今や、多くの産業が観光分野に関心を示すなか、観光土産品ビジネスにも新しい風が吹いている。NPO交流・暮らしネットでは観光土産品ビジネスを取り巻く市場変化に注目したセミナーを開催し、講師として招いた土産品ビジネスに関わる4名が、それぞれの現状を語った。
高速道路や空港など講演者のフィールドはそれぞれ異なるものの、土産品ビジネスが担う意義や役割の重要性は共通。キーワードは、「地域活性化」「インバウンド」「物欲を超えた旅行の魅力」だ。今回は土産品を巡るトレンドと今後の可能性をまとめた。
講師:
日本観光施設協会事務局長(元JTB旅行スタンプ代表取締役) 坂田光行氏
東日本高速道路 事業創造企画室 調査役 瀬川祥子氏
全日本商事 リテールカンパニー リテールマーケティング部統括マネージャー 大橋克之氏
ジャパンショッピングツーリズム協会 専務理事・事務局長 新津研一氏
▼今、旅行者が購入している土産品とは
土産物の最大のキーワードは今も昔も「地域」だ。団体ツアーが隆盛となった1970年代以降は過当競争が起き、ラベルを張り替えるだけで中身はどこでも同じような商品が販売されるようなったが、日本観光施設協会の坂田氏によると「地域ならではの土産品を期待している消費者からの苦情が増えた」。そこで「旅を感動してもらうものの一つとして名産や歴史文化を踏まえた商品開発が行なわれるようになった」と、土産品の変遷を説明する。
現在でも地域性は重要で、NEXCO東日本の瀬川氏によると高速道路のサービスエリア/パーキングエリア(SA/PA)の販売では、「売れる理由がはっきりしている」。売れ筋商品は「ネームバリューのある地元の老舗店舗や、地域のブランド素材を使用した商品、地域限定商品」と述べ、例えば米沢なら「米沢牛」や、喜多方なら「ラーメン」というように、その地域らしさが感じられる商品が強い。
ただし、販売店舗の立地や特性も販売動向を左右する。全日空商事の大橋氏によると、空港では地域性に加えて「ブランド品や高額商品が売れる」。特に女性客に顕著だ。
これについて大橋氏は、女性が同性に贈る土産品では単なるバラマキ需要は終わり、土産物が「自己表現の一つ」になっていると指摘。月並みな商品を選ぶのはカッコ悪く、スマートな新しい商品を求める傾向が強いという。さらに、LCCの拡大に伴い若い女性の利用者が増えているが、女性客は旅費を節約しながらも買物を楽しみにしているとし、節約分の需要が期待できるという。
一方、高速道路のSA/PAでは、買い忘れ対応というユニークな需要がある。このため、NEXCO東日本では揃える地域商品について店舗所在地の市町村と県域の間程度を地元と認識し、さらに同じ高速道路上にある地域の商品も「路線商品」として揃えるという。
▼続々と参入する異業種プレイヤー
では、土産品の販売側にはどのような変化が生じているか。
坂田氏はまず、旅行先の多様化による影響を指摘する。東京ディズニーリゾートやユニバーサルスタジオジャパン(USJ)などテーマパークが主要の旅行先になって久しいが、昨今ではアウトレットモールも観光施設となり、その中で土産物が購入されるようになった。これに加え、レジでの手間を省くため3%の消費増税分を上乗せせずに据え置く店が多く、その結果、観光地の土産物店は厳しい状況になっているという。
また、瀬川氏は観光や地域への注目が高まる中、ナショナルメーカーが地域限定商品を掲げて参入したことを指摘。さらに大橋氏はこの5年以降の傾向として、「異業種参入」や「越境参入」も増え、こうした企業が一気にトップランナーになっているという。
例えば、「東京ばな奈」で一躍メジャーに躍り出た東京のグレープストーンは、3年前に人気商品「シュガーバターの木」の「北海道限定品」を販売。北海道の菓子メーカー、ロイズコンフェクトも2007年に「ロイズ石垣島」を立ち上げ、オープン当月から沖縄でのトップを不動のものにしている。このほか、北海道の菓子メーカー、ヨシミとカルビーのポテトファームとの“日本一プレミアムな”ポテトチップスなどコラボレーション商品も増加。地域内の“おもたせ需要”も視野に入れた土産商品の開発も行なわれている。こうした動きは西日本よりも、東日本~北海道で顕著だという。
