ジャパネットが宿予約「ゆこゆこ」をグループ化した理由とは? 今後の旅行事業の展望から、好調のクルーズ事業まで、トップに聞いてきた

通販事業を展開するジャパネットグループが、旅行事業を拡大している。旅行会社「ジャパネットツーリズム」の設立から1年を経て、2024年7月1日には宿泊予約「ゆこゆこ」の株式を取得、グループ化した。ゆこゆこをグループに加えたことで、今後、国内旅行事業はどのように展開していくのか? 

好調のクルーズ事業は、今年に続いて来年も高級客船によるチャーター実施を発表。カジュアル客船との2カテゴリでのクルーズ販売を定番化した。2023年度のクルーズ事業の売上げは、150億円を超えたという。

ジャパネットツーリズム代表取締役社長の茨木智設氏に、現状と今後の展望を聞いた。茨木氏は、ゆこゆこの取締役にも就任している。

ゆこゆこグループ化の狙い

ジャパネットは、クルーズ事業の次のステップとして、国内旅行事業に本格参入した。2023年3月のジャパネットツーリズム設立は、その本気度を示したものだ。しかし、茨木氏はこの1年を振り返り、「正直なところ、国内の宿泊施設への営業には苦戦していた」と話す。

その理由の1つは、仕入れ体制にある。もともと、ジャパネットが販売するモノの仕入れは社内バイヤーがおこなってきたが、旅行商品となると勝手が違う。「宿泊施設への営業(仕入れ交渉)が不慣れだったため、良い宿泊施設の客室を良い条件で仕入れることができなかった」(茨木氏)。

この状況の中、茨木氏がゆこゆこに目を向けたきっかけは、2024年1月に放映されたテレビの情報番組だ。そこで同社が取り上げられたことで、一般的なOTAとは違う特徴を知った。 温泉宿に力を入れ、シニアをターゲットにカタログを発行し、コールセンターで顧客と対話して宿を提案をするなど、「プル型ではなくプッシュ型でアプローチをしている。当社とターゲットや考え方、やろうとするゴールが近い」と注目した。

さらに、ゆこゆこの顧客基盤の中心がシニア層であるため「平日」の宿への送客力がある。これは、2024年10月に「スタジアムシティホテル長崎」を開業するジャパネットグループにとって力強い存在。そして、地方の宿泊施設に送客することが地方創生に貢献できる価値となる 。 

何より、70人以上の営業担当者がいて、3000以上の温泉宿と関係を構築している営業体制は「非常に大きな魅力」と茨木氏は話す。

「ゆこゆこは『宿に伴走する』と表明している通り、営業担当者からは宿や地域を盛り上げたいという気持ちを感じる。今後はゆこゆこの力を借りて、当社も宿と地域に貢献しながら、旅行事業を成功させたい」(茨木氏)。

ジャパネットはゆこゆこと協業ではなく、株式取得を選択した。茨木氏は「やるからにはお互いに本気でぶつかりながらも、進んでいかなければ成功しない。グループ化は、一緒になって進んでいく覚悟」と説明する。同社はこれまでも、JリーグのVファーレン長崎や自主運営のミネラルウォーター製造の礎になったコウノウォーターを取得した経験があるが、ゆこゆこは「従業員規模としても、金銭的にも非常に大きな投資だった」とその重要度を強調する。

ジャパネットツーリズム代表取締役社長の茨木智設氏ジャパネットブランドで描く国内旅行のカタチ

今後の展望はどうか?

当面、「ゆこゆこ」とジャパネットは別ブランドで展開し、従来通りのサービスを提供する。ジャパネットのテレビ番組でゆこゆこの宿泊プランを紹介するのは、しばらく先になりそうだ。

その理由は、ビジネスモデルの違いにある。自社の顧客にとって良いものを厳選し、時には顧客にあわせた仕様に“チューニング”をするジャパネットと、顧客が多様な温泉宿を選べるように豊富なラインナップをそろえるゆこゆこでは、「販売戦略が真逆に近い。それなのに、同じブランドで提供をすると、矛盾が出てくる」(茨木氏)と説明する。

まずは、ジャパネットツーリズムの国内旅行事業で、ゆこゆこの営業力や関係性を活用する考えだ。茨木氏は「これで、だいぶ道が開けた。ゆこゆこ側も、新しいチャレンジができることで、メリットと捉えてもらっているのではないか。M&Aで、ここまではまるのは珍しいと思う」とシナジーに期待する。

今後は、ゆこゆこの契約施設から、ジャパネットとして顧客におすすめしたい厳選の宿泊施設を見出すことを考えている。そして、「航空+宿泊」ツアーの造成も視野に入れている。「テレビのようなマス媒体で紹介するのは、日にちと日程が決まっていて在庫があるツアー。」と考えている。

ゆこゆこの顧客基盤は、どう活用するのか?

