タビナカ予約のKlook(クルック)は、中国の若年層から圧倒的な支持があるSNS「小紅書(レッド)」との間で2024年4月、訪日旅行者誘致に関する包括連携協定を締結。両社の強みを生かし、中国の個人旅行者(FIT)に向けたマーケティングを展開、日本国内の観光・旅行事業者への販促サポートを強化する。日本各地での体験に関心を寄せる中国FIT誘客を成功させるカギとは? 両社のキーパーソンが登壇したカンファレンスを取材した。
中国からの訪日旅行市場が、ようやく本格的な回復基調に転じている。クルック中国法人ゼネラルマネジャー ヴィンセント・アン氏は「2024年に入り、クルックでは中国からの訪日旅行者の取り扱いが急増しており、2019年レベルに戻る勢いだ」と話す。そのけん引役として、同社が今、最も力を入れているのが個人旅行を好む中国若年層マーケットの掘り起こしだ。
上海、深圳、北京など大都市圏の若年層を中心に、月間3億人以上のアクティブユーザーを抱える大手SNSレッドでも、ユーザーの間で訪日旅行への関心は急増しているという。同社の現地サービス・旅行業界ゼネラルマネジャー ミー・ヤン氏によると、2023年から「旅行」全般で検索数は増えているが、なかでも目立つのが「訪日旅行」の検索数で、2024年第1四半期は、前年同期の3倍以上に達した。
「若年層FITの興味関心は幅広い。ユーザーに満足してもらうためには、訪日旅行に強いパートナーが必要だと考えた」とヤン氏はクルックとの提携強化に至った背景を振り返る。
クルックが日本政府観光局の訪日外客統計と自社利用客数から割り出したデータによると、2023年以降、訪日客の4人に1人がクルックの訪日旅行商品を予約している。2023年にクルックが取り扱った訪日客は延べ625万人を超えている。
海外渡航規制が解除されたばかりの2023年は、訪日ビザの取得などが回復の足かせとなっていた中国市場だが、「都市部の旅行者は、すでに有効期限が数年ある数次ビザを取得済みだ」(アン氏)、「体験の奥深さ、距離的な近さ、加えて円安効果もあり、今後しばらくは訪日旅行の人気が続くだろう」(ヤン氏)との見方だ。
こうしたなか、クルックとレッドは2024年4月下旬、訪日旅行者の誘致における包括連携協定を締結。中国の若年層FITと日本の旅行事業者を橋渡しするSNSマーケティング支援での連携を強化していく方針を明らかにした。
訪日インバウンド旅行者数に占める中国市場のシェアは、2024年3月時点で約15%と、コロナ以前の25%には届いていないが「これからの上昇余地が大きく、どのような販促を打つかが非常に重要」とクルック日本法人のゼネラルマネジャー 増田航氏は話す。
中国市場攻略に必須のSNSマーケティング
過去4年間で大きく変わった中国の旅行市場。なかでも若年層FITを動かすためには、どのようなコンテンツやアプローチが「刺さる」のか。
アン氏は「若年層は『何を体験できるか』を重視するようになっている。例えば、懐石料理や茶道、熊野古道でのハイキング、ニセコでスキー三昧など、その地域ならではの体験、よりパーソナルな過ごし方への関心が強い」と指摘する。
こうした体験の魅力を一目で伝えられる手段として、クルックが数年前から力を入れてきたのがSNSを活用したマーケティングだ。一般ユーザーからKOL(key opinion leader)と呼ばれる人気インフルエンサーまで、様々な旅行者が、自身の訪日体験をもとにユニークな画像や短い動画を作成しSNSに投稿。これを見たユーザーの間で共感や関心が広がり、企業ブランドやサービスに対する認知度も向上していくという流れだ。
アン氏によると、旅行者に影響力を持つKOLのあり方も年々、変化している。「かつては1億人のフォロワーを持つ有名人など“メガ”インフルエンサーが主流だったが、最近では、よりユーザーに近い存在、同じような日常を過ごしており、信頼できる“マクロ”や“マイクロ”インフルエンサーも人気だ。目的や予算に応じて使い分けることになる」(アン氏)。
クルックでは「Klookクリエイター・コミュニティ」を立ち上げ、現在は3000人以上の中国在住のインフルエンサーやコンテンツ作成者をメンバーとして抱えている。
検索や購買でも利用されるSNS「レッド」
インスピレーションの源泉であると同時に、検索機能や予約・購入などEコマース機能も充実したSNSとして、中国若年層から今、最も支持されているのがレッドだ。2014年の創業当初は「中国版インスタグラム」と呼ばれていたが、購入につながるコンバージョン力が評価され、「インスタグラムとアマゾンが融合したSNS」などと評されるようになった。
