多くの宿泊施設を悩ませる、キャンセル料請求・回収業務。経済産業省や消費者庁でもノーショー(予約日時に無断で来店しない客)やキャンセル料に関する調査を実施しており、国も注目する課題といっても過言ではない。この状態が改善され、宿泊施設が既定通りのキャンセル料を回収できるようになると、どんな変化が起こるか。予約を取り消した客と宿泊施設の関係はどうなるのか?
2024年5月に開催された国際ツーリズムトレードショー(iTT)では、特別版「トラベルボイスLIVE in iTT」を実施。キャンセル料請求・回収を自動化するPayn(ペイン)COOの矢崎達則氏が登壇し、取消料をめぐる実態から請求・回収を開始した事業者の変化まで、各種調査によるデータを交えて説明した。ペインが目指す、宿泊施設と消費者がともにメリットを得られる請求・回収の方法とは?
旅行業界は最もキャンセルの影響を受けるビジネス
矢崎氏は、経済産業省や消費者庁の調査からノーショーや直前キャンセルの実態を説明。経済産業省が2018年に発表した飲食業界における「No Show対策レポート」によると、被害額は2000億円。当日と前日のキャンセルを含めると1.6兆円規模に及ぶ。
また、消費者庁が2024年1月に発表した「キャンセル料に関する消費者の意識調査」から、旅行関係事業者のキャンセル実態を説明。同調査は2023年7月に実施されたもので、「過去1年間にキャンセルをした商品・サービス」の上位5つのうち4つ(63.7%)を宿泊や航空、ツアーなど旅行関係のサービスが占めていた。キャンセル理由の86.3%は消費者都合によるもので、自然災害や外的要因などの不可避な理由は13.7%に留まった。
これに矢崎氏は「旅行業界は最もキャンセルの影響を受けるビジネス。世間一般のキャンセル理由は消費者の都合がほとんどで、事業者側に非がないことも事実」と話した。
では、キャンセル料支払いの実態はどうか。同調査では67.6%の回答者がキャンセル料を支払ったが、その7割が事前決済(定期購入、サブスク含む)で事前に提供していたクレジットカード情報から清算されたもの。「裏を返せば、事前決済以外ではキャンセル料の回収はほぼできていない」(矢崎氏)という状況だ。
矢崎氏は、「事前決済で全ての客室が埋まるかというと、それは別の話。大きな割引やポイント還元などの特典がなければ、クレジットカード情報を取られていつでも請求される状態になることに、快適さを感じる人はいない。事業者は事前決済と現地決済を使い分けながら、集客と売上を最大化している」と話し、宿泊事業者に特化して、キャンセル料請求・回収の業務実態と課題を読み解いていった。
宿泊事業者が陥る“負のループ”
矢崎氏は、ほとんどの宿泊施設では日々発生するキャンセル料の請求業務が満足にできていないと推測し、「負のループに陥っている」という状況を整理した。
請求方法がアナログのため、1件1件電話や郵送、メールで連絡し、支払いの確認ができるまでそれを繰り返す。これは大きな負担がかかる上、取消客から苦情を言われることも少なくない。労力をかけて嫌な思いをしても回収できないケースが多いため、“キャンセル料は回収できない”が前提となり、事業者側が「今回は免除するので、また来てください」と言う“誤ったおもてなし”が広がった。
この心理は消費者にも伝わり、「キャンセルしても請求されないし、もし請求されてもごねれば何とかなる」が常態化。消費者のキャンセルに対する意識が希薄化した。矢崎氏は「これが、日本のホスピタリティ業界で数十年、変わらずに続いている」と指摘した。
この“負のループ”を断ち切るため、Paynが提案するのが、テクノロジーの活用。矢崎氏は特に、「作業時間」「収益」で大きな改善が期待できるとし、その差を試算してみせた。
例えば作業時間を比べてみると、当日キャンセルとノーショーが1日3件程度発生するような全10店のチェーンホテルの場合、人の作業時間が1件当たり10分、年間で10万9500分(1825時間)、これを人件費(2000円計算)に換算すると年間365万円にもなる。もしシステムでその作業時間を半分にできたとすると、大幅なコストの圧縮が可能になる。さらに、テクノロジーで精度を上げていくことも可能だ。矢崎氏は「システムによる自動化をして終了するのではなく、構造改革をして生産性の向上につなげる。効率化して生まれた時間や原資を機械ではできないことに使うことが、キャンセル料請求・回収業務のデジタル化によるDXで向かうべき姿だと思っている」と話した。
