百花繚乱!世界の機内食めぐり
機内食コラムを担当する旅行・グルメライターの古屋江美子です。
ビールやワインを飲みながら、新作映画を楽しみ、機内食に舌鼓――。機内ならではの至福のひとときですね。
国際線ではアルコールが無料なケースが多く、乾燥している機内ではついお酒も進みがち。しかし、一説には機内は地上の約3倍も酔いやすいといわれ、飲みすぎには注意が必要です。なぜでしょうか?
機内だと酔いやすいのはなぜ?
機内が酔いやすいといわれる所以は、機内環境の特殊性によるもの。まず、機内の気圧は地上より低く、気圧を調節する与圧装置はあるものの、地上を1気圧とすると約0.8気圧。高度約1万メートルを飛行中は2000メートル前後の山にいるのと同じ環境です。
気圧が低いと酸素分圧(機内の空気中の酸素の圧力)も低下し、血液中にとりこまれる酸素が減少します。アルコールの大半は肝臓で分解されますが、そのとき多くの酸素を必要とするので、酸素が少ないとアルコール処理能力が下がってしまうのです。
機内で飲みすぎて脳貧血(失神)をおこす人もいます。機内では長時間座っているので血液が下にたまりやすく、飲酒によって血管が広がり、血圧が下がって、脳まで血液が循環しづらい状況。
そんなときトイレなどのために急に立ち上がると脳が酸欠をおこして、脳貧血をおこしてしまうのです。
気圧が招く変化はもう1つあります。機内で開けたペットボトルが地上に着くと変形して凹んでいるように、気圧が低いところでは気体は膨張します。胃の中のガスも例外ではなく、機内ではお腹が張ったり、不快感を覚える人も少なくありません。そのため、フライト中はビールなど炭酸飲料の摂取は控えめにしたほうがよいといわれます。
温度はエアコンで調節されていますが、湿度は低めです。ほとんどの機体で湿度は約20%と低く、地上(30%前後)より喉も乾きやすいので、ついついお酒に手が伸びます。ただ、世界保健機関(WHO)の海外旅行と健康にまつわるレポートによれば、現状そうした低湿度が脱水を招くという明確なエビデンスはなく、普段以上にたくさん水分をとる必要はないとのこと。
もちろん、アルコールやカフェインはその利尿作用によって脱水症状を招く危険はあるので、とりすぎないのが賢明。また、頻繁にトイレに行きたくなると、ロングフライトでは睡眠の妨げにもなり、時差ボケの原因にもなると注意を喚起しています。
- 参考:World Health Organization 『International Travel and Health 2010: Situation As on 1 January 2010』
持ち込んだお酒を飲んでもいい?
機内に自分で持ち込んだお酒を飲んでもいいのでしょうか?
国内線の場合、物理的に缶ビールなどを持ち込むことはできますが、それを機内で飲んでよいかどうかは会社によって対応が違います。JALやANAなどフルサービスキャリアでは持ち込んだアルコールを飲むのは問題ありません。
LCCは対応がわかれるところ。ジェットスター・ジャパンとバニラ・エアは飲食物の持ち込みはできますが、アルコールに関しては持ち込んだものを飲むのはNG。一方、ピーチはアルコールも含めた飲み物、お弁当やお菓子を持ち込んで飲食が可能です。
実際、ピーチの乗客にはアルコールに限らず自分の好きな食べ物や飲み物を持ち込む人が少なくないそうで、客室乗務員もそういったお客様を見ると「お!旅慣れた人だな」と思い、「ご旅行ですか?」などと声をかけるきっかけになることもあるとか。また、商売上手な客室乗務員は、すかさずビールに合う機内食のお好み焼きやたこ焼をオススメすることもあるそうです。
国際線になると、また事情が変わってきます。2007年から液体物の持ち込みが制限されるようになりました。液体物は1つあたり100ml以下の容器に入れ、総量1リットル以下のジッパー付きの透明なプラスチック袋に入れる必要があり、1人1個まで。ちなみにアルコールに度数が70%を超えるものは、手荷物受託ともに不可。また、アルコールを持ち込む際は小売販売されている容器に収納されていることが条件で、スキットルなど水筒型の容器に入れ替えたものは不可です。
そうなると、実質的に機内に持ち込めるアルコールは免税品やウィスキー等のミニチュアボトルくらいしかありませんが、「乗客が持ち込んだアルコールは機内で飲んではいけない」と明確にうたっている航空会社が多いようです。というのも、機内では飲みすぎによるトラブルも少なくないから。国際線はフライト時間も長いうえ、アルコールサービスが無料のところも多いので、つい飲みすぎてしまうのでしょう。
国際航空運送協会(IATA)では2015年4月に機内で安全にアルコールを提供するためのガイダンス『Guidance on the Safe Service of Alcohol on Board』を発表しました。それによると、機内でのアルコールサービスに関する世界的な基準はまだなく、それぞれの国や航空会社のポリシーにゆだねられているのが現状。
同ガイダンスもあくまでひとつの指針であり、すべての航空会社に当てはまるものではないとし、各社で機内のアルコール提供に関してポリシーを定めることを薦めています。
アメリカではすでに連邦航空法によって、アルコールにまつわるトラブルの対応手順などを定めることが航空会社に求められています。また、オーストラリアでは客室乗務員を含め、アルコールを提供する職業の人はRSA(Responsible Service of Alcohol)という資格を取る必要があります。
こうした規定は、客室乗務員が乗客の様子を見ながら、適正な量のアルコールを提供できるようにし、乗客の泥酔を防ぐのが目的。もし、乗客が持ち込んだアルコールを自由に飲んでしまうと、客室乗務員は乗客の正確な飲酒量を把握できなくなってしまいます。
なお、血中のアルコール濃度は飲んだ30~60分後にピークを迎えるといわれているので、本来であれば搭乗前にラウンジや空港のレストランで飲んだお酒もチェックできるのが理想。とはいえそこまでの連携はまだ難しいようなので、各自が気を付けておきたいところです。
米系航空会社のエコノミークラス、「アルコール有料」は誤解!?
2002年ごろからアメリカ系の航空会社では、エコノミークラスにおけるアルコールの有料化が進みました。しかし最近では再び無料化に動いており、すでにアメリカン航空やデルタ航空ではビールやワインが無料に。
デルタ航空ではビールの銘柄にサントリー「ザ・プレミアム・モルツ」もラインナップされ好評を博しているほか、日本路線では日本酒と焼酎も無料で楽しめます。
ユナイテッド航空でも、2015年6月1日より、日本と米国本土などを結ぶ太平洋横断路線(成田-ホノルル路線も含む)などのエコノミークラスの機内食を刷新するのに伴い、対象路線でビールとワインが無料で提供されるようになっています。
食事と同じくらい楽しみな機内でのお酒。適度に飲んで楽しいフライトにしたいですね!