オンライン旅行会社のエクスペディアは、新たなIT・テクノロジー戦略として「シームレス・トラベル・プラットフォーム」を展開する。これは、3つの柱を軸とするもの。ひとつめはマルチデバイスへの対応、ふたつめはパーソナライゼーション(個人への最適化)、3つめはサービス領域の拡充だ。このほど、同社のアジア地域CEOのキャスリーン・タン氏などが来日し、記者会見で新たな戦略と背景を語った。
タン氏は、近年のアジア市場におけるオンライン旅行業界の変化についてモバイル化を指摘する。「モバイルが今後オンライン旅行市場を変えていく(タン氏)」という認識だ。日本市場でもモバイル経由の検索でサイトを訪れるユーザーが65%まで拡大。スマートフォンやタブレット端末などスマートデバイスがもたらした消費者の行動の変化に着目、そこにチャンスを見出しながら拡大と差別化を目指す。
記者会見後のインタビューでは、英語圏のみで展開されてきた“ツアーアクティビティ(現地ツアー)”を2015年に日本語で展開する可能性があることにも言及。同社にとって、拡大するアジア市場のなかでも25%の売上を占める重要市場の日本でも積極的な展開を図る計画だ(日本市場での展開についてのインタビューは後日掲載)。
今回発表された新戦略の3つの柱と、語られた背景は以下のとおり。
▼マルチデバイス化 : 違うデバイスでも「同じ体験を提供する」
近年、デバイスが多様化し、画面の大きさも様々なものが登場している。同社アジア地域最高事業責任者のビクラム・マルヒ氏(右)は「時間帯でどのデバイスを使うか、という点も変化している」として、検索から予約の流れで、旅行者の行動時間やデバイスがかわってきたことを指摘。数か所で数デバイスを使うユーザーに対応して「違うデバイスを利用しても同じ体験を提供することが重要」と強調した。参考>>> ネットショッピング時の使用デバイス、スマホ24%・パソコン56%、マルチスクリーン化が進む ―ニールセン調べ
こうしたことから、同社はユーザーの利用するデバイスを問わず、最適なユーザーインターフェイス(UI)を提供する。デバイス毎に対応してきた旅行予約や旅程管理を、各種デバイスで同様に閲覧できるマルチデバイス化だ。レスポンシブUIを導入し、ユーザーの画面サイズがかわるとタブレット用、スマホ用のサイズに自動で切替わる仕組みとする。
同社アプリでは、予約だけでなく旅程管理やフライト情報の提供などの機能も備えており、ここでもユーザーは予約とは別のデバイスを使う可能性が高い。マルヒ氏は「モバイルをもって旅に出ること想定している」として、ユーザーの旅行前の予約段階だけでなく旅行中にも利便性を高める方針だ。
▼パーソナライゼーションの進化 :ビックデータと検索履歴で個別の最適化情報を
キャスリーン・タン氏は「テクノロジーとデータで旅行者を理解したい」として、旅行者がサイトで行った検索履歴などのビックデータを重視していることを明らかにした。こうしたビックデータを活用して、同社が展開するのはサイトに掲載する情報を個人に最適化(パーソナライゼーション)させていくこと。従来型の誰が見ても同じ情報が掲載されている画一的な情報(検索結果)から、個別の検索履歴に基づいて個別に最適化された情報を提供できる精度を上げる。また、複数のデバイスにまたがる検索履歴なども連携する。
これは、ユーザーの嗜好に合わせるのと同時に販売促進にも活用ができる。例えば、検索履歴の日程や目的地から、割引情報などを個別でメールするなど、コンバージョンを高めることにも有効だ。
▼サービス領域の拡充 :旅行中のユーザーにリアルタイム情報提供など
従来型の予約サイトが行ってきた旅行検索・予約で完結する形態から、旅行中の旅行者にもリアルタイムで情報提供を行う。これは、同社が考えるカスタマーサービスの一環だという。同社の北アジア マーケティングディレクター木村奈津子氏(写真右)は、今回のサービスで最大の特徴を「予約だけでなく旅程管理一元化ができること」と紹介。旅行中に、ホテル情報・地図、フライトや空港までアクセス、空港内の地図が確認も可能なものにし、アラート機能も充実させた。
具体的には、航空機の遅延やチェックインカウンター・ゲートの変更、受託手荷物が届くターンテーブルの位置、フライト時間リマインドなどもリアルタイムで発信する。木村氏は「予約後はオフラインの世界におかれていた情報を、予約後もオンラインの世界で提供できる」として自信を見せている。
この機能は、旅程管理だけでも利用可能なもの。同社は、アプリの満足度向上でリピートする旅行者を増やしてきた経験値があるといい、こうした機能拡充でさらなるユーザー獲得と差別化を目指す。
参考記事>>>
(トラベルボイス編集部:山岡薫)