ジャパネットは、すでに大きな顧客基盤を持っている。ゆこゆこの顧客基盤は、ジャパネットの既存顧客と重複することも想定され、今回のグループ化の決め手ではないという。しかし、嗜好の把握という観点での期待は高い。「我々は“旅好き”のフラグを持っているわけではない。旅行に関心を持つ顧客がわかる機会が得られるのはプラス」と話す。

ジャパネットツーリズム代表取締役社長の茨木智設氏

クルーズ事業の現在地は?

順調に成長してきたクルーズ事業はどうか?

ジャパネットのチャータークルーズには、2023年に4.4万人が乗船し、売上高は150億円を超えた。「利益も出せている。事業としては好調といって良いのではないか」と茨木氏は評価する。

旅行会社のチャータークルーズは一般的に、各社が趣向を凝らした特別なサービスや企画を追加することが多いが、ジャパネットはサービス設計の考え方が違う。同社の顧客層がクルーズを楽しめるよう、基本サービスにも工夫を凝らす。

例えば、同社の定番商品となったカジュアル客船「MSCベリッシマ」のチャータークルーズでは、通常は別料金となる船内のドリンク代や寄港地での循環バスの料金も旅行代金に含めて提供する。船内ドリンクはビール、ワインのほか、カクテルや日本酒なども含む150種が対象。循環バスは寄港地で、複数の主要スポットをめぐる。

クルーズ会社側からすると、本来、これらは付帯収入を見込む重要な商品だが、「日本人になじみが少ない船旅を身近にするのが当社のミッション。当社のシニアの顧客が船旅に抱く憧れを手の届くものにしたい」(茨木氏)との思いで実現した。そうして作りこんだ「MSCベリッシマ」のチャータークルーズが、2023年度クルーズ・オブ・ザ・イヤーのグランプリ(国土交通大臣賞)を受賞。茨木氏は「このクルーズ旅行の世界観を、クルーズ会社と一緒に作ることができたのが象徴的(ジャパネットらしさ)」とその意義を強調する。

乗船客にも好評だ。顧客アンケートでは、満足度97%の回答も得た。クルーズ事業の開始当初は、クルーズはもちろん、海外旅行も初めての利用客が多かったが、2023年は乗船者の10%がクルーズ中の船内で翌年の予約をしており、リピーターが増える傾向にある。2025年に実施する高級客船「バイキング・エデン」のチャータークルーズには、クルーズは経験済みだが、ジャパネットは初めてという新たな客層の予約も増えたという。

「リピーターが増えると、船上で出会ったお客様同士が会話を通してクルーズの楽しみ方を知る機会が増える。船内が安定していくので、良い傾向。販売も、テレビよりコストが低いDMなどでも集客できる。媒体費が下がった分は、リピーター向けの特典に充てることも可能だ。好循環に入っていると思う」(茨木氏)。

今後は高級客船とカジュアル客船の2カテゴリで

高級客船の販売状況はどうか?

高級客船の第一弾として、2024年に実施したシルバーシーのチャータークルーズは「チャレンジとしては成功」と振り返るものの、売上げでは「失敗といわれても仕方がないレベルだった」(茨木氏)。一方で、「初年度の課題も明確に見えたので、次は失敗する要素はない」と、2025年以降も高級客船のチャーター実施を決めた。2025年の実施分は、日本に営業拠点を置いたバイキングクルーズの提案を「魅力的」と判断し、同船によるチャータークルーズの販売を開始している。

今後、当面のクルーズ事業はカジュアル客船と高級客船の2つのカテゴリで実施する方針だ。高級客船は顧客にとって「バリエーションも魅力」(茨木氏)で、クルーズ会社やブランドの固定は考えていない。

カジュアル客船も「今後は、MSCとともに別の船でのツアーを考えている」という。ジャパネットでは船内はもちろん、寄港地での到着・観光・出航を含むトータルの体験をクルーズ旅行と捉えており、「大型船では入れない港への寄港が可能なサイズの船」も視野にいれている。

2024年7月にはジャパネットツーリズムの拠点を福岡・天神オフィスに集約。従来の旅行業が提供してきたサービスの枠を超えて、企画から販売まで顧客のニーズにこたえる体制を整えた。ジャパネットの旅行事業は、さらなる進化に向けて歩み続けている。

聞き手:トラベルボイス編集部 山岡薫

記事・写真:山田紀子

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