請求・回収自動化ツールの効果・導入事例
矢崎氏は「仮に1万円の回収であったとしても、キャンセル料は100%利益になる。1万円の利益を作るために、日々のレベニューマネジメントやアップセルでどれだけ労力を要するかは、宿泊施設の方が一番わかっていることだと思う。今までキャンセル料請求をしていなかったホテルでは、効率的なキャンセル料の請求回収を通して、大きな利益の上乗せを実現している」と強調した。
あるチェーンホテルではキャンセル料による収益の一部を、回収実績の良いホテルに特別ボーナスとして支給。残りは各ホテルに分配し、宿泊客に喜ばれるサービスを考案してその資金とするように指示したという。
「私が素晴らしいと思ったのは、キャンセル料による収益を、スタッフのモチベーションと顧客サービスの向上のために還元したこと。キャンセル料の請求は正当な行為であり、回収できればスタッフにもお客様にも喜ばれる仕組みを作る原資になりえることが社員に伝わる。キャンセル料を免除することだけが唯一の対応方法ではなく、むしろ、取消し客の気持ちに寄り添えるおもてなしとして今後、スタンダードになっていくのではないか」(矢崎氏)。
Paynならではの価値、取消客にもメリットを
さらにPaynは独自の提供価値がある。矢崎氏が強調したのは3つ。
1つ目は、キャンセル料回収データの可視化。これまで、宿泊施設のキャンセル料請求・回収に関するデータはどこにもなかった。しかし、デジタル化することで自動的にデータが蓄積され、「キャンセルというダメージからのリカバリーを可視化できるダッシュボードが自動的に出来上がり、具体的な回収額をフォーキャストすることができるようになる」とアピールした。
2つ目は、システム連携の特許を取得していること。宿泊施設が普段利用するPMS(顧客管理システム)やサイトコントローラーからキャンセル客の情報をPaynの請求システムに自動で移せるので、顧客情報をひとつひとつ転記する必要はなく、たった数クリックで請求と回収の業務が完了する。
そして最後に矢崎氏が「最重要ポイント」というのが、キャンセル客にキャンセル料を支払ってもらった上で再来店をしてもらう仕組みまで考慮して設計していること。具体的には、クーポン発行機能だ。
例えば、連休や夏休みなどの高需要日に、感染症などの理由で当日キャンセルの連絡が入った場合、今までは宿泊施設には2つのシナリオしか対応策が存在しなかった。1つは顧客との関係が悪くなるリスクを覚悟でドライにキャンセル料請求をすること。2つ目は「今回に限り」と断った上でキャンセル料を免除し、売り上げを逃すが、再来店の保証はないまま終話する、というものだ。
そこに、3つ目として、宿泊客にキャンセル料を収受する理由を丁寧に説明したうえで同額相当のクーポン(有効期限付)を発行する選択肢が加わった。これにより、予約客は宿泊施設が事情を汲み取ってくれたという印象とともに、キャンセル料免除に近い顧客体験が得られる。同時に、宿泊施設側はキャッシュの回収確率とスピードが上がり、再来店時にはOTA経由ではなく自社予約になるため、自社予約比率の向上にも繋がる。双方にとってWin-Winな関係を保つことができるシナリオだ。
矢崎氏は「クーポンを使ってゲストが再来店する際は、現場の腕の見せどころ。事情を踏まえ、ピンポイントでベストなサービスを提供することができれば、キャンセルの連絡というネガティブなタッチポイントが、リピーター獲得のチャンスに変わる」と話す。
そして「当社が目指すのは、テクノロジーを使って事業者と消費者の関係をフラットにすること。事業者がキャンセル料を請求し、消費者が支払うことが当たり前になり、Win×Winの関係が存在する世界を作ることがミッションだと思っている」と続けた。
進行役を務めたトラベルボイスの山岡薫編集長は、Paynの「キャンセル客の顧客体験を向上させるメカニズム」に注目。「お客様はその宿泊施設を気に入り予約をしたはず。思いがけず行けなくなってキャンセル料を支払うという体験は、残念さとともに負の印象が残ってしまう。そこに着目し、キャンセル料請求の体験をファンへ昇華させようとする考えが、素晴らしい」と話した。
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記事:トラベルボイス企画部