HIS、雇用調整助成金の不適切受給で62億円を自主返還、子会社は不正受給で1.3億円、再発防止策が「機能しなかった」

エイチ・アイ・エス(HIS)は、2020年3月から2022年12月までの期間に受給した雇用調整助成金約242.6億円について、不適正受給が判明したことから、このうち約62.6億円を自主返還する。

また、外国人向け航空券などを扱う連結子会社のナンバーワントラベル渋谷については、2020年3月から2023年3月までの受給が不正と判断されたことから、受給額約1.1億円に対して、受給額および違約金の合計約1.3億円を返還。さらに別途、年3%の延滞金を加算する。2024年11月に東京労働局による調査を受けていることを公表していた。

同社については、代表取締役社長のRANJAN KUMAR DASDEB氏と取締役1人の月額報酬を50%減額。RANJAN氏は、HISからの辞任勧告を受けて、すでに2024年12月26日付で代表者および社長を辞任している。

このほか、その他連結子会社については調査を継続。その受給額は合計42.9億円。対象となる子会社は、最終的に雇用調整助成金を申請した22社に加えて、受給期間中に連結子会社だった会社も含めて計32社になる。

HISの矢田素史社長は会見で「2021年に連結子会社2社によるGoToトラベル不正受給後、再発防止策を実施してきたが、機能しなかった。今回の結果から管理体制が甘かったと言わざるを得ない」と話したうえで、今後特別調査委員会の最終報告を受けて、「より強力なガバナンス体制と再発防止策を決めて、より厳しいコンプライアンス遵守の指導を進めていく」と強調した。

不適切・不正受給について説明するHIS矢田社長(左)と安藤弁護士不適切・不正受給の実態と背景とは

HISは2024年4月下旬に会計監査人トーマツから不適切受給についての情報提供を受け、9月上旬にアンダーソン・毛利・友常法律事務所にデータ検証を委嘱。初動調査として、全従業員約170万日分の業務メールなどを精査した結果、雇用調整助成金等の受給対象とした休業日のうち、約2割強の休業日については、従業員の就労があったと判断せざるを得なかったという。

具体的には、就労があったと判断した申請日のメール・基幹システムなどでの操作履歴が確認された回数は、1回が30.6%、2~5回が34.9%、6~10回が12.1%、11回以上が12.8%だった。

特別調査委員会を組成するアンダーソン・毛利・友常法律事務所の安藤紘人弁護士は、グループ全体の調査は継続中としたうえで、不適切受給の背景として、「制度の理解不足」「労務管理の不備」「顧客優先」があったと指摘。従業員の話として、「メール1回は業務とは思っていなかった。当時は旅行需要が落ち込んでいた時期でもあり、顧客とのやり取りを優先した」と説明した。

また、全日休みと申請したために、不適正受給につながったとの考えを示し、「故意に水増し請求をしたわけではないため、間違ってもらいすぎた過失として、その金額を返還することになった」と付け加えた。

一方、ナンバーワントラベル渋谷については、2024年4月上旬に東京労働局が無作為に行なった関連書類の提出申請を受けて、疑義が発覚。実際には就労した日に、休業したとする虚偽の申請書類を作成し、雇用調整助成金を不正に受給したと判断された。

安藤氏によると、特別調査委員会による聞き取りで、同社は「コロナ禍で旅行需要が激減するなか、売上を立てなければならない必要性に迫られた」と説明したという。調査では、受給額を不正流用した事実はなかった。

この問題を受けて、HISは2024年12月中旬に予定していた2024年10月期決算の発表を延期している。HISは、雇用調整助成金の受給期間が2020年度から2023年度になるため、過去4年の決算期で訂正が入ると説明。業績に対する影響については、特別調査委員会による調査が継続しているため、調査報告書を受領した後に発表するとしている。

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