「観光おもてなし研究会」、地域や観光協会に求められる役割とは?

観光庁と公益社団法人日本観光振興協会は、「観光おもてなし研究会」第1回研究会を開催した。この研究会は、地域の観光協会などに関して、その現状や求められる役割について議論・研究するもの。観光立国を実現していくうえで、地域における国内外からの旅行者の受入体制向上の重要な役割を担っていく地域の観光協会等のあり方を検討し、組織の活性化を図る。

今回のレポートは、研究会の様子を報告する。なお、この研究会は、ニコニコチャンネルでライブ配信、視聴者のコメントが研究会中にも紹介。ライブの来場者は383人、コメント数が101件で日本各地から視聴された。 研究会は今回を含め全3回の予定だ。


【観光おもてなし研究会 委員】

  • 可 越 氏 :日中コミュニケーション(株) 取締役
  • 久保田 美穂子氏 : (公財)日本交通公社 観光研究情報室長
  • 矢ヶ崎 紀子 氏 : 首都大学東京 都市環境学研究科観光科学域 特任准教授 (本研究会委員長)
  • 矢口 正子 氏 : (株)交通新聞社 「旅の手帖」編集長 (欠席)
  • 横山 幸代 氏 : (株)リクルートライフスタイルじゃらんリサーチセンター 副センター長

▼変わりゆく地域の観光協会、今後の取組みに5つの提言

まず基礎資料として、社団法人日本観光協会が平成23年(2011年)3月にまとめた「地域観光協会等の実態と課題に関する調査報告書」の概要を事務局が説明。これは広域観光推進組織、都府県観光連盟・協会、主要観光地の市町村観光協会などにアンケート調査およびヒヤリングを行って、実例紹介とともに全国の観光協会等の現状の把握を試みたもの。その上で地域観光連盟・協会等の課題、今後のあり方と取り組みの方向性として下記の5点を提言している。

  • 観光地域づくりに関わる多様な事業者、NPOの連携・協働の場となるような体制の変革
  • 行政からの補助金・負担金、会費に依存しない独自財源の確保
  • 民間の事業マインドと経営センスをもったプロフェッショナルな事業運営
  • 広域連携
  • 観光まちづくりに結実させていくための人材の育成

 「地域観光協会等の実態と課題に関する調査報告書」の概要



▼当たりまえの生活文化にアピールポイントが

再認識と情報発信で、ゴールデンルートだけでない提案を

観光をとりまく社会状況が大きく変化している中、地域が検討していくためのヒントを探っていきたいとして、委員がそれぞれの立場から、観光協会に求められる新たな役割について意見を述べた。

中国出身の可越氏からは、中国人の視点からみたインバウンド対策として、地域のアイデンティティ形成と情報発信の重要性が述べられた。日本ほど「おもてなし」の良い国はないとし、例として、電車がほぼ時間通りに来ること、世界の中でも安全・安心な社会であること、食事がおいしく、人がやさしいことなどを挙げ、自分たちが当たり前に思っていることの中のアピールポイントを第三者から発見してもらうことも大切とした。

また、訪日外国人がゴールデンルートを通るのは他の場所の情報が少ないからと指摘。中国からの訪日客は団体からFITに移行している現在、国際情勢がどうであろうと、個人が「行きたい」と判断できるような情報の発信を求めた。

また、久保田美穂子氏は、基礎資料の5つの提言にあるように、既に各地の観光協会等のあり方や期待される機能はすでに整理がされており、さらに地域の現場の情熱や知恵は素晴らしいものがあると述べた。

例として、群馬県の観光協会の水上カスタネット工場訪問ツアーや、街あるきツアーの「長崎さるく」などを挙げながら、担当者の目を通した地域紹介の大切さを紹介した。さらに、「もてなし」の語源は「もって」「なす」ことであり、「なす」とは身に付いた振る舞いや暮らし方という意味もあり、日本人はもっと暮らしの中での生活文化や日本文化に自信を持ち、観光に携わる者としてはそのことをもっと認識して観光情報として盛り込んでよいのではないかとした。


▼旅行の満足度はホスピタリティと関係

「おもてなし」のゴール設定で段階的な発展を

横山幸代氏は、じゃらん宿泊旅行調査などから、旅行の満足度はホスピタリティ満足度との関係が深く、地元の人と触れ合わなければホスピタリティも感じられないため、東京などの大都市では満足度が上がりにくいなどの調査結果を披露した。リピーター追跡調査によると、全国平均でおよそ4割しか再訪しておらず、残り6割の再訪率を上げるには、ガイドに乗っていない地元ネタの提供が有効とした。

さらに、「おもてなし」については、何のためにするのかのゴールセットをしてはどうかと提言。地域経済の活性化をゴールとするなら、どのおもてなしが消費を促すかシビアに考え、地元情報の中でも消費につながるものを優先的に商品化していく。インバウンド対策も同じで、外国人にとって訪日旅行に求めていることは日本人らしい生活体験であることが調査からわかっている。地域ならではの生活体験を外国人や地域外の人に見せる工夫とそれを消費につなげる工夫を、建物を建てるというようなハード面よりも事業をつくるといったソフト面での試行錯誤をしながらみつけてはどうかとした。

矢ヶ崎紀子氏は、まず「おもてなし」の定義をよく考えることは意味のあることと指摘。英語のホスポタリティでは表しきれない「おもてなし」を深く考えることでヒントが見えてくるのではという。

「おもてなし」はその土地ならではのものをおすそわけすることが原点とし、地域独特の体験をシェアすることでその体験は誰かに語りたいストーリーとなり、リピーターを増やすことにつながるとした。また、観光協会等の役割形成については、地域の信頼を得るために最初の一歩はまず商品の共同開発から始め、実績を積み上げながら次第に、コンセプト・ビジョン作り、ビジネスパートナー紹介、広域連携して海外PRの機会を作るなど、段階的に地域との協力体制のフェーズを上げていくことを提案した。

別の例としては、訪問者数の目標を段階的に設定する方法を紹介。大都市圏からの観光客誘致だけを考えるのではなく、近隣流動の大切さを認識し、近くの都市、次に近い政令指定都市、大都市圏へと誘致対象をステップアップする。さらに、地域の魅力を整理し、目玉となる魅力の次に、来てみてわかる第2の魅力を体験型・着地型の中に仕込むことで、リピーターの創出につながるとした。



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