2016年4月24~27日、モントリオールで開催されたカナダ最大規模のトラベルマート「ランデブー・カナダ(RVC)2016」。モントリオール観光局のマーケティング担当副社長兼コミュニケーション担当部長を経て、2015年9月にカナダ観光局(DC)国際担当副社長に就任したエマニュエル・ルゴー氏と、11月にDC日本地区代表に就任した半藤将代氏に、DCの国際マーケティングと日本市場の戦略について聞いた。
好調に伴い、日本の2016年目標値は上方修正
2015年にカナダを訪れた外国人旅行者は年間1778万2949人と、前年比7.5%増と過去10年間で最も大きな増加率を記録した。カナダが重要マーケットに位置づける11カ国の旅行者数が軒並みプラス成長となったほか、外国人旅行者の約7割を占めるアメリカが8.3%増の1247万4500人、近年伸びが目覚ましい中国も8.8%増の49万3827人と好調に推移したことが大きい。
こうした追い風に乗り、RVC2016の会場で新たな目標が発表された。それは「2020年までに外国人観光客2000万人を目指す」というものだ。「この中で、日本人旅行者数の目標値は35万人に設定している」とルゴー氏は語る。
2015年は日本人旅行者数も好調な伸びを見せ、前年比6.4%増の27万5027人となった。当初、2016年の日本人旅行者数の目標は4%増の28万6000人とされていたが、この伸びに伴って6%増の29万1500人に引き上げられた。2016年1~2月も前年同期比14.7%増の2万8131人と、オフシーズンにあたる冬期にもかかわらず大きく数を伸ばしている。
コンテンツマーケティングの先駆けとなった日本の取り組み
「2017年の日本人旅行者誘致は30万人を目標としているが、引き続き好調に推移すれば、さらに上方修正もあり得る」として、日本市場の伸びの要因をルゴー氏はこう分析する。
「日本は他国に先駆けてコンテンツマーケティングにいち早く取り組み、これまでのカナダのイメージにとらわれない新しい素材やアイデアを旅行業界に提供した。その結果、従来にはない新たな商品開発が生まれ、消費者の動向にも影響を与えた」。
日本で行われたコンテンツマーケティングとは、2017年のカナダ建国150周年に向け、昨年5月に開設された総合ポータルサイト「カナダシアター」を指す。
「歩く」「人と共に生きる」「表現する」などの10のテーマに沿って、従来の観光の枠にとらわれず多彩な魅力や素材を紹介し、各素材のストーリーを伝えることを重視したDC日本オフィス独自の取り組みだ。
また、若い日本人女性がカナダを旅しながら魅力の原点を辿るオリジナルドラマ「MOSAIC-CANADA-(モザイク-カナダ-)」をイマジカBSと共同制作し、サイト上で動画配信も行っている。
ルゴー氏はこうした日本での取り組みを「イノベーター(革新者)」と呼び、高く評価する。「日本は、コンテンツやストーリーを重視したアプローチで、旅行者を増やした最初のマーケットと言える。その手法は他の重要マーケットで共有され、DC全体の取り組みにも影響を与えている」。
実際、RVCの記者会見や公開プレゼンテーションでも、「ストーリーテリング」「コンテンツマーケティング」といった言葉や、「ストーリーを通じてカナダの多様な魅力を発信しよう」といった呼びかけが多く聞かれた。
日本国内の観光地づくりの場面でも、「大事なのはストーリー作り」といった言葉をよく聞くが、エモーショナルな部分に訴えるマーケティングが重視されているのは、国を問わず世界的な潮流と言えそうだ。
「クール」なミレニアル・キャンペーンを日本でも今秋スタート予定
RVCの記者会見やプレゼンテーションでもう一つ、よく耳にしたのが「We are not cold,but cool」(カナダは寒いんじゃない、クールなんだ)というフレーズだ。
「海外マーケットの中でも特にアメリカでは『カナダイコール寒い』と考える人が多い。オフシーズンの冬期を積極的に売るだけではなく、そうしたイメージを変えたいという思いから、DCの中で半年ほど前から合い言葉のように使っている。アメリカだけでなく、他の海外マーケットに対しても思いは共通している」(ルゴー氏)。
「クールという言葉には楽しさや若さはもちろん、都市の魅力やアクティブなアウトドア体験、食や文化など、いろいろな意味が含まれている」とルゴー氏は語る。「この言葉をキーワードに、雄大な自然風景という従来からのイメージとはまた違う、カナダの新しいイメージを訴求していきたい」。
カナダ国内の若いミレニアル世代に対し、「クールなデスティネーション」としての訴求を行う具体的な取り組みも始まった。RVCの会場で、バーディッシュ・チャガー中小企業・観光大臣から概要が発表された「ファー&ワイド」キャンペーンだ。
DC日本オフィスではこのキャンペーンを日本の若年層向けに翻訳・アレンジし、今年の秋からのスタートを予定している。「日本のカナダ旅行者は2008~9年頃まではシニアが主流だったが、2013年の調査によると75%が55歳以下で占められる結果となった。近年、旅行者の年齢層が低下し、若年層へのシフトが起きている」と半藤氏は語る。
こうした流れに「カナダシアター」という取り組みのタイミングが合い、旅行者の若年化をさらに促進したとも考えられる。日本マーケットの若年層の増加に対し、ルゴー氏も今後の推移に期待を寄せる。
「日本では近年、若年層を中心にFIT旅行者が増えており、若い世代のカナダに対するイメージが変化していると感じる。そうした流れをさらに強化し、日本のマーケットに対しても『カナダはクールなデスティネーション』というイメージを打ち出していきたい」。
特派:井上理江