米ニューヨーク市の観光戦略を聞いてきた、2025年イベント目白押しの取り組みから、オーバーツーリズム対策まで

ニューヨーク市では2025年から2026年にかけ、市制400周年、アメリカ建国250周年、USオープンゴルフ、FIFAワールドカップといった歴史的な周年、スポーツイベントが相次いで開催される。この好機を活かすため、ニューヨーク市観光会議局は、18カ国で新しいグローバル観光キャンペーン「With Love + Liberty, New York City」を実施する予定だ。2024年10月下旬には、観光業界11社とともに東京と大阪でセールス・ミッションを実施した。

今回の代表団を率いた、ニューヨーク市観光会議局ツーリズム・マーケット・ディベロップメント部門のシニア・バイスプレジデント、マキコ・マツダ ヒーリー氏に、ニューヨーク市のマーケット回復状況と、今後の旅行者増加への対応について話を聞いた。

ニューヨーク市観光会議局は、5つの行政区(マンハッタン、ブルックリン、ブロンクス、クイーンズ、スタテンアイランド)全域の観光推進、経済発展、イメージ向上を目的とした、ニューヨーク市の公式ツーリズム・マーケティング機関だ。

日本人の消費額は上昇、目的意識の高い旅行者が訪問

コロナ禍前の2019年にニューヨーク市を訪れた日本人観光客数は35万4000人。コロナ禍を経て、2024年は24万5000人、2025年に28万4000人まで回復し、2026年には2019年の水準まで戻ると予測されている。

マーケットの回復状況についてヒーリー氏は、「グローバルマーケットは2024年の予測で6480万人、コロナ禍前の97%まで回復すると見込んでいます。2025年には完全に戻るでしょう。ヨーロッパやカナダなどは早くから回復していましたが、長距離のアジアや日本は、今がリカバリーの真っ只中」と語る。

人数は完全回復していないが、日本人の消費額は1人あたり2600ドル(日本円で約39万円)、宿泊日数は6.5泊と、ホテルに長く滞在し、アクティビティも楽しんでいる傾向にある。

「今戻ってきている日本人は、カルチャーに興味があり、ブロードウェイやコンサートに足を運んでいます。トレンド・セッティングを行う人々で、コミュニティに入って暮らすように楽しんでいます。景気や為替相場には左右されない富裕層や、目的意識が高い人々が訪れており、その結果消費額も上昇しています」(ヒーリー氏)。

ニューヨーク市観光会議局のマキコ・マツダ ヒーリー氏

日本からニューヨークへの直行便は2024年11月現在、4社が週に49便を運航。コロナ前に比べ25%増加した。好調な訪日インバウンド需要に支えられ、搭乗率も高い。為替変動やマーケット回復で日本人旅客が増えたとしても、両方向のトラフィックが生まれているので、席の供給は十分と見込んでいる。

目白押しの周年イベントとスポーツイベント

2025年、2026年とニューヨーク市では、大規模なイベントが続けて開催される。2025年は、ニューヨーク市制400周年とゴルフ・ライダーカップ開催。2026年は、アメリカ建国250周年、USオープンゴルフ、決勝戦を含むFIFAワールドカップ8試合の開催が予定されている。

これらのイベントを控え、ニューヨーク市観光会議局は、2024年から新しいグローバル観光キャンペーン「With Love + Liberty, New York City」をスタートした。日本を含む6カ国を皮切りに、2025年6月までアメリカを含む12カ国・都市でも展開する。

ヒーリー氏は、ニューヨークの魅力はその多様性と、日々歴史が作られているところにあると話す。「ニューヨークはアメリカの始まりの場所です。お菓子のオレオクッキーやカクテルのブラッディマリー(セントレジスのバー)などもニューヨーク生まれです。毎日いろいろなことがあり、いろいろなものが作られているのがニューヨークというコンセプトで、来年から”Founded By NYC”というキャンペーンを行う予定です」。

ニューヨーク市観光会議局は、来年、再来年の旅行業向けの情報として、歴史のシーンをリスト化している。ツアー商品のフックに使えるものから、そのものが商品にもなり得るものまで、充実した観光素材をアピールする。

観光客が市全体にポジティブな影響を及ぼすために

世界各地ではオーバーツーリズムの問題が顕在化しているが、ニューヨーク市の現状と対策はどうなっているのだろうか。

ヒーリー氏によれば、現在のニューヨーク市では、オーバーツーリズム問題は存在していないという。その理由として、観光局が以前から、観光素材を広いエリアで発掘し、観光客がさまざまな場所に興味をもつように誘導してきたことをあげる。つまり、問題が発生する前から分散化を図ってきたということだ。ニューヨーク市では、観光客が市全体にポジティブな影響を及ぼすことができるよう、努力しているという。

「ニューヨーク市の取り組みはいくつかあります。まず、地域の組織や住民に対して、観光が与える利益をきちんと理解してもらうのが大事だと考えています。コロナ禍のときには、経済と雇用に観光産業がどれだけ貢献しているかということを、みなさんが実感されました。現在38万人以上の雇用が観光によって支えられています。観光産業がなかったら、市の行政サービスを維持するためには、各家庭が2000ドル(日本円で約30万)の負担増となると言われています」(ヒーリー氏)。

ニューヨークは観光とともにビジネスで賑わう町だ。ホテル稼働率が高くなるときはあるが、ビジネス旅行が緩やかになる1~3月や7~8月など、キャパシティがあるところに、集客できるように努力している。すそ野を広げ、キャパシティを大きくしていけば、観光客が増えても極端な集中を避けることができるという考えからだ。その時期に旅する旅行客は、ブロードウェイのチケットが1人分料金で2枚購入できる割引や、ホテル代、レストランの食事代が割安になるといったキャンペーンを実施し、予算的なメリットも提供している。

「本物の記憶に残る体験が可能な、ニューヨークで暮らすような過ごし方が人気です。そうするとマンハッタンだけでなく、クイーンズやブルックリンも旅行商品となりえます。しかし、個人商店やレストランには、旅行会社とどう仕事をしていいか、またどこにコンタクトすればいいかわからない方たちもたくさんいます。私たちは、Tourism Readyというプログラムを作り、コミュニティに対して無料で教育を行っています。観光客に対応できる個人商店が地域に広がれば、キャパシティを大きくすることができます」(ヒーリー氏)。

業界向け教育システムを強化

こうした中小事業者の支援サービス”Tourism Ready”は、ニューヨーク市が2016年からおこなっているプログラムだ。「旅行業界とは」「旅行業界向けのマーケティングと価格設定」「パネルディスカッションとネットワーキング」など、さまざまなカリキュラムが組まれ、これまでに185社242名が受講を完了している。

ニューヨーク市観光会議局としては、多様性が反映される旅行商品を各マーケットで作るため、事業者向けの教育システムが必要だと考えた。またサプライヤーのなかにも多様性があり、それぞれ違った支え方が必要とされる。以前は、旅行者にリーチすることが難しかった中小事業者や個人経営の店も、Tourism Readyで学んだことで、成果を挙げ収益性も高めているという。

ニューヨーク市の取り組みは、全米規模の活動にも影響を与えた。IITA(International inbound travel association)という観光組織は、ニューヨークのプログラムをモデルにしてインバウンド旅行プログラム“Steps to Succes”をつくり、全米各地で教育をおこなっている。ニューヨーク市は先駆けとして、トレーニングプログラムを作り、大きな成功を収めている。

※ドル円換算は1ドル150円でトラベルボイス編集部が算出

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