2023年が幕を閉じようとしています。今年もトラベルボイスでは旅行・観光に関わる数多くのニュースを取り上げてきました。その中で、読者の方々の関心を集めた記事のアクセスランキングを発表、今年を振り返ります(トップ15の一覧は下部に記載)。
今年のトラベルボイスの記事でアクセス1位となったのは、訪日、国内旅行の需要が急回復する中で、回復が緩やかだった中国の旅行市場の記事です。コロナ前には訪日市場で圧倒的首位だった市場がいつ戻るのか、中国への渡航で必要なビザ免除がいつ再開されるのか、双方向の動向に読者の皆さんの関心が集まりました。
米旅行調査会社のフォーカスライトは、中国人の海外旅行者が2028年には2億人を超えると予測しています。今年後半には中国政府がビザ免除の対象国を拡大し、ビザ発給手数料を値下げするなど訪中インバウンドを促進する積極的な動きもでてきています。注目度の高い中国の動向、来年も注視してニュースをお届けします。
旅行業で不正やトラブルが多発
2位にはブッキング・ドットコムの支払い遅延トラブル、5位には近畿日本ツーリストや日本旅行など旅行各社の不正問題がランクインしました。一般報道でも注目のニュースとして取り上げられ、旅行業への信頼を揺るがす事態となりました。
この件に関しては、年末に観光庁観光産業課の庄司課長にインタビューをして総括していただいています。特に、庄司課長の「社内コンプライアンスや取引先との適正な契約、その確認を疎かにすると、必ず安全の問題に関わってくる」という指摘は、しっかり心に刻んでおきたい言葉です。
世界で加速する観光マネジメント
コロナ禍で日本が国境を閉ざしている間、観光がダイナミックな回復をみせていた世界各国では、同時にオーバーツーリズムなど観光の課題が再燃。観光マネジメントの手法や設定する目標・指標を変える動きが加速しています。日本でも、今年3月に観光立国推進基本計画が改定され、観光目標を量から質の重視に転換(6位)。大きな転機を迎え、日本全体で観光消費額の拡大や旅行商品の高付加価値化が意識されるようになりました。
世界では、オーバーツーリズムへの対策で象徴的な動きも見られました。ついにはオランダ・アムステルダム市が、観光客による「迷惑行為」を防止することを目的にしたキャンペーン「Stay Away(こっちに来るな)」を開始。その後、同市は大型クルーズ船の寄港禁止や宿泊税の値上げを決めています。
同様に大型クルーズ船の寄港禁止を決めたイタリア・ベネチアは、オーバーツーリズムによる危機遺産リスト入りを回避。来年4月から、歴史地区への入域に入場料を課し、入域できる上限人数を設定することを決めました。この制度で、実際にどのような効果や課題が出てくるのか、来年の動きに注目したいところです。
- アムステルダム、観光客の迷惑行為を防止するキャンペーン(4月6日)
- 伊ベネチア、歴史地区への入域を予約制に、上限人数を設定(11月25日)
アドベンチャーツーリズム世界大会からの示唆
今年9月には、アジア初の「アドベンチャー・トラベル・ワールドサミット2023(ATWS2023)」が北海道で開催されました(7位)。トラベルボイスは、このイベントのパートナーとして準備段階から会期中、開催後までの取材を行いました。
オール北海道で携わった関係者が全力で準備をすすめたイベントでしたが、開催後の評価は高く、80人のバイヤーのうち83%が「今後北海道の新しいツアーを企画する」と答え、新企画の数は1社平均3.1ツアーという結果が公表されています。また、日本のセラーの中には開催までのプロセスに学ぶことが多く、バイヤー受け入れの経験がレガシーとして残ったようです。
一方で、日本の観光が抱える課題も浮かび上がりました。開催後の報告会などで大きく話題となったのは「英語ガイドの不足」と「日本のサステナビリティ意識」。ガイドの案内は、旅の評価の決め手となります。慢性的な人手不足の中で簡単に解決できることではないものの、ガイドの地位向上や待遇改善、育成制度の拡充などを図り、なり手を増やしていく行動を根気強くすすめていくしかありません。
サステナブルへの意識については、日本人の日常的な生活にあるペットボトル使用などに対して外国人から直接的な批判もあったようです。日本人の日常を変えることは容易ではありませんが、この感覚を理解することは重要です。
サステナブル意識で極端な例ですが、今年、欧州では「責任ある空の旅」というキャッチフレーズの広告を打ち出したKLMオランダ航空が提訴される事態が発生しました(8位)。“グリーンウォッシング(見せかけだけの環境対策)”に関与し、環境への取り組みについて誤解を与える説明をしている、というのが理由だといいます。この裁判は今も継続していますが、環境配慮への意識の高さを垣間見ることができます。
今後に注目、「ライドシェア解禁」「ラーケーション」
今年は、未来の観光の変化につながる動きも多くみられました。愛知県で初めて実施された「ラーケーションの日」(3位)は、学生が校外での自主学習活動として、年3日まで学校に登校しなくても欠席にならないというものです。また、県が「休み方改革プロジェクト」の一環として、「県民の日学校ホリデー」を設定。学校や市町村が新たな休業日を指定することが出来る仕組みが創設されました。
こうした取り組みを日本各地が行うことで、休日が分散化され、需要の平準化が実現するかもしれません。その第一歩として、今回の成果が共有されるのを待ちたいところです。
また、12月には政府がライドシェア解禁を決定しました。まずはタクシー事業者が主体となって始まりますが、政府はそれ以外の事業者の参入についても検討を進めるとしています。観光において地方の2次交通の問題の解決に向けて、注視していきたい動きです。