レッドの強みは、ユーザー基盤として、購買力も消費意欲も旺盛な都市部の若年層、特に女性を獲得していることだ。ユーザー数の拡大に伴い、レッド内に公式ミニアプリを開設する企業も増え、現在の取扱商品は100業種・20万点以上にのぼる。
「とはいえ、レッドの真髄は、今も創業時と変わらず、ユーザー同士の共感と、お互いのリアルな体験をシェアすることで助け合う利他主義」とヤン氏は説明する。掲載コンテンツの9割は、ユーザー制作による投稿となっている。
クルックでは、まだコロナ禍にあった2022年5月にレッドの公式ミニアプリを開設。中国の国内旅行や渡航可能な海外への需要喚起に向けて、様々なキャンペーンを打ちながら、マーケティングの精度向上に取り組んできた。両社ともユーザーの多くが都市部の若年層であり、相互に送客できる親和性の高いパートナーになると考えた。同社によると、現在、レッドでミニアプリを展開しているOTAはクルックのみであり、旅行系ブランドの中でフォロワー数は最多を誇る。
調査会社のクロウリー(Crowly)の2023年のレポートでは、中国の旅行者が情報収集に最も多くの時間を割いたプラットフォームの1位がレッドとなるなど、最近では、旅行ガイドブックの役割も担うようになっている。
旅のすべてのフェーズに及ぶ影響力
日本国内の旅行事業者にとって、レッドとタッグを組んだマーケティングには、どのようなメリットがあるのか。
ヤン氏はまず、タビマエからタビナカ、帰国後のタビアトまで、「旅行者とのあらゆるタッチポイントに全方位でアプローチできること」を挙げる。「旅行前のリサーチから、日本滞在中の検索や予約、旅行後の投稿まで、中国の若者たちは常にレッドを使っている。日本の街中でスマホをいじっている中国人旅行者を見ると、大抵、レッドを開いている」と同氏は自信を見せる。
もう一つは、検索キーワードや投稿内容により、ユーザー動向や旅行トレンドを随時、把握できることだ。例えば、2024年第1四半期に増えた検索キーワードからは、「同じ富士山でも、定番ではない新しい写真スポットで撮影したいという意向や、より日本らしい体験、混雑していない穴場スポットを探していることが伺える」(ヤン氏)。
「あらゆる業種において、レッドを活用したマーケティングは、中国市場攻略での勝ちパターンになっている」と力を込めるヤン氏は、成功の3要素として「一般ユーザーからの投稿を増やすこと、人気ユーザーやKOLによるライブ配信などの活用、そして検索対策(SEO)」を挙げた。
JRパス販促では売り上げ3倍以上に
クルックとレッドによる旅行分野でのソーシャル・マーケティング成功事例の一つが、ジャパン・レール(JR)パスの販促だ。「便利だが分かりにくい」というユーザーの不満を解消するため、KOLに切符を購入する手順などを動画で投稿してもらったところ、「文字では伝えづらい部分も、よく理解してもらうことができた」とアン氏は評価する。加えて、キーワード検索を意識したコンテンツ最適化にも取り組んだ結果、2024年第1四半期のクルック中国法人によるJRパス販売高は、前年同期比で250%増となった。
クルックでは、こうしたレッドでの訪日旅行キャンペーン展開や、中国向けコンテンツの最適化などを支援することで、日本の旅行事業者と中国FIT市場の「架け橋」になることを目指す。
KOL投稿に予約ボタンを付与する試みもスタート
今回の両社による包括連携協定を機に、KOLを活用した新しい試みにも着手する。フォロワーへの影響力が大きいKOLの投稿に、クルック経由で訪日旅行プロダクトが予約できるボタンを付与するというものだ。KOLの投稿を見た人がワン・クリックで即、クルックのミニアプリに移動できる仕組みを整える。
より広い顧客層にアプローチするためにはSNSの活用が不可欠な時代だが、「クルックのミニアプリを活用すれば、初期投資や手間を省きつつ、対中マーケティングを効率的に展開できる」と増田氏は説明。販促予算の費用対効果を最大化できるとの考えを示した。
中国市場と旅行テックの両方に精通し、KOLも多数抱えるクルックだからこそ、「クライアント企業それぞれの要望に合った形で、若年層FIT向けのマーケティングに伴走することができる。クルックの販売力と、レッドによるブランド認知向上がもたらす相乗効果をぜひ活かしてほしい」とアン氏は訴えた。
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記事:トラベルボイス企画部