア「スキフト(skift)」から届いた英文記事を、同社との提携に基づいてトラベルボイス編集部が日本語翻訳・編集したものです。
オリジナル記事:Ukraine Is Slowly Building Back Its Domestic Tourism Sector
著者:Peden Doma Bhutia氏