- 政府、「ライドシェア解禁」を決定、2024年4月から(12月20日)
観光の課題解決という面では、10月には政府の「オーバーツーリズム対策パッケージ」も発表(13位)されました。「地域自身があるべき姿を描いて、地域の実情に応じた具体策を講じることが有効であり、国としてこうした取組みに対し総合的な支援を行う」ことが明記されています。各地が、それぞれ地域の特性にあった未来の姿を描くためには、観光事業者だけでなく地域コミュニティとの対話がますます重要になってくることでしょう。
生成AIへの注目、デジタル関連の動きも加速
今年はデジタル関連の動きも急加速しました。生成AIの活用は、現時点では道半ばというところですが、旅行分野においては旅程作成からタビナカやホテル滞在時の過ごし方まで旅行者の体験を向上させる可能性を秘めています。今年、世界のOTAや旅行テック企業が開発を進め、来年以降もそれは継続することでしょう。
業務の効率化の点では導入が進んでいます。主に顧客サービスで、AIチャットボットの進化と導入が始まり、人手不足の一助になることが期待されています。
デジタルマーケティングの分野では、グーグルがついに来年1月4日からはCookie規制を開始すると発表しました。Chromeユーザーの1%でテストを開始し、2024年後半には全てのユーザーのサードパーティCookieを段階的に廃止する計画です。すでにマーケターの方は準備を進めている事かと思いますが、マーケティングが大きく変わる潮目となるでしょう。日本のDMOにも、サードバーティ―(第三者)のデータに頼らないマーケティングやデータ利活用をしているDMOも増えてきました。好事例は、今後もご紹介していきます。
- グーグル、クッキー全廃へ、2024年後半まで段階的に(12月19日)
今年のトラベルボイスの記事アクセスランキングは以下となります。
【トラベルボイス記事の年間ランキング2023 トップ15】
- 1位 中国旅行市場の関連
- 中国、ビザ免除措置を再開へ、観光やビジネスの交流促進(10月2日)
- 中国人の海外旅行者数、「2028年に2億人超え」予測(1月21日)
- 中国旅行市場の予測、世界的調査会社が発表、回復は2024年(9月26日)
2位 ブッキングドットコムの支払い遅延トラブル関連
- 3位 愛知県の休み方改革「県民の日学校ホリデ-」(10月19日)
- 4位 ジャパネットが拡大する旅行事業の次の一手を聞いてきた(8月2日)
- 5位 旅行各社の不正問題
- 近ツーの過大請求問題、今わかっていることをまとめた(6月5日)
- 日本旅行の不正請求問題、「体面を重視、誤った防衛認識」(6月29日)
- 6位 観光立国推進基本計画を改訂、3本柱は(3月9日)
- 7位 北海道「アドベンチャー・トラベル世界大会」、高評価と課題(12月8日)
- 8位 見せかけだけの環境対策に厳しい目、航空会社が訴えられる(10月7日)
- 9位 インド人旅行者、観光産業を支える「第2の中国」に(7月19日)
- 10位 沖縄の修学旅行、バス運転手不足で1000台以上が未手配(10月5日)
- 11位 原発処理水による訪日市場への影響、アジア旅行会社の反応(9月14日)
- 12位 観光庁、日本人の海外旅行を促進、24カ国・地域を重点に(5月10日)
- 13位 観光庁、「オーバーツーリズム対策パッケージ」取りまとめ(10月18日)
- 14位 環境省に「国立公園」高付加価値化の取り組みを聞いた(6月13日)
- 15位 新名所「黒部宇奈月キャニオンルート」一般開放日が決定(9月1日)
今年は5月に世界保健機関(WHO)が「国際的な公衆衛生上の緊急事態」を解除し、日本でも「コロナ5類移行」で行動制限が撤廃され、観光が新たなフェーズを迎える年となりました。観光需要の急回復、そして長く続いたコロナ禍を脱して、観光需要の急回復を体感できた1年だったのではないでしょうか。一方で、旅行スタイルや売れる商品のトレンドが変わり、対応に追われた1年でもあったのではないかと思います。
トラベルボイスでは、コロナ禍の間、社会動向に記事のアクセスが大きな影響をうけました。2020年から3年間、通常期であれば年間アクセストップ20に入るアクセス数の記事が上位200位までずらりとならびました。今も、その影響は残るものの、通常期に近い動向に戻りつつあります。このため、変則的だった年末の本記事も、今年は通常モードに戻しました。
JTBの推計によると、来年は、日本人の総旅行人数は今年なみの2億8750万人(2019年比92.2%)、海外旅行の本格回復は2025年以降と見込まれています。一方で、訪日外国人は過去最高の3310万人と予測されています。来年の社会の注目はインバウンド増加に集中することでしょう。
円安や、物価高など日本人の海外旅行の回復は緩やかとなっていますが、いまこそ、日本の観光関係者は世界に目を向け、海外旅行に出かけてはいかがでしょう。観光の高付加価値化や訪日外国人が求めるサービスを検討するうえで、世界の人々の生活や感覚をつかむには、テーブル上での議論や勉強会よりも、海外で体験してみることが一番の近道です。
さて、トラベルボイスは、サイト開設から11年、来年は12年目を迎えます。来年も、旅行・観光ビジネスに関わる皆様の一助となるニュースやコロナ後の旅行トレンドの変化、消費動向など未来を読み解く一助となる情報をご紹介していきます。
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トラベルボイス編集長 山岡薫