地域と組んだ商品開発という点では、NEXCO東日本も力を入れている。例えば、関越自動車道三芳PAで販売する「いも恋」は、同地域・川越の老舗菓子店「右門」と三芳らしい土産品として共同開発したもの。17年経った今でもトップに君臨する人気商品となっている。2位以下も三芳あんパンや地域の牛乳を使ったシュークリームなど、地域色の強い商品が続く。NEXCO東日本では経営計画に「地域のショーウィンドー化」を掲げ、取り組んでいるところだ。
▼過去に例のない消費を迎えるインバウンド
さらに忘れてはならないのは、インバウンド。高速道路のSA/PAではまだ割合は小さいものの、新勢力との競争が厳しい従来型の観光地の土産物店では「インバウンドが頼みの綱」(坂田氏)となっているし、空港では「肌感で2割くらいまで来ている」(大橋氏)という。
大橋氏によると、国内旅行者には地域性が重要だが、訪日外国人旅行者は「日本に来た証」を求めるのがポイント。東京でも京都でも、同じ傾向の商品が人気だ。例えば世界ブランドと日本のコラボレーションである「キットカットの抹茶味」。有楽製菓のチョコレート菓子「ブラックサンダー」も、タレントを活用したSNS発信で火が付き、大人気となった。土産品購入は特に中華圏からの旅行者の需要が大きいため、彼らに強いブランドとなっている「北海道」と銘打った商品も、「日本の入国証明書」として人気が高いという。
こうした土産物を含むインバウンド対象の買物ビジネスには、国内観光市場以上に幅広い参入が目立つ。2013年に設立したジャパンショッピングツーリズム協会の新津氏によると、参加メンバーは旅行会社や観光施設、観光商業施設などのほか、出版、印刷会社、通信、金融、IT、人材派遣など、多種多様な業界の企業が名を連ねている。「まずは競合するよりも協力してインバウンドマーケットを拡大した方が、結果として利益が得られる」という認識なのだという。
新津氏によると2014年の市場規模は7100億円、そのうちアジアを中心とする上位6か国地域の売上だけで約8割の5800億円を占める。外客数が1500万人と予測される今年は最低でもさらに1500億円はプラスになるといわれており、「これは日本の小売業がこれまでなかった経験になるだろう」と、そのインパクトを予測する。
▼日本の「観光」としての役割も
新津氏は、訪日外国人旅行者のショッピング拡大に向け、その意義として「日本での買物には日本の旅そのものが含まれている」と強調する。買物を通して日本人に会い、接客や商品で日本人の気質に触れることができる。例えば、値段に割に高品質な100円のボールペンには日本人の細かさが感じられるはず。物欲を満たす消費ではなく、日本を体験する「ショッピングエクスペリエンス」をプロモーションしていく考えで、これは日本の販売側としても事前に共有すべき概念だろう。
さらに、「ショッピングは観光コンテンツであり、東京や大阪などの大都会だけではなく地方でも成り立つもの」と新津氏は続ける。例えば、文房具やおもちゃ、造花などの問屋街である東京の蔵前では2014年、ワークショップを開催したところ10万人以上が集まり、外国人旅行者も訪れた。「外国人旅行者は日本人を見に来る。日本人が生活する町を楽しむという意味では農村漁村でも同様のことができる」と地方での展開の可能性を語る。
例えば、トリップアドバイザーで日本のアクティビティの人気1位となったのは、岐阜県飛騨の里山サイクリング。クチコミ情報を見て、訪日旅行の旅程に加える外国人が増えているのだ。サイクリングを通して地域に触れるアクティビティだが、ショッピングの意義を踏まえれば、地域の伝統産業などを活用しながら同じ本質を提供できる可能性があるのではないか。
4名の講演が終わり、閉会の挨拶として交流・暮らしネット理事の茂原史則氏は、「土産品ビジネスは地方創生や観光立国のところまできている」と述べた。地域の文化や産業の活性化への貢献を切り口に、土産品ショッピングが本来、旅行にもたらす好影響を増やし、国内旅行や訪日旅行の魅力を高めていきたい。
取材・文:山